この夏のホラーバケーション
最近読んだ・見たホラー作品の覚書。
もともと「ひぐらしのなく頃に」でモキュメンタリー的な描写に衝撃を受け、以来モキュメンタリーに近い形式が好きなのですが、キャパオーバーでなかなか新作を追うことができておらず、近頃大変豊作だという事実に周回遅れで気付きまして、今せっせと読んでいます。
人生、楽しいことがまだまだあるもんですね。
小説
「近畿地方のある場所について」
夏の始まりに、あまりにも忙しすぎて暇だったときに読みました。
カクヨムで読み始めたらあまりにも面白すぎて、その日のうちに書籍を買い、袋とじの画像が強烈すぎて眠れなくなりました。(どうも違和感の強い画像に弱い)
一見関係ない話が寄り集まって、モンタージュ写真のようにひとつの怪異を成していく2chホラーの醍醐味が見事に表現されていて素晴らしかったです。
個人的に、山にいる何かと山を切り開いた団地でおかしなことが続くというモチーフに、山怖スレの雷鳥一号さんの「幽霊マンションシリーズ」を思い出しました。そのほかにも「ヒサルキ」や「邪視」などを思い出すような感じで、全体的に2chホラーの味がして、実家のような安心感(?)でいただきました。
実況スレとかも懐かしいですね。
「かわいそ笑」
結局行けなかったのですが、「行方不明展」の制作に携わっている梨さんの一作目として手に取りました。
結果、のたうち回りました。
いやっ!!あの!!!!あのゼロ年代の同人携帯サイトの再現クオリティの高さなに!!!!!!!!!!!!あったよ!!!!!当時はまだTwitterとかなかったから、ろくすっぽ書いてないオリジナル作品のあとがきで今後の設定の話とかすごい自分語りしてしまうのとかあったよ!!!!!!!!魔法のiランドとかフォレストの小説機能をああいう風にブログの代わりに使ってる人いたよ!!!!!!!しかもなんだ!!!!あのちょっと背伸びした覚えたての語彙のふわふわ感とか!!!!!身に覚えがありすぎる!!!!!!!!!ころしてくれ!!!!!!!!!!!!
といった具合に、直撃世代として、まさにゼロ年代当時に携帯同人サイト運営者として知り合った友人たちにこの恐怖を伝えて回ってしまいました。
梨さん、やってたのか……?携帯同人サイトを……?
本作はスマホを使うギミックが色々と仕込まれていて、チャレンジングで面白かったですね。読み手が巻き込まれていく系のホラーは色々ありますが、本作ではちょっと角度がついていて面白かったです。
あと、かつてネットはあんまり広くなくて、制作者が消さない限り永遠にそこに廃墟のようなホームページが残り続けると思われていたのに、レンタルサーバーのサービスの終了で古のホームページがごそっと消えたり、ネット人口が極端に増えて、それに伴ってそこにある気がするけども目が届かない場所のようなものが体感的に増えていて、その死角に伝承が入り込む余地が生まれているんだなあということ体感出来て楽しかったです。
「ほねがらみ」
書店に「かわいそ笑」を買いに行ったら隣にあり、そういえばこのタイトル、ホラーコンテンツおすすめ系アカウントのポストで見覚えがあるなと思って購入。
2chホラーの連作に近い雰囲気の短編集、ネット文化黎明期における人間模様の怖い話ときて、本作はもう少し塊で読める民俗学的な情報を軸に浮かび上がっていくホラーで、こちらもなかなか良かったです。
本作では主人公が明確におり、彼のロジカルな交通整理に耳を傾ける形で進行していくのですが、その主人公の周りで割とバンバンおかしなことが起きていくので、映像にしたときに映えそうでした。
中盤の演出は割と見る手法でありながらも、物量がすごすぎて、終わらないかもしれない不安感を味わうことができました。
「変な家」「変な家2」
今更読みました。いえ、正確にはオモコロで出だしだけ読んではいたのですが、本には触れられていませんでした。
ネットの評判でちょっと知ってはいたのですが、改めて、小説を読み慣れていない人向けの工夫にとても感心しました。
本をある程度読み慣れている人間でも、位置関係の説明を理解するのに時間がかかるなんてことは珍しくない話だと思いますが、そこを解決するのにガンガン図を使うというのは、なんというか、それでいいじゃんか、という気持ちになりました。
