【翻訳】とあるハーバード大学教授とブロガーたち

 約2年前、ハーバード・ビジネス・スクールが、著名な大学教授であるフランチェスカ・ジーノにデータ詐欺の疑いで調査中であると通告した日は、奇しくも彼女の夫の50歳の誕生日でもあった。彼女は予定していた誕生日祝いをキャンセルし、大学警察官が移送を監督する車に乗ってキャンパスまで向かった。

 「結局、二人で行くことになった」とジーノ博士は振り返った。「自分一人では行けなかった。よくわからないけど、自分の足元で大地が開いていくような気がしたから」。

 心理学、マーケティング、経済学などの分野にまたがる行動科学に関する4つの論文で、彼女がデータを操作したという疑惑があると学校側はジーノ博士に伝えた。ジーノ博士は2012年から2020年にかけて、今回調査対象となった4本の論文を発表し、そのうちの1本が500回以上引用されている。
 この論文によると、税金や保険に関する書類の一番最後ではなく一番最初に誠実性を証明するように求めると、情報を提供する前に倫理的本能が活性化されるためより正確な回答が得られるという。

 彼女は当時知らなかったが、ハーバード大学はその数カ月前に社会科学研究の妥当性に焦点を当てた「データ・コラーダ」というブログを公開している他の3人の行動科学者から不正の証拠を指摘されていた。ブロガーたちはジーノ博士が自分の研究を実際よりも印象的に見せるためにデータを改竄しているようだと述べた。いつくかの例では、誰かがスプレッドシートで数字を移動させて博士の仮説に沿うようにしたのだという。

また別の論文では、所見を誇張するためにデータポイントが変更されたようだ。

 彼らの情報によって調査が開始され、およそ2年後、ハーバード大学はジーノ博士を無給休職とし、彼女の終身在職権の剥奪を求めることになった。これは学者にとってはキャリアの死に近い稀有な措置である。
 このことがきっかけで、彼女は学校とブロガーを相手取り少なくとも2500万ドルを求める名誉毀損訴訟を起こすことになり、ハーバードの同僚たちの間では、彼女が正当な手続きを受けたかどうかをめぐって議論が巻き起こっている。ハーバード大学はジノ博士の申し立てを「激しく否定する」と述べ、ブロガー側の弁護士はこの訴訟を 「学問的探究に対する直接的な攻撃 」と呼んだ。

 おそらく最も重要なことは、ジーノ博士に対する告発がこの分野で長年くすぶっていた危機を煽ったことであろう。行動科学者の多くは、人間がどのように意思決定するのかをよりよく理解すれば、例えば(健康的な食品をビュッフェの前の方に移動させることで)体重を減らしたり、(臓器提供プログラムに自動的に登録することで)より寛大になったりするような、比較的簡単なテクニックを見つけることができると信じている。

 この分野は2000年代の最初の10年間は全盛期を迎え、空港でのベストセラーが続出したり、ブログでバイラル記事が投稿されたり、第一人者がノーベル賞を受賞したりした。しかし、TED Talksが生まれたのと同じくらい長い間、この分野は信頼性への疑問から逃れ続けてきた。近年、研究者たちはこれらの発見の多くを再現するのに苦労しており、またこれらの技術の影響が宣伝されているよりも小さいことを発見している。

しかし、不正とはこれらとはまったく別の次元の問題である。ジーノ博士の共著者数十人は、彼女と一緒に書いた論文を再検討するために奔走している。

 行動科学で最も有名な人物の一人であり、ジーノ博士の共著者でもあるダン・アリエリーも、少なくとも一つの論文で捏造の疑いをかけられている。

ジーノ博士(45歳)に対する証拠は説得力があるように見えるが、あくまでも状況証拠に過ぎず、彼女はアリエリー博士と同様に不正行為を否定している。6月に4部作のシリーズを発表し、今月には追跡調査を発表したブロガーたちでさえ、データを改ざんしたのがジーノ博士自身であることを証明する決定的な証拠がないことを認めている。

 そのため、同僚、友人、元教え子、そして素人(armchair)行動科学者たちが、何が起こったのかを説明する証拠を求めて彼女の人生をふるいにかけることになった。すべては誤解だったのか?ずさんな調査助手や不正な調査回答者のせいなのか?それとも、ジノ博士が長年研究してきた人間の本性の暗黒面が、周到に作られた仮面を突き破っているのだろうか?

