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調査の現場③:グローバルスタディーズ学科

セネガルでの海外ショートフィールドワークを終え、カメルーンのヤウンデ市に移動し、3日間という短い間でしたが、「サニテーション」についての調査を行いました。サニテーションとは、日本語で「衛生」という意味で、SDGsのゴール6で取り上げられているように、国際的にも多くの問題を含んだ領域です。私は、2018年以来、特に「トイレ」と排泄物の再利用に着目して研究を進めていますが、今回は非常に短期間であったため、特にヤウンデ市で前回(2020年2月)まで行った調査を再開させるための準備調査と位置付けました。

カメルーンの首都、ヤウンデ市は約400万人の人口を有するカメルーン第2の都市で、標高750mの高原にある、起伏の多い街です(トップの写真)。いわゆる富裕層が住む地区を「山の手」と呼びますが、ヤウンデでも、高いところにはお金持ちが住み、谷間には貧しい人たちが住みます。そして、上から下に流れる水に乗って、ゴミや生活排水が大量に谷間に流れ込み、低所得者層の居住地に集積していきます(写真1)。こうした街区を、「ビドン・ビル(ボトルの街)」と呼びます。

写真1:ビドン・ビルの谷間にたまるゴミ(撮影日:2022年9月)

もちろん、こうした街区の衛生状態が良いわけがありません。蚊を媒介とするマラリアなどの病気、衛生上の問題から起こる腹痛などはこの地域では頻繁に起こる疾病です。私たちなら、すぐに行政に改善を訴えることでしょう。カメルーンでもそうなのですが、財政的に厳しい地方自治体は、すぐに対応することができません。一方で、ビドン・ビルの住民にも日々の暮らしがあり、いつになるかわからない行政の対応を待っているわけにはいきません。こうした状況に置かれた人びとは、自分たちで何らかのアクションを起こしているはず。これまでの経験から、そんな確信に近い感覚を持ちながら、調査を進めてきました。

一般的に、フィールド調査はいくつかのステップを踏み、本調査に至ります。今回の調査は、図に示した図の①、②にあたるプロセスで、次回の調査からようやく③本調査に入ろうか、という段階にあります。私の関心は、人びとの営みに着目したものですので、住民組織、NGOや企業が調査対象となります。

図.フィールドワークの手順

今回の調査では、2つの地域開発委員会、NGOのほか、ヤウンデ6区長など、13か所を訪問しました。それぞれの訪問先で、コロナ禍の2年間の変化を尋ね、調査の再開をお伝えしました。2度目の訪問となる旧知の調査対象者は、コロナ禍による影響や変化、各々の仕事の進展を詳しく話してくれました。このおかげで、この2年間の環境や社会の変化、それぞれの組織の活動などを尋ね、現在のヤウンデの街のサニテーションの現状の情報はずいぶん更新されました。

私がヤウンデでの調査をサポートしてくれているS氏は、今回の訪問に際し、いくつかの訪問先を提案してくれました。その一つが「環境保全と社会改善のための協会」というNGOで、今回の調査で最も関心を引いた団体です(写真2)。このNGOは、仕事のない若者たちにゴミ拾いを促し、そのゴミをリサイクルすることで、ビドン・ビルの衛生を改善し、「ゴミ」をリサイクルすることを通じて雇用を作り出すという活動をしていました。この街の現状に則し、安定した収入源を作り出す。まさに住民の目線から生み出された活動を展開していました。

写真2:調査を手伝ってくれるS氏(左)と「環境保全と社会改善のためのアソシアシオン」代表のI氏(中)と筆者(撮影日:2022年9月12日)

大変短いヤウンデでの滞在でしたが、この先の本調査に向けた材料がそろってきました。現在は、今回のフィールド調査の情報を整理、分析し、本調査に向けたリサーチクエスチョンを作る作業を行っています。

2022年10月20日
清水貴夫(グローバルスタディーズ学科教員) 

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