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短編小説まとめ

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短編と掌編をまとめました。
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#青ブラ文学部

【掌編】『出さない手紙』

 お元気ですか。僕は、まあまあ元気です。  人間、嫌なこと、思い出したくないことは自然と忘れるようにできているらしいです。それはどうも本当らしいというのを今、実感しています。なぜなら、君から別れを告げられたあの日あの時の記憶は、ほとんど無くなっているからです。  断片的に残る記憶は、ほとんど降りたことの無い馴染みの薄い駅に呼び出されたこと。悲しいほど無表情で淡々と話す君のこと。帰りの切符を一人で買って放心状態で帰ったこと。もう、どこの駅だったかも覚えていません。  幸か

【掌編】『若葉の頃は』

 静寂を破る放屁の音が部屋中に響きわたった。 ◇  あいつは元カノのくせに休みになると時々やってきては面白かった出来事や時には仕事の愚痴を吐き出して帰って行く。こんな関係も長くなると以前の恋人時代と変わっていないような気がしてくる。周りも違和感なく見ているようで、それも考えてみると変な話だ。  僕はと言うと、自分の思い描いた通りにならないことだらけでイライラした気分の捌け口を探していたのかも知れない。生活の為と割り切って勤め出したが、苦痛でしかない。書きたいと思っている