 ジノ博士との5時間以上に及ぶ会話の中で、彼女は自分の業績に誇りを持ち、時には告発者たちに反抗的であり、時には不正の証拠を誤って信じた人々に同情的であった。
「ブログの読者がそのような結論に達したことを責めるつもりはありません 」と彼女は言い、「しかし、他の説明があることを知ることは重要です 」と付け加えた。

 私が質問すると、彼女はもっともらしい答えを返す。その答えはしばしば詳細で具体的だった──彼女は日付や会話、無名の同僚の名前をきちんと思い出した。少なくともこの点で彼女は全くの詐欺師だというわけではなかった。

 しかし、では詐欺師とはどのようなものなのだろうか?

不誠実な研究者たち

 ジーノ博士は学問的には遅咲きの部類に入る。イタリアの小さな町、ティオーネ・ディ・トレントで育った彼女は、2004年にイタリアの大学で経済学と経営学の博士号を取得した後、ハーバード・ビジネス・スクールで博士研究員を務めた。しかし、フェローシップ終了後、アメリカではテニュアトラックのオファーはひとつもなかった。
 彼女はアメリカのアカデミックな生活にロマンを感じているようで、イタリアでコンサルタントの仕事や大学のポストに甘んじなければならないのではないかと心配していた。

「ヨーロッパのどこかの空港──フランクフルトだったと思う──で涙を流していたことを鮮明に覚えている」と彼女は回想した。

 カーネギーメロン大学で2年間客員教授を務めることになったのは、ハーバードの恩師が同大学の元学生にチャンスを与えてくれるよう働きかけたことがきっかけだった。

 会話をしていると、ジーノ博士は堅苦しく感じられることがある。彼女の母国語ではない英語は、ビジネススクールの専門用語と混ざり合い、"「最も重要な点は、学習するマインドセットを受け入れることです 」とか、「私たちは前向きに前進していくと信じています 」といったフレーズを生み出す。
 しかし、彼女はある種の強さも見せている。「私は整理整頓が得意です」と彼女は言った 「論文の発表には時間がかかるものです。私がコントロールできることは、私のペースで、私なりの厳格さで実行します」。

 ジーノ博士はカーネギーメロン大学で、仕事に対する旺盛な意欲で頭角を現した。「彼女は誰よりも努力し、自分にプレッシャーをかけていました」と同じグループの大学院生、サム・スウィフトは言う。ジーノ博士は、研究を始めて間もなく、停滞していたプロジェクトを立ち上げ、数週間以内に論文の草稿を書き上げた。

 カーネギー・メロン大学の後、彼女は2008年にノースカロライナ大学の助教授となった。しかし間もなく、彼女が数年前に始めた一連のプロジェクトがジャーナルに掲載され始め、その多くは著名な共著者と共に発表された。短期間に記録した出版物の量によって、彼女はアカデミックなスターへと変貌していった。

 そうした共著者の中に、マサチューセッツ工科大学からデューク大学に移ったアリエリー博士がいた。アリエリー博士は同年、ベストセラーとなった『予想どおりに不合理』を出版し、世間に知られるようになった。
 この本は、人々が利己的な行動をとることを前提としている経済学者が伝統的に無視してきた人間の推論の癖を、主流の聴衆に紹介するのに役立った。行動科学は非合理的な行為、たとえば貯蓄が少なすぎたり、受診を先延ばしにしたりする傾向を簡単に解決してくれるように思われた。行動科学はジャーナリストのマルコム・グラッドウェルによる『ティッピング・ポイント』や、経済学者のスティーブン・レビットとジャーナリストのスティーブン・ダブナーによる『フリーコノミクス』といった近著がヒットし、社会科学に対する大衆の関心の波に乗ることになる。

 ジーノ博士とアリエリー博士は頻繁に共著者となり、その後6年間で10本以上の論文を共に執筆した。二人が共有した学問的興味は、ジーノ博士にとっては比較的新しいものだった。
 アリエリー博士との共著論文は、ジーノ博士の膨大な研究成果の一部に過ぎないが、その多くは大きな反響を呼んだ。

ある論文は、人は社会的グループの他のメンバーの不正行為を模倣する傾向があり、不正行為は事実上伝染する可能性があることを発見し、また別の論文は、創造的な人ほど不正行為をする傾向があることを仮定した。

