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【得点に込められた攻略法と強かさ】Arsenalマッチレビュー@PL第14節vsWolves(H)/23.12.3


試合前トピックス

・ホワイト契約延長間近、冨安も契約延長交渉中


マッチレポート

試合結果

ARS 2-1 WOL
6' サカ(冨安)
13' ウーデゴール(ジンチェンコ)
86' クーニャ(セメド)

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スターティングイレブン


試合トピックス

美しい2得点に含まれた3センター攻略の意図

 CLから中2日という短いスパンが明け今季も大物食いの色が見えるウルブズ戦。好調を継続する冨安はコンディションがほぼ戻りつつあるホワイトを退けて右SB出場を果たし、トロサールはまたもIHとしてスタメンを勝ち取った。対するウルブズは中盤の要レミナ&ゴメスがサスペンションで出場不可であり、強烈な個のネトも不在。単独で格上チームをも破壊できる馬力のあるネトまでもが居ないとなるとウルブズにとっては厳しい戦いになることが予想される。

 アーセナル優勢との見立てで始まった試合はそんな下馬評をも更に上回る素晴らしい滑り出しで幕を開ける。6分、密集地帯をリンクプレーで縫いサポートで中央に顔を出していた冨安からのリターンを受けたサカが股抜きから冷静にGKとの1vs1を制し開始早々の先制に成功する。

 更に13分。サカのクロスが流れたところをジンチェンコが拾ってジェズスへ、そのままに大外を抜け出しリターンを受け取って折り返し、ウーデゴールがCLでのゴールのようなダイレクトで合わせるシュートで追加点を挙げる。

 序盤にぽんぽんと連続で点を挙げ、単に前節CLでの大勝を自信にチーム全体のコンディションが上向きであるからと短絡的に調子の良さを説明することも出来るが、前半の高パフォーマンスはこの2得点の奪い方に集約されていたように思うので深堀ってみる。

 まずウルブズの守備陣形は基本3-5-2で静的に深く構えるというよりは2列目がアーセナルの後方ビルド隊に対して飛び出し牽制をかけ、両WGには同サイドのCBとWBがスライドによりダブルチェックをかける形。ポイントなのはサイドへスライドを行うと3センターも間を埋める為に動くのでどうしても中央のケアが薄くなる事。ここを異なるアプローチで効果的に突けたのが前述の2得点である。

 まず1点目に関しては、サカが大外でLWBブエノとLIHベルガルドの2人を引き付け、次に受けたジェズスがブエノのプレスバックとLCBゴメスを受けながらもポストに成功する。直後サカが内側へ侵入しCHドイルのチェックを受けたことを加味し、単純に頭数で考えるとこちらはサカとジェズスの2人に対してウルブズには4人もの守備リソースを割かせている。

 こうなると既に5-3ブロックを外側から切り崩していくという観点でサイド攻略において100点に近い動きをしているのだが、極めつけは冨安の攻撃サポート能力の高さである。通常サカが大外で起点を作ると、特にホワイトが出場している時顕著なオーバーラップによってサカへのマークを緩めてあげる動きが定番である。しかし今回の冨安は大外へ駆けつけるのではなく敢えて中央で待機していた。これによって大外からの突破可能性を上げる代わりに、ジェズスのポスト回収役&サカへのラストパス役というゴール直前の仕上げフェーズに貢献することが出来る。

 サカとジェズスの技術力は勿論のこと、サイドのケアにより中央にゴールへの道筋が生まれることを予期し先回りしていた冨安のサッカーセンスも相まって、ウルブズのアキレス腱である「スライドによる手薄なバイタル」を的確に最短ルートで狙い撃ちした素晴らしくデザインされた先制点であった。この場面に限らず、冨安はいよいよホワイト/ジンチェンコの両SBの牙城を崩すと感じる程に攻守両局面で光るサポート能力を見せた。

 次に2点目を見てみる。こちらは偶発的な部分もあるが、まず右からのクロスが逆サイドへ流れた事によって先程述べたスライドが発生する。そしてジンチェンコの良かったところはウルブズのケアが到達する前にダイレクトでジェズスに落とし、そのまま抜け出してスルーパスを受け取った事である。元シティ組の2人が息の合ったワンツーを繰り出す事で守備隊形の再編が行われる前にポケットを取る。あとは折り返し、キャプテンが復調の兆しを見せる見事なダイレクトシュートでゴール。代表ウィーク前後で怪我の影響もありアーセナル移籍以来初めてと言っていい程不調であった我らがキャプテンが、遂に完全復活を果たしたのではと感じさせるプレーに得点後も終始した。

 サイドに引き付け手薄な中央を突く「ロジック」で奪った先制点、一瞬の煌めきとヴェンゲル時代を彷彿とさせる美しい「パスワーク」で奪った追加点。中央のキーマンが居ないウルブズの泣き所を冷静に突けた事も含め、洞察力と機知に富んだ、今季のアーセナルの強かさが表れたゴールであった。そしてこの2局面に限らず、アーセナルは継続して左右に揺さぶり穴を作る働きかけをチーム一丸となって行えていた。