登場する謎がそんなに玄人向けではないのは確かですが、ちゃんとひっくり返すポイントもあり、楽しめましたね。
画像が挿入しやすいブログ形式でまず制作されたこと、そして、雨穴さんがみくのしんさんを身近に考えていたからこそ発生したいい企画だと思います。とても勉強になりました。
本作は本文の中で謎を解くことが促されており、ホラーだけでなく、推理ものの要素も含まれています。
講談社がやっている「ハンドレッドノート」も、推理小説の読み方がわからなくたって、推理ものというジャンルへの動線は敷けるという企画意図がありそうですが、こういう間口の広げ方は応援したいです。
映像作品
「イシナガキクエをさがしています」
ホラーコンテンツおすすめ系アカウントがざわついていたのは記憶にあって、Youtubeに上がっていたことに気付いて一気見しました。
演出で入ってる寺内さんは「心霊マスターテープ」がツボです。
え~~~めっちゃいいモン見ましたね~~!!
リアルタイムでテレビで見たかったですね、これは。
私自身は、行方不明者を探す番組のフォーマットがうっすら記憶に残っているくらいの世代なのですが、それでも確かにこの緊迫感に覚えがあるな、と質感を懐かしんでいました。
個人的に、ぼやけたイシナガキクエの写真をAIで復元する下りに結構ドキッとしました。ピントが合うってホラーにおいてはやっちゃダメな行為ランキング上位常連じゃないですか。やっていいんかそれ。
後追いなのでTVerで配信された4本目まで通しで見たのですが、ちゃんとストーリーとして解決を見る構成が丁寧でよかったですね。
ジャンプスケアもなかったし、これは初心者にも勧めやすいです。
フェイクドキュメンタリーQ
こちらもまた寺内さん絡みで気になっており、チャンネルには辿り着いていたのですが、「イシナガキクエ」を先に見つけてしまったので、そのあとに見ました。
お、おもしれ~~~~~~!!!!!!!
私、モキュメンタリーも好きなんですが、異様さに気付いた瞬間に自分が立っていた地面が信じられなくなるような気色悪いホラーが大好きなんですよね!!!謎が明かされなくて脳に負荷がかかる感覚も堪らない!!!!!
そんな上質な短編ホラー映像がこれでもかと見られる、フェイクドキュメンタリーQ、私へのご褒美かな?
実は書籍の方を先に買ってちょっと読み始めていたのですが、半分くらい読み進めたところで、これは先に動画見るべきだなと気付いて動画の方を見始めたのですが、「光の聖域」とか動画が先だとちびっちゃいそうだったので、先に本読んでおいてよかったかもしれない。
本の追加情報があって不気味さが完成するところは、追加情報で逃げ場がなくなっていくモキュメンタリーとしての味が強くなっていてとてもいい書籍化でしたね。
動画は基本的にジャンプスケアやはったりの利いた怖い画像もなくて、じっくりぞわぞわ出来てよかったです。
ただ、ちょっと考えたり、考察コメント見ないと動画の異様さの半分しか立ち上がってこない作品もそこそこあるので、「イシナガキクエ」よりは難易度高めな印象ですね。
個人的にはヒトコワだと思っていたら、徐々に違うものに変質していく「隠しリンク」がお気に入りです。「キムラヒサコ」はズルでしょ。
全体として、各話ごとに別の角度からの気色悪さを持ってきつつ、シーズン通してみると何となく全体を通したテーマが浮かびそうで、しかし断定はできず、でもそう見えてしまうシミュラクラ現象のような作品群で、実はそこにまた、この誰しもが映像を撮り、発信し、それを日常的に消費しては忘れ去っていくこと、そしてそこにフェイクが混ざることが当たり前の時代におけるホラーとエンタメ作品に対するクエスチョンの意図があるモザイク画かもしれないということも考えてしまう、そんな複層的な楽しみ方ができる素晴らしい作品だなと思っています。
いや~~~シーズン2の続きも楽しみですね。
フェイクが混ざる日常については、小島監督の鋭いコメントを見てハッとさせられたので引用しておきます。
20年以上前にこの現実こそがフィクションであると指摘し、それをプレイヤーに体験させるゲームを作りあげた人だからこそですね。
おしまい
いや~~~面白い!!最近のホラー面白いですね~~!!