100を超える論文のうち、最も引用された6本のうち4本がアリエリー博士との共著である。

 ジーノ博士はアリエリーとの関係を大切にしていたようだ。大学でジーノ博士と一緒に働いていた大学院生のティナ・ジュイラットは次のように語った。「彼女は彼のことをよく話していました。彼女は本当にアリエリーを尊敬しているようでした」。

しかし、私たちとの会話の中で、ジーノ博士はその関係を最小限にしようと躍起になっているようだった。彼女はアリエリー博士をメンターとは思っておらず、彼と直接仕事をするよりも彼の学生やポスドクと一緒に仕事をすることが多かったと主張する。(アリエリー博士は、「何年もの間、ジーノ博士は友人であり共同研究者だった」と語った)。

 アリエリー博士の同僚や学生たちの間では、無意味な規則に対する彼の気短さは有名で、彼はそうした規則を不承不承従っているそうだ。しかし、彼らは、小さな介入が行動に驚くべき変化をもたらす力を示すという野心を共有しているようだった:食べるものを選ぶ前に10まで数えると、より健康的なものを選ぶことができる(ジーノ博士)

テストの前に十戒を思い出してもらうと、より正直に結果を報告するようになる(アリエリー博士)。

 2009年になると、ジーノ博士はノースカロライナで孤立感を感じ始め、転居を希望するようになった。今回、彼女を獲得しようと躍起になっていたのは、むしろ学校側だった。多くの競合相手が彼女をスカウトしたが、最終的に彼女はハーバード大学からのオファーを受け入れた。
 数年のうちにジーノ博士は終身在職権を獲得し、実験を行い、データを分析し、論文を書くことのできる学生や研究者のチームを持った。  テニュアの教員にはよくあることだが、この取り決めによって彼女はより効果的に力を発揮できるようになった。彼女は、講演やNPRへのカメオ出演、コンサルティング・プロジェクトなどに引っ張りだことなった。

 2018年、彼女は自身の大衆向け書籍 "Rebel Talent:Why It Pays to Break the Rules at Work and in Life "を出版した。「反逆者とは、破るべきルールを破る人々のことです 」とジーノ博士はNPRに語り、彼女の論文を要約した。「それが前向きな変化を生み出すのです」と彼女は付け加えた。

学問の衰退?

 知的なムーブメントが落ち目となり学術的一発屋── もっとひどい場合は、セルフパロディ──となる瞬間を見極めるのはしばしば難しい。
 しかし行動科学の分野では、2011年に主流派の心理学雑誌に掲載された予知能力の証拠を主張する論文を挙げる学者が多い。つまり、未来を感じる能力である。

 この論文の著者であるコーネル大学の名誉教授は、ある実験で参加者の半数以上が性的な写真がコンピューター画面のどこに表示されるかをそれが表示される前に正しく推測していたことを発見した。彼はこの方法をある種の心理的効果の「時間反転」と呼んだ。
 この論文では、比較的少数のサンプルに頼るなど、当時この分野で一般的だった方法を用いている。そのような方法は現実ではなく、統計的な偶然を捉えているように見えることが増えていた。

「超能力を持っている人がいるなら、なぜラスベガスに行って金持ちにならないのだろう?」カリフォルニア工科大学の行動経済学者、コリン・キャメラーは私にそう言った(行動経済学者は、心理学からの洞察だけでなく、インセンティブのような経済的概念に根ざした仕事をしている。)

 当時ペンシルバニア大学に在籍していたウリ・サイモンソンとジョセフ・シモンズ、そしてカリフォルニア大学バークレー校のレイフ・ネルソンほど、自分たちの学問の方向性に憤慨した学者はいない。
 この3人の行動科学者は、2011年に影響力のある論文を発表し、彼らの分野で長い間容認されてきたある慣習、例えば、データが有望に見えたら5日間の研究を3日で打ち切るというような慣習が、いかに誤った結果の乱発につながるかを示すことで、この論文はなぜ多くの学者が、自分たちのものを含め、研究成果の再現にこれほど苦労しているのかを明らかにした。

 その2年後、3人はブログ「データ・コラーダ」を立ち上げ、傘のついたカクテルグラスのロゴの下にこんなキャッチフレーズを掲げた:「エビデンスについて考える、その逆もまた然り」このサイトは、統計的手法や、さまざまな研究上の犯罪や軽犯罪に関してオタク的な議論をするための拠点となった。

