ワクシングアイロンの豆知識

 スキーやスキーボードに慣れ親しんでくるとチャレンジしたくなるホットワックス。自分好みの滑走面を作るというのはなんともやり甲斐もある魅力です。

 そのホットワックスに欠かせないのがワクシングアイロン、つまりアイロンなのですが、案外このアイロンのことはよく知られていませんね。

 アイロンは安いもので5000円程度、プロ用になると3万は下りません。ただのアイロンでこの値段の差、何が違うのでしょう?

 もっとも安い価格のアイロンは温度調整機能が無いことが多いです。そして軽くて小さい。これらはちょっと使うのにはメリットのように感じますが、実はデメリットばかりです。

 ワックスは溶ける温度が色々違っていて、多くは100度〜140度くらいになります。低温度だと70度、高温だと160度なんてものもありますね。(