【シティ相手に歴史的勝利】Arsenalマッチレビュー@PL第8節vsMan City(H)/23.10.09
試合前トピックス
・イングランド代表メンバー発表
→ラムズデール、サカ、ライス、エンケティア選出
・サカ、マルティネッリ、そしていよいよトーマスがセレクションに復帰か
マッチレポート
試合結果
ハイライト映像
スターティングイレブン
試合トピックス
ベルナルドのアンカー起用とアーセナルの静的守備
遡れば2020年FA杯準決勝以来勝利がなく、プレミアリーグに限ると12連敗中。アルテタ政権下では唯一勝利していない対マンチェスターシティ。悲しいかな、最早周知の事実となっていることだがアーセナルはことシティ戦にめっぽう弱い。そして追い打ちをかけるかのようにサカのスカッド不在。マルティネッリとトーマスがベンチ復帰を果たしたものの非常に苦しい戦いが予想された。
そんな試合前から雲行きの怪しいゲームであったが、前半戦は見所満載の素晴らしいゲームだった。
まずシティは大一番のペップ特有の奇策が発動。それはサスペンションで不在のロドリに代わってベルナルドがアンカーに入るもの。その脇をIHコヴァチッチとリコルイスが固める形で保持の構えを構築した。
これはおそらくアーセナルお得意のハイプレス対策だろう。CBやSBにボールが入るとウーデゴールやサカ、ライス等が次々に食いついていくハイプレスに対して、後方2-3ビルドアップを形成することで出口を増やし脱出の糸口を沢山用意した。
だがこれに対しアルテタ側もシティ対策を用意していた。それはシティが予期していたハイプレスの封印だ。非保持では4-4-2ブロックを構築し我慢して食いつかず、シティが差した楔を咎める方向性に舵を切りコンパクトな陣形を保つことを基本としていた。この判断はペップにとっても我々サポーターにとっても驚きの守備戦術だった。今までハイプレスからいくつものショートカウンターを発動しゴールを奪ってきただけに、大一番で自らのアイデンティティを一つ封印する決断は難しかっただろうが、これが見事にハマっていた。
まず先に述べたシティの後方2-3ビルドアップはアーセナルが食いついてくることが前提にあるもの。間延びし空いた中盤でハーランドのポストや中央へ侵入し反転が得意なフォーデンの生むカオスによってミドルサード攻略を狙っていただけに、アーセナルのリトリートに対して後ろに人数をかけるのは無駄が多く楔を打ち込めずにいたため攻撃の停滞感は否めなかった。
こうして保持では打開の糸口が一旦見えないシティは前半の中腹あたりからハーランドという明確なターゲットに放り込んで前進を図るも、ここはサリバとガブリエルがきっちり閉じる。一度ネガトラからサリバとハーランドの1vs1が発生しかけたが、抜けたボールを追う2人のフィジカル勝負をサリバが制しハーランドをはっ倒す名場面も。こうして試合序盤の攻防は一枚上手の采配を行ったアルテタアーセナルが主導権を握ることになった。
押し込みと非保持で違いを見せる4人
そしてもう一つ。アーセナルの保持の時間が増えるにつれて、ジンチェンコと久々の出場となったジョルジーニョが大きな存在感を発揮したことも優勢を保つ上で大きな追い風となった。特にトランジション時の強度が不安視される両者であるがそういった場面はなく、むしろ押し込んだ際のゲームメイク力を遺憾なく発揮し起用するリスク以上のリターンを生んでいた。彼らの弱点を上手く隠しながら、ミドル/アタッキングサードでアクセントを加える重要な要素として攻撃の旗手となった。