 ジーノ博士とアリエリー博士は、常に時空連続体の中にしっかりと焦点を合わせてきた。それでも彼らは時に他の学者たちの間で、詐欺の告発とまではいかなくても、眉をひそめるような仕事をすることがあった。2010年、彼らと3人目の同僚は、偽物のデザイナーズ・サングラスを身に着けるとより不正を働くという論文を発表した。
「製品が本物でないことで、その所有者自身が本物でないと感じ、その感情が不正な行動を引き起こす可能性がある 」と彼らは結論づけている。

「プライミング」と呼ばれるこのジャンルの研究は、数十年前にさかのぼる。オリジナルであるより控えめなバージョンは鉄板である:研究者が被験者に猫の写真を見せると、その被験者はD_Gの欠けている文字を "O "で埋め、DIGやDUGではなく、DOGと綴る傾向が強くなる。

 しかしここ数十年、プライミングによるアプローチは、言葉の連想から真実を語るなどのより複雑な行動の変化へと移行し、多くの科学者が懐疑的になっている。ノーベル賞受賞者で行動経済学のパイオニアの一人であるダニエル・カーネマンもその一人で、いわゆるソーシャル・プライミングの効果は、かつて彼が想定していたほど「大きく頑健なものではありえない」と述べている。

もちろん、プライミング研究の結果が少ないサンプルに基づくものであること、効果の大きさがおそらくありえないほど大きいこと、ひとつの研究だけで結論が出るものではないことは知っていた。しかし、私が感銘を受けたのは、多くの研究室から報告された結果が一致して一貫していたことである。
私は、プライミング効果は熟練した実験者にとっては誘発しやすく、しかも頑健であると結論づけた。しかし、私は今、自分の推論に誤りがあったこと、そしてもっとよく知るべきだったことを理解している。力不足の研究が一致していることは、深刻な「お蔵入り問題(file-drawer problem)」(および/またはPハッキング)の存在を示す説得力のある証拠である。
この議論は避けられない──もっともらしい効果を検出するための検出力が不十分な研究では、研究仮説が真であっても有意でない結果を返すことがあるはずである。
さらに、実質的なお蔵入り効果の存在は、心理学者が広範な仮説の証拠を蓄積するために用いる2つの主要な手段、すなわちメタ分析と概念的再現を根底から覆すものである。明らかに、私がその章で提示したアイデアの実験的証拠は、それを書いたときに私が信じていたものよりもかなり弱い。つまり、これは単なる誤りであった──私は引用した意外でエレガントな発見に対する熱意を抑えるために必要なことをすべて知っていたが、それについてよく考えていなかったのだ。後にプライミングの結果の頑健性について疑問が呈されたとき、私はこの研究の著者たちが、より強力な証拠によって自分たちの主張を補強するために結集することを期待したが、そうはならなかった。

私は今でも、行動にはプライミングがあると信じている。意味的プライミング、意識的に知覚されていない刺激の有意な処理、そして動画運動の活性化など、すべての構成要素には十分な証拠がある。思考のプライミングと行動のプライミングを峻別する理由はない。したがって、この間接的な証拠に基づいてプライミングを論証することは可能である。しかし、行動プライミング効果の大きさに関しては、私の見解が変わった。

ダニエル・ギルバートの言葉を借りれば、私は今でも引用したすべての研究に愛着を持っており、それらを信じていないわけではない。それぞれの研究が大規模なサンプルで再現されるのを見るのは嬉しいことだ。しかし、私が学んだ教訓は、ある分野を論評する著者は、力不足な研究の記憶に残る結果を自分たちの主張の証拠として用いることに注意すべきだということである。

 ジーノ博士は、この分野の研究は当時受け入れられていたやり方に従っていると述べた。アリエリー博士は、実験結果は実験条件、例えば参加者がどれだけ指示をよく読んでいるかによって影響を受ける可能性があると述べた。

 大きな影響を与えるとされる他の微妙な要素も、近年同様の精査を受けている。
 シェリル・サンドバーグや『コスモポリタン』誌に愛され、"get-ahead "の第一人者となっていたハーバード・ビジネススクールのエイミー・カディ教授は、2017年、いわゆるパワー・ポーズ(足を広げて立つなど)がテストステロンを高め、ストレスを低下させるという論文について広く議論され、データ・コラーダや他のサイトから批判を受け、テニュアトラックの職を辞した。(カディ博士は不正や不祥事で告発されたわけではない。彼女は2017年以降も様々な立場でハーバード・ビジネス・スクールで教鞭をとっている)