以前から、明らかにフィクションっぽいけど、リアルの皮を被っているタイプのホラーの面白さの本質は、それが実際に起こったかどうかはあまり関係なく、読み手に実際の感情を引き出すことができるものであれば十分なのでは?むしろ、それが実際に起きたかどうかを争点になってしまうのはノイズかも?と思っていたのですが、今の流行の作品は「これは本当にあったことです」という前置きで勝負せず、日常の質感や話の構造で読者を巻き取っていく、そんな感じの作品が多くて、大変ホクホクしております。
(もちろん、実話怪談や心霊検証系の動画も、それはそれで不気味で大変良いものです。あちらは当事者であることを前提として楽しめるのがいいところです。また、フェイクをわざわざ謳わない普通のフィクション色が強いホラーもいいものです。みんなちがってみんないい)
梨さんの他の書籍や、背筋さんの新刊(発売日に買ったのにまだお読めてないです)、「禍」、SCP財団、大森さんが仕掛けた他の作品、ゾゾゾなど、噂には聞きますがまだ手を付けられていない作品がいっぱいあるので、ちまちま味わっていこうと思います。
あと、映画もね。
余談:舞台「うみねこのなく頃に」とフェイクドキュメンタリーQ
ここ2年ほど、ゼロ年代の同人ノベルゲームの代表作のひとつ、「うみねこのなく頃に」が舞台化しておりまして、好評を博しています。原作ファンの私も大変満足できる出来で、ありがたいことに次の幕が上がるのを毎回楽しみに過ごすことが出来ています。
ご存知の方には知れた話ですが、「うみねこのなく頃に」はフェイクを織り交ぜて語られる物語をどこまで、何を信じるのか?が争点になる物語です。プレイヤーはフェイクをフェイクと断じつつも、考察を重ね、真実とは何なのか、そこに込められた真意とは何なのかを探ることを要求されます。
そして、その先で、もしかしたら自身もフェイクの作り手になるやも?という可能性が提示されたりもする、そんなお話です。
フェイクドキュメンタリーQの展開や考察の流れを見て、個人的に「うみねこ」と似た感触を得たのは時代がそうなったからなのかもしれません。
2016年にポスト・トゥルースという言葉が生まれ、コロナ下でSNSに色んな人が増えて、生成系AIの登場で「日本語の壁」が壊れ、今や日本語圏のネット上でも、日常的に日本語が怪しいフェイクの投稿や広告を見かけます。
小島監督が指摘するようにフェイクと日常の距離感が変わった現代において、ホラーやゲームのように受け手との距離感に自覚的なジャンルにおいて、その関係性が変化するのは必然なのかもしれません。
そんな時代に、フェイクをフェイクとして自覚的に扱いつつも、その本質的なところにクエスチョンを出しつつ楽しませてくれる「フェイクドキュメンタリーQ」や「うみねこのなく頃に」は、ひとつ生々しい手触りを残してくれるのではないのかな~と思いました。
つまりだ、今摂取する「うみねこのなく頃に」はいいぞ。