また非保持ではライスとジェズスが別格。前者は言わずもがなの守備強度で、ゴール寸前のボールを頭で掻き出しファールを恐れない深いタックルでピンチを摘む。試合全体を通してスタミナ切れを起こすことなく奔走していた。
フルで活躍し続けたという点ではジェズスも同様で、サカ不在で凄みが薄まることが懸念された右サイドで彼なりの良さを発揮することが出来ていた。ホワイトとのオーバーラップの連携面では少々嚙み合わない部分はあれど、特に陣地回復のキープ力とタメを作るドリブルは一級品。対面のクヴァルディオルを1vs1でどうこうしようというよりも、周りを巻き込んでの多対多というフィールドに引きこんでのチャンス創出が試合を通して見られた。
先に述べたサリバ含め彼らの尽力もあり、アーセナルはミドルサードで敵陣侵入を伺う時間を多く確保。ゴールの期待値という点においてはほぼ互角、なんなら少し上回るほどの出来を見せた。
風向きの変わる後半
試合序盤はアーセナルが優勢なものの決してシティにチャンスが無い訳ではない。左WGフォーデンが切り込み引き付けたホワイトの居たスペースにクヴァルディオルが侵入してゴールに迫るなど、戦術が刺さらないならと選手の連携単位でブロック攻略に取り組む。またラヤが前半ランス戦の失点シーンを彷彿とさせるミスキックを連発し、アルバレスのカバーシャドウから惜しくもゴールというシーンも。コヴァチッチの不用意な2連続足裏スライディングが幸運にも(怒)イエローで済んだ事も救いだっただろう。
だがこれに負けじとアルテタは後半更に手を打った。それは封印していたハイプレスの一時的な解禁とマルティネッリの復帰だ。
結論から先に言うとハイプレスの解禁に関しては一長一短の効力。確かに果敢なプレスは、リトリートしてくるという45分で作り上げたシティサイドの認識の裏をかいて慌てさせた場面もあったが、逆にひっくり返され何度かピンチを招いた。加えてインテンシティが高くなることによってオープンな時間帯が増え、ウーデゴールと連動せず目につくエディの怠慢プレスも重なりシティの時間を作らせてしまったことはかなりの痛手。デブライネという稀代のゴール演出家が不在でシュートまで持っていかせなかったのはアーセナルにとって不幸中の幸いであった。
ただ流れがシティに傾きそうな展開があれどブランクを感じさせないマルティネッリの投入によるエンジンの追加でアーセナル側のクオリティも負けじと増していく。縦への推進力とラインの押し下げというトロサールとはまた違った明確な武器で左サイドが活性化されゴールにより直線的に向かうシーンが増えた。
危ないプレー選択が散見されたラヤも汚名返上と言わんばかりのフィードでジェズスへ預け、危険な場面もライスのクリーンなタックルと両CBの鉄壁で通行止め。前半同様に両者がハイレベルに睨み合う上位対決らしい締まった構図だが、コンスタントにゴールに迫る分またもアーセナル側が少し有利といった印象で後半は進んでいった。
激しい采配バトル&This is "Impacter"!!!
