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短編小説まとめ

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短編と掌編をまとめました。
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2022年3月の記事一覧

【掌編】『モノクローム』

融け残った雪が日陰を疎らな白にしていた 午後の散歩から帰りコーヒーを淹れながら アイリッシュコーヒーにしようと思いつく コーヒーに砂糖を入れ アイリッシュウイスキーを注ぎ 仕上げに生クリームをたっぷり浮かべる ◆  ◇  ◆ 黒猫を抱いたリカが窓際の椅子に座っている 白い靴下と黒猫のコントラスト ひらひらのスカートから覗く心配なほど細い脚は 膝頭が内側に向いて綺麗なラインを描いている じっと抱かれたままなのに珍しくご機嫌な黒猫は 顎を撫でられて喉をならしている リカの

【掌編】『待合室にて』

 ほんの少し前にこんな光景があったな。病院の待合室に由香里と二人で座っていると時間が少し戻った気がした。  その日、夕食が終わった少し後に妻が腹痛を訴えた。少し休んでいたが、どうもただの一過性の腹痛とは違うようだった。額に脂汗が滲んで光っていた。車を出そうにも、もう酒を飲んでいた。  気が動転していたのは確かだった。それでも由香里に電話したのは冷静に考えた結果だった。すぐに来てくれて妻の様子を伺うと素早く最寄りの救急外来のある病院へ連絡を入れた。それから妻と僕を車に乗せる