【解放式ビンディング】 誤解放の誤解 【アルペンビンディング】

 今シーズンは急に冬になったことで一気に気持ちが高まっている方も多いかと思います。今シーズンはできれば板も新しく・・・なんて考えている方も少なくないでしょう。

 そんな新しい板を買おうと考えると・・・現在の主流は解放式と呼ばれるアルペンビンディング、普通のスキーと同じビンディングがついているものばかり。むしろ従来の固定式のビンディングの板を探す方が難しいくらいになっています。

 でも、解放式って誤解放するじゃん?危なくない?

 そう考えるスキーボーダーもいらっしゃいます。滑っていて急に外れたら危ないし怖いですものね。

 ですがビンディングの取り付けの認定技術者でもある中の人がお伝えします。「誤解放は基本的に無い」と。

なぜ解放するのか?

 解放式ビンディングはこちらのブログの読者の皆様ならたびたび触れていることなのでご存知かと思いますが、長板では取り付けなければならないと国際規格で決まっているので、長板で固定式というのはほぼ存在しません。

 私は長板も滑るのですがもし長板が固定式なら・・・滑りたく無いです。どう言う感じかと言うと、シートベルトをしないで運転するような危機感が近いでしょうか?※そもそも違反というのは今回は置いといて下さい。
 何もなければいいんです。しかし何かあったら無事では済みません。

 そんな「何かあったら」を世界的にISOが定めた事柄があり、一定の力がかかったときに外れるようにした仕組みを持つのが解放式の仕様です。具体的にどんな力?というのは難しくなるので割愛しますが、これ以上の力がかかったら足が折れる!というところにならないだろうくらいの力です。

 滑っていると絶えず衝撃を受けるのがスキー。ちょっとしたギャップなどに足を取られるなどして転倒することも多いです。またオーバースピードになってしまったり、ターンで遠心力に耐えれず滑落ということもあります。そういったシチュエーションで最大限ケガをしないようにするためのものが解放式なんです。

外れるということは・・・

 滑っていて外れた場合、これは何らかの危険があったことを示します。簡単に言えばもし外れていなかったら大怪我をしていたかもしれないという事です。またブーツの裏に雪が氷のように張り付いたまま滑っていたとか、きちんと正常に履いていなかったということを示します。

 簡単に言えば、外れたということは危なかったかもしれなかったということです。

 もちろんここには議論があって、外れるから危ない。ということもあり得ます。重要なのはどの程度のことで外れるか外れないかをユーザーが決めることができるということです。解放値と呼ばれる簡単には外れにくさを表す調整値は、数字が大きくなるほど外れにくくなります。これは同時に怪我のリスクを増しているものでもあって、競技スキーの世界などでは推奨値の2倍近い強さの解放値が設定できるものもあります。しかしこういったものを使う人たちは極限でタイムを削るためや、他の競技者に勝つために「外れない」ことを選択しているのであって、高い滑走技術もさることながら簡単には転倒しない技術もありますし、転倒したら無事では済まないことを承知しています。

 ですが一般の人たちは生活や仕事、家庭があります。だから規格として設定されるものが決まっていて、ひどいことにならないように「危なかったら外れる」ようになっているのです。

 つまり「誤解放」というのは基本的には無いのです。

でも誤解放あるじゃん?

 無いといってあるというのもおかしな話ですが、これは「ビンディングが適切に調整されていない」「経年劣化(故障)」「正しく履けていない」「無理な力をかけている」ということが影響しています。

「ビンディングが適切に調整されていない」というのは最も致命的で、皆さんは幅と解放値だけ調整すればOKと考えていると思いますが、実はこれにもう二つ調整しなければならない部分もあるのです。そのうち一つはブーツとビンディングのスキマで、実際には名刺一枚の厚みの調整が必要です。
 このスキマの調整ができていないと解放値が適切でも外れたり外れなかったりすることがあります。一般向けのグレードのビンディングでは、この点については自動的に調整されたり、もともときちんと作動する仕組みを備えているので調整しなくてもよいものもありますが、フリースキー系のビンディングは調整が必要なものがあります。
 これと前圧調整というもの必要でこれがかなり重要。いくら適切に調整されていても前圧調整が正しく調整されていないとビンディングは正常に動作しないのです。
 この前圧調整は解放値などと違ってドライバーで誰でも調整できるものではなく、ビンディングの仕様によってさまざまに調整方法が異なっています。このことを知らずに調整してしまうと、誤解放の原因になる場合があるのです。