そんな後半のターニングポイントとなったのは両者の交代策。まず決め手に欠けるシティは単独で敵陣を破壊できるドクの投入を行う。ジンチェンコが最初のマッチアップで潰し切れたのは良かったものの、ハーランド同様にボールを持てばアーセナルの左サイドで脅威となっていた。
これに対しアルテタは待ってましたと言わんばかりの後出しカードを切る。ジンチェンコを冨安に代え、ハヴァーツで守備強度を担保し、復帰したトーマスでビルドアップの後押しを図る。ここまでプレッシャーに晒され続けながらも自分の役割を全うしたジョルジーニョとジンチェンコには拍手を送りたい。
それならばとペップも冨安対策を行う。冨安相手だと五分五分、もしくは分が悪いと判断したペップは早々にドクを左WGへ置き疲労がたまるホワイトに当てた。
だがペップの誤算、あるいはアルテタがペップを上回っていた点は大きく分けて2点。ホワイトの過小評価とドクコンバート後の冨安の動きであった。まず前者に関してはホワイトが思っていたよりも動けるという、単純かつシンプルな理由でドクを封殺することに成功していた。保持でもドクのプレスに対し疲れを感じさせない華麗ないなしで処理する様子を見せ、思わず溜め息が漏れるようなパフォーマンスだった。
そして、攻撃面ではどこか物足りず守備能力の高いといった特徴を持つ冨安はドクが居なくなったことにより本来腐るはずであったが、低く留まることなく左IHのようなポジショニングを取り前線へと駆り出されたのだ。ジンチェンコが居なくなった分チーム全体としてのパスの出し手の迫力が落ちた側面はあったのだが、その分使われる側の動きを全うしマルティネッリのプレーエリアを広げる成果を上げることに集中。いけると判断した際には前線からの守備も積極的にも参加し、神出鬼没な貢献で最後の一押しが足りないアーセナルの一助となっていた。
そんな冨安、それと後半から投入されたマルティネッリ/トーマス/ハヴァーツの4人が、コンスタントにチャンスを作れど得点が生まれない試合終了間際に意地でゴールをこじ開けて見せる。86分、中央で余裕を持ったトーマスから前線へフィード。本来居るはずのない冨安が最前線へ走り込みディアスを背負いながらハヴァーツへポスト。シュートを狙うも体勢的に無理と判断したハヴァーツが2人が引き付けて生んだバイタルのスペースで待つマルティネッリへアシスト。ファーへ狙った強烈なシュートはアケにディフレクトしエデルソンの飛ぶ反対方向へと向かいゴールネットを突き刺した。
前回シティと対戦した際には痛恨のバックパスミスから失点の原因を作ってしまった冨安、加入後良いところもあれど燻り続け前節のPKから逆襲の狼煙を上げたばかりのハヴァーツ、帰ってきたアーセナルの主砲マルティネッリ。チームの心臓であるトーマスから始まりこの3人がただの1点以上の価値ある決勝点を決めた。アルテタが常々話す"Impacter"とはまさにこのことだ。
その後もロングボールが収まりまくるハヴァーツが時間を稼ぎ、無尽蔵のスタミナで潰し続けるライスがシティの攻撃を遮断し、最後の最後までウーデゴールが全力プレスをかけ続ける。自分達らしい見せ場をあまり作れず、逆転困難な時間帯での失点で最早お手上げといったシティの様子が垣間見えたところで、アーセナルの勝利を告げるホイッスルが高らかに吹かれた。
ゲーム総評
なんとメモリアルな夜になったのだろうか。サカというアーセナル1の武器が欠けていても、昨季より派手なスタートダッシュが切れていなくても、したたかな強さを身に着けたアーセナルが盤石な試合運びを行い復帰マルティネッリ弾で見事勝ち切ることに成功した。
何よりも、撃ち合いの中で偶然拾った勝ち点という訳でもなければ、ボールを持つことを完全に放棄して耐え忍び掴んだという訳でもなく、相手の強みを理解し封じ込み、選手たちがそれぞれ自分に求められた役割を全うしてチーム一丸となった結果の勝利ということが何よりも嬉しい。シティはシュート企図4本枠内1本というペップの監督キャリアにおいて最低の記録で、後半に至っては企図1本という素晴らしい守備。そしてシティのお株を奪う押し込む保持でボールを握りブロック外からの飛び道具できちんと仕留める多彩な攻撃。ケチのつけようがない内容で宿敵シティに2018年12月以来となるリーグ連敗というプレゼントを贈ることになった。
PLは一旦中断しこのまま2週間の代表ウィークに突入、次節はリーグでvsチェルシーだ。彼らは今復活の兆しを見せているものの今のシティを倒したアーセナルならばそう難しくない試合だろう。怪我で招集を免れたサカとサリバ(足先の負傷を負いながらハーランドと戦っていたという試合後のとんでもない情報が)含め各々しっかりと休養を取り、今節得た自信と経験を生かしまた戦い抜いて欲しい。本当にありがとうアーセナル。グーナーで良かったと心から思う。
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