 2021年、データ・コラーダのブロガーたちは、匿名を選んだ研究者チームの協力を得て、アリエリー博士が監修した実証実験が捏造されたデータに依拠しているという証拠を掲載したが、博士はこれを否定した。この実験は、ジーノ博士と他の3人の同僚が共同執筆した論文に掲載されたもので、保険用紙に記入する前に、その用紙の上部に署名してもらうことで、記入された情報の正確性が向上することを発見した。

ジーノ博士は、"重大な異常 "を発見したブロガーたちに感謝の声明を掲載した。彼女は、「才能と勇気が必要であり、私たちの研究分野を大きく改善するものである 」と述べた。

 同じ頃、ブロガーたちはハーバード大学に対し、アリエリー博士の研究に疑問を投げかけるきっかけとなった「サイン・アット・ザ・トップ」論文の彼女の部分を含む、彼女自身の4つの論文に不審なデータがあることを警告した。

 この疑惑は今年6月のハーバード大学停学処分という結末に至る調査を促した。それから間もなく、ブロガーたちは証拠を公にした:ジーノ博士が投稿したエクセルファイルのデジタル記録には、データポイントがある行から別の行に移動され、研究結果を補強していることが示されていた。
 ジーノ博士は今、このブログをより不吉なものとして捉えている。彼女は、エクセルのデジタル記録が、データがどのように移動されたかを示す信頼できるガイドにはならない例を挙げている。
「私が学んだのは、完全な証拠なしに結論に飛びつくのはとても危険だということです。」

物議を醸す調査

ジーノ博士の最近の生活は孤立している。仕事のメールにアクセスできなくなった。月に出版予定だった2冊目の大衆向け書籍の出版は延期された。彼女の子供の一人は、ハーバード・ビジネス・スクールのキャンパス内にあるデイケアに通っている。

 「以前は送り迎えをしていましたが、今はしていません。そして、私が送迎をする数少ない機会に、大きな悲しみを感じるのです。」「同僚に出くわして、どういうわけか私が学内にいると学部長室に報告されたらどうしよう」。
彼女は、反論するのが難しい告発への対応に多くの時間を費やしている。

 inauthenticであると感じるとクレンジング製品への欲求が高まるという結論の論文の中で、ブロガーたちはジーノ博士が実施した調査に対する20の奇妙な回答にフラグを立てた。いずれの場合も、回答者は「2年生」のような直感的なものではなく、「ハーバード大学」と回答していた。
 この「ハーバード」回答者は、500件近いアンケートのごく一部であったが、この調査の仮説を疑わしく補強するものであった。
 ジーノ博士は、疑わしい回答のほとんどは、彼女が参加者に提供した10ドルのギフトカードのためにアンケートに記入した詐欺師の仕業だと主張している。曰く不審なIPアドレスからの回答が相次いだのだという。
 しかし、詐欺師の返答が彼女の論文の所見ときれいに一致するのは奇妙なことだ。私が、彼女か彼女の研究室の誰かが詐欺師である可能性を指摘すると、彼女は屈しなかった。
「懐疑的でいてくれるのはありがたい。懐疑論者の頭の中に出てくる可能性のある疑問をすべて聞いた方が、自分の潔白を証明するのに成功すると思うからです」。

 さらに残念なことに、このブロガーたちは最近、ジーノ博士の論文が掲載されたジャーナルにハーバード大学が送った撤回通知から抜粋した証拠を掲載した。これらの研究のために収集されたデータは、彼らが最初に記録したよりもはるかに多く改竄されていたことを示すものである。

 ハーバード大学が雇ったフォレンジック・コンサルタントが書いたある調査では、ブロガーが最初にフラグを立てたほんの一握りだけでなく、「明白な理由なく修正されたエントリーが含まれている」回答が半数以上あった。