「経年劣化」はしかたのないもので、パーツが破損するなどで外れてしまうことがあります。といってもこの経年劣化はめったに起こるものでもなく、実はバネとてこの原理でできているビンディングでは、動作が単純なのでそう簡単に故障することもありません。経年劣化は使用回数によるので多くの場合ビンディングよりも先に板が寿命を迎えるのですが、年に三十回滑る人などは毎年チェックしてもらった方が良いです。

「正しく履けていない」は最も誤解放が起こる原因で、主にブーツの裏に雪が張り付くなどしたまま履けてしまうと滑走中に外れることがあります。むしろこれが誤解放というイメージを作っている原因だと私は考えています。
 履くときはブーツの裏に雪が張り付いていないことを確認して履きましょう。しばしば板を履くときにビンディングにブーツをガシガシ蹴って履いている人がおおいですが、そうしてもらって良いんです。それくらいのことで壊れるほどビンディングは柔に作られていません。※といっても程度があります・・・
 ストックを持たないことの多いスキーボードではポケットに小さいスクレーパーを忍ばせておくのも良い方法です。これで雪を削り剥がせばOK!スクレーパーはただのプラスティックの板ですが、他の用途にも使えるので小さいものを持っていればいろいろ便利です。

さいごに「無理な力をかけている」ですが、これはスキーボードの滑りの性格上仕方ない部分も存在します。プレス系、ノーズマニュアルといった負荷をかける技があったり、くるくる回るスピントリックもあったり。そういう想定のない動きが多いスキーボードでは解放式はデメリットと思われます。ですがスキーパトロールの現場ではスキーボードで最も多いのが下腿部の怪我、スネの骨折や足首の捻挫で、これらの程度の悪い怪我の原因のほとんどが固定式によるものだったことが解っています。これが理由で最近のスキーボードで固定式が売られていないとも言えるのですが、こうしたトリックを好む方ははやり「外れない」ことを選びたいとも思いますので、高い解放値に設定するか、固定式を選ぶのが良いと思います。
 参考までに私はスキーボードを解放式で滑る場合は算出値通りの解放値で滑っています。逆にいうと、無理な力をかけない技術が習得できれば多くの技は普通の解放式で楽しめます。とはいえできない技の練習や新たなトリック開発や習得方法の考察などするときは高めたり低めたりと調整します。用途用途で柔軟に考えることこそが一番怪我につながらないと私は考えています。

一般の人が調整をするにはどうしたら良いのか

 これは購入した販売店に相談するのが最も良いです。調整に不具合があったりも当然ですが、技術レベルが向上したり体格が変わると解放値は変化します。それだけでなく個人的な理由で設定以上の解放値を求めたときに、適切に調整が受けられるのも購入した販売店を頼る利点です。

 これが購入したお店以外のことであれば、そういったお店は調整を断ることが多いです。そして調整をして頂いても相応の調整料金は支払わなければなりません。これが理由で私はビンディング単体をネットなどで個人購入することをお勧めしていません。可能なら板を買ったお店でビンディングも購入、調整を受ける方が、後々のことを考えればメンテナンスもお金のこともトータルで利点が非常に大きいからです。

 一応こうしたケースを想定してGRskilifeではこちらで購入したものでなくとも相談に応じることができます。しかし対応できることに限度がありますので、まずは購入元を頼り、解決を試みて頂きたいです。

実はこの記事、ずいぶん前から公開しようか考えていた記事です。わかりにくいし文章も長いし・・・これでもずいぶん端折っているのですが、「外れるから危ない」が「外れないから危ない」に考え方をシフトしてもらえるようになっていただければ嬉しいです。そうして自分の最適なものが見つかったときに、ビンディングの調整などで困ったことがあればお手伝いできればと思っています。

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