PL首位チームのスタメンがスタメンたる理由

 早々に2点を決めてもなおアーセナルに緩みは一切見えない。2人付かれても強引に突破しファールを獲得するマルティネッリに冨安が最近何度か見せる超絶ロングパスでの陣地回復、五分のボールをストロークの長い守備力を駆使し全てマイボールにするライス。上位陣が肉薄しているとはいえ、何故今のPLで首位なアーセナルのスタメンに選ばれるか、その理由をまざまざと見せつける締まったプレーでウルブズを封じ前半戦を戦い続ける。

 ただ唯一といっていい不安点がジンチェンコの守備強度。サイドで入れ替わられるシーンや自陣でロストするシーンが目に付いた。しかし前者はマルティネッリがパワフルなプレスバックでクーニャとの1vs1を制し、後者もウルブズのカウンター速度を上回る素早いリトリートで難を逃れる。トロサールもマルティネッリに引けを取らない献身的守備でジンチェンコの左サイドの守備力を担保し、攻撃時のタメを作る動きも良く冨安と似たような万能さを感じた。

 前半終わりごろにはヒチャンのポストに左サイドを抜け出したクーニャがドリブルで切り進むもガブリエルがなんとかシャットダウン。ミス以外では全くと言っていい程ピンチを招かず上出来すぎるスタートダッシュから前半を締めくくる。

 両チーム交代なしのハーフタイムが明け後半。前半の勢いそのままに攻撃面の迫力を維持する。ジェズス筆頭に前線に抜ける動きを行うおかげでライン間の間延びが生まれ逆サイドへの展開が成立するとともに、時間を与えられた両SBが持ち前の高サッカーIQを生かしたプレー選択が光り両WGも勝負をかけられるシーンが増える。彼らを起点としてサイド攻撃が生まれ、サカも前半のマルティネッリに負けじとチューニングを続け単独での突破成功数を稼いでいく。ライスの万能守備ももちろん健在だ。

決定力不足とバタつく終盤戦

 しかし63分のサラビアの投入、67分のジェズス→エンケティア交代あたりから雲行きが怪しくなる。アーセナル側はエンケティアやトロサールがどフリーの決定機を外し、守備強度も高く維持できずカウンターを食らうシーンが増える。対してウルブズはトランジションの回数が増えたことによって前線のポストが効き始め、クーニャやヒチャン、サイドの面々も抜け出しシュートを狙うシーンが増え、かなりバタついたラスト20分強となる。

 また冨安の負傷交代もかなりの痛手だった。交代直前、接触は確認されなかったが全グーナートラウマもののテディベア座りが突如始まり、ふくらはぎを抑えホワイトと交代。スタメンの座を半ば獲得したも同然の状況で長期離脱だけは避けたい。どうか軽傷であることを願う。

 それと個人的に今回のエンケティアには依然何度も感じた苛立ちを覚えた。特にあの怠慢プレスだけはいくらアカデミー組といえども擁護できない。ファーストプレスがおざなりになるとバックスに持ち運ばれ簡単に数的優位を作られる。終盤のピンチを招いた要因は幾分かエンケティアに拠るところが大きいだろう。

 そして86分には前半から怪しかったジンチェンコが遂に瓦解。一度ウルブズの攻撃をストップするが自陣ボックスでボールを晒し続けた結果奪われ、即座に決められる。サリバも411日ぶりとなるイエローにより果敢な守備が少々鳴りを潜め、ガブリエルが前半から圧倒的タイマン性能を誇っていた事だけが唯一の救いであった。

 ATも6分と長丁場。たまらずサカとウーデゴールを下げキヴィオルとジョルジーニョの投入で5-4-1の逃げ切り体制に切り替える。マルティネッリやジェズスといった運動量ある選手が居なくなりロングボールを回収できなくなっていった事、エンケティアとトロサールの決定機逸脱、エンケティアの腑抜けた守備など自ら尻すぼみなパフォーマンスをしてしまうが、最後には伝家の宝刀5バックで前半の貯金を何とか守り切り勝利。前半と後半で風向きが大きく変わった試合となった。


ゲーム総評

 繰り返しになるが前後半で全くと言っていい程テンション感の違う試合になった今節。それでも序盤~中盤でのアーセナルの攻守における支配力や強かさには目を見張るものがあったし、今季のPLにおいて初の3連勝。最後こそハラハラドキドキするゲーム展開に巻き込まれてしまったが、そこに至るまでの戦い方は間違いなく誇れるものである。

 だがそれと同時に今節はやはり前線の決定力不足を痛感する事になってしまった。特に後半、復調気味のウーデゴールが見事なラストパスを何度も通していたのに前線のメンバーはどうしても決めきれず。ここで3、4点目と決めておけばウルブズの息の根を止められていただろう。ジェズスもCLでこそ4戦4発と爆発中だがPLではそこまでといった印象。優勝を本気で争うのならば冬にでも得点力のあるストライカーを獲得するべきではなかろうか。

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