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短編小説まとめ

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短編と掌編をまとめました。
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2023年2月の記事一覧

【ショートショート】『ヘルプ商店街』

高校時代の通学路を歩いた。当時は自転車通学だったので人通りが多い時間は商店街を避けていたけれど今やシャッター街だ。 学校帰りに時々寄っていたレコード屋ももう無い。でも、そこを通り掛るとある人を思い出す。レコード屋で時々見かける女の子がいた。彼女がきっかけで洋楽でも歌詞を読むようになったのだった。同じ高校なのはわかっていた。いつもお互い一人だった。 高三になって同じクラスになり名前を知った。レコード屋で思いがけず声を掛けられた。 「どんなの聴くの?」 彼女はいつも洋楽コ

【掌編】『まぼろしの灯台』

地の果てに行きたいとあなたが言うから ここにきたのです 同じこの島国に生まれて育って それでも知らないでしょう この島の北東端は いつも霧が深くて先が見通せないのです 岬の先端まで広がる野原には馬が放牧されています それも霧で見えないのです 目の前の道をただまっすぐ行くと 真っ白な灯台がぼうっと浮かび上がるように 現れます そこにあることを知っていても それはいきなり目の前に現れるのです この灯台は戦争で一度破壊されました 修復される前の動かないはずの灯台から それ

【掌編】『狐日和』

実家に帰ったときに偶々置いてあった 狐のぬいぐるみを見つけ 車の助手席に乗せて帰ってきた 座席に腹ばいになってぺたっと乗っかっている 少し気がまぎれそうな気がした あいつにフラれてから そこは空席のままだったから あいかわらず勝手気ままな元カノを 自認するあいつは こっちの都合などおかまいなしにやってくる 今日は天気がいいからと クッションを探しに郊外のアウトレットまで ドライブに引っ張り出された ランチが美味しかったのかご機嫌で 帰りの道中ずっと狐をあやすように 膝に

【ショートショート】『ネコクインテット』

文化祭の三日前、校内は準備を進める生徒たちでごった返していた。 向こうからラッパの剛がやってくるのが見えた。目が合うとニヤッとしながら腹にパンチを見舞ってきた。もちろん軽いおふざけだ。 「ネコちゃんが探してたよ」 「ホントに出んのかよ」 「ああ、ネコちゃんピアノで俺がラッパまでは決まってる」 文化祭のメインイベント「バンド合戦」に出ようと誘われていた。高校生活も最後だから絶対に出るとネコちゃんが息巻いていたのは知っていた。 クラスに戻るとすぐにネコちゃんはやってきた。