 ジーノ博士によれば、ハーバードのフォレンジック・コンサルタントは、紙で収集され、もはや存在しない元のデータを調査することができなかったため、この事例で彼女が不正を働いたと結論づけることはできなかったという。
 証拠があるにせよ、ハーバード大学が彼女を調査した方法によって、この事件は公式には何年も未解決のままとなる可能性がある。ジーノ博士が8月に起こした訴訟では、データ・コラーダのブロガーたちが、ハーバード大学が調査するまで不正の証拠の掲載を延期すると申し出たと主張している。
 ハーバード大学はこれに対応し、より積極的な不正調査方針を策定し、彼女のケースに適用したと彼女は主張する。旧版とは異なり、新方針には調査報告書への回答期限を30日とするなど調査の各段階における厳格なスケジュールが盛り込まれ、管理者に彼女の研究記録の保管を指示した。
 訴訟では、ビジネススクールが同様の状況にある男性に同じ扱いをしなかったため、新方針の適用はジーノ博士の雇用契約に違反し、男女差別にあたると主張している。さらにジーノ博士は、ビジネススクールは新方針の立証責任を果たすことなく彼女を懲戒処分にし、ハーバード大学とデータ・コラーダ社の双方が彼女が詐欺を働いたと周囲に示すことで彼女の名誉を傷つけたと主張した。

 ビジネス・スクールのスポークスマン、ブライアン・ケニー氏は、この訴訟は「調査結果と推奨される組織的措置に至った事実」の全体像を示していないと述べた。また、「最終的にはハーバードの正当性が証明されると信じています」と付け加えた。ハーバード大学は今後数週間のうちに法的回答を提出する予定である。

ハーバード・ビジネス・スクールのスリカント・ダタール学部長は、8月中旬に教員に宛てた電子メールの中で、ジーノ博士に対する告発が「ここ何年かで初めて受けたデータの改ざんや捏造に関する正式な申し立て」であったため、方針の変更を促したことを示唆した。彼は、新しい方針はハーバードの他校の方針と酷似していると書いた。

 仕事上の不名誉の中にあっても、ジーノ博士にはテニュアの教授に対する雇用主の扱いに憤慨して同情的な同僚がいる。ジーノ博士のビジネススクールのテニュアの同僚5人は、ジーノ博士を調査するプロセスに懸念があると私に言った。そのうちの何人かは、ビジネススクールが彼女のケースをきっかけに特別な方針を打ち出したように見えることを不愉快に思い、また何人かは、このケースが他のフリーランスの批評家が効果的に調査を開始することを許す前例になることを心配した。(6人目の同僚は、このプロセスに問題はなく、ジノ博士の有罪を確信していると私に語った)。
ほとんどの教員は、法的な複雑さを理由に匿名を要求した。大学の顧問弁護士は、ジーノ博士が告訴した直後、この件について議論しないよう指示するメモを教員に配布した。

 不正行為で告発された研究者が、所属機関や告発者に対して勝訴することはめったにない。 しかし、専門家の中には、ジーノ博士が他の研究者よりも勝算があると主張する者もいる。その理由のひとつは、彼女のケースでビジネススクールが不正行為を調査する新しい方針を採用したことが明らかになったからである。

10月には、ジーノ博士の共著者数十人が、「Many Co-Authors」プロジェクトとして知られるようになったものの一環として、ジーノ博士との共同研究を見直すための初期の取り組みを公開する予定である。彼らの望みは、最終的に多くの論文を再現することである。

 しかし、信憑性への疑問は彼女にとどまらず、懐疑的な見方をされている他の行動科学者の研究に焦点を当てた同様のプロジェクトは存在しない。たった一例ではあるが、同様の不正行為で告発されているアリエリー博士もその一人である。(アリエリー博士は8月に『フィナンシャル・タイムズ』紙に、デューク大学が彼を調査していることを示唆したが、彼はまだ同大学の教員であり、同大学はコメントできないとしている。アリエリー博士の『十戒』論文の出版社は、他の学者が再現するのに苦労している論文を審査中であると述べた。アリエリー博士によれば、彼はその査読について知らず、彼と彼の同僚は最近、まだ公表していない新しい研究でその結果を再現したという。)

 ノーベル賞受賞者であるカーネマン博士はインタビューの中で、データ・コラーダ・ブロガーのような学者たちの努力は行動科学の信頼性を回復するのに役立ったが、この分野が完全に回復するのは難しいかもしれないと示唆した。

「驚くべき発見を目にしたとき、私のデフォルトはそれを信じないことだ。12年前は、驚くようなことなら何でも信じるのが私のデフォルトだったのだが」

翻訳元

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