ルーブル美術館、すずめの戸締まり(5/14/2023)
パリ二日目は一日中ルーブル美術館。パリに来るのは三度目だけど毎回何かの用事に引っ掛けて訪れている。今回もそんな感じだけど、三泊もするのは初めてなので、可能な限り美術館巡りに時間を充てる予定。
ルーブル美術館ではモナ・リザや民衆を導く自由の女神とか定番どころを見ながら全体をざっと回った。各部屋にどの美術館でも主役級を張るような作品があり、さすがルーブルと感心したけど、宗教画が多めだったので、個人的にはオルセー美術館のような印象派の絵が多い美術館の方が好きだなと思った。宗教画の勉強直後の鑑賞はかなり楽しかったのだけど、結局同じような構図や解釈が多く飽きてきてしまった。これは、宗教画が当時果たしてきた役割がある以上一定程度パターン化するのは仕方ない。これ以上楽しむためにはもっと勉強するべきだけど、そこまで時間は取れそうにないため、個人的な趣向はもう少し現代的な美術を直観的に楽しむ方向に変わってきている。
パリを歩いていて思ったのが、イギリスに比べて日本関係のお店がとても多いことだ。日本のアニメ、特に進撃の巨人とかはフランスで大人気と聞いていたけど、アニメだけでなく日本料理とかも人気で、日本の文化が受け入れられていることを知り嬉しかった。そんな中『すずめの戸締まり』の感想を何か残さなきゃとずっと思っていたのと、ちょうどホテルで時間ができたので書いてみる。
新海誠作品は『ほしのこえ』からしっかりと見てきたので、それなりに古参だと思っているけど、『すずめの戸締まり』は個人的にも最高傑作だったと思うし、これを見て偉そうにも日本はまだまだ大丈夫だなと少し安心した。ただただ新海さんの尋常ならざる覚悟に圧倒された作品だった。『君の名は。』と『天気の子』を通じて文字通り世界的な映画監督となり、彼の作品は公開されればかなりの人数が映画館に訪れることが約束されている。そんな強力な影響力のある彼があえて3.11を正面から取り扱った映画を今この時代に作ったことの意義はものすごく大きいと思う。3.11 が起きたとき私は大学生だったけど、あれから10年以上経ち恥ずかしながら、その記憶は風化しつつあった。そういった人たちがおそらく日本中で増えてきたところで、新海さんはその記憶を風化させないように、その影響力をある意味では行使して、日本だけでなく世界中でこの記憶を思い出させた。そして、それは押しつけがましい説教臭いストーリーで表現されるのではなく、うまい具合にエンターテイメントとして昇華されていた。これまで何らかの事件や惨劇をアニメやドキュメンタリーという形で説教臭く語る作品は色々あった。それらは意識的に説教臭さを感じたい人にとっては見られるものではあるけど、そういったものに関心のない人にとっては見られない。そういった関心のない人にこそ見られるべきであるのにもかかわらず。一方で、『すずめの戸締まり』はエンターテイメント作品として超一流の出来になっているので、広く大衆に見られる作品となっている。事実日本だけでなく、中国、韓国、アメリカとヒットしていることからもそれは明らかだろう。内容がかなりセンシティブであったため、様々な批判が生じる可能性はあった。それにもかかわらず、新海さんはこのような作品を世の中に生み出し、実際に被災した方のこれまでの生活をすずめの成長物語を通じて全力で肯定し、私を含め芹澤のような人たちに震災の記憶を呼び起こし、また、日本の風景をとても美しい映像として描くことでもって逆説的に将来発生し得るであろう震災に備える意識を持たせてくれた。
そしてこれは新海さんだけが作った作品ではなく、アニメーター、プロダクション、配給会社、声優の方々と無数の関係者が死力を尽くして残したものであり、エンドロールで無数の方々がこの作品を作る決意をして、それを実行しきったことの背景を感じ取って、不覚にも号泣してしまった。そして、このような人たちが無数に存在している日本はまだまだ大丈夫なんだろうと思った。
『すずめの戸締まり』は最高傑作であり、とても好きな作品だ。この作品のおかげでしばらくは3.11の記憶は風化しないだろうし、新海さんがいてくれたことに感謝しよう。一方で、世界のほとんどの悲劇はこのような形で運よく記録に残るとは限らないという問題も感じた。おそらく今起こっているスーダンの武力衝突やコンゴ民主共和国での紛争が似たような形で記録に残ることはないだろうし、他にも無数の凄惨な事件は日々発生している。こうした記憶にも記録にも残らないであろう悲劇に対して正面から向き合って、できる範囲で手助けをしていかなければならないんだろう。人に知られないけど重要である閉じ師の仕事と同じように。
午前午後
ルーブル美術館
街の散策
英語はこれから少しやる
明日やること
オランジュリー美術館
リュクサンブール公園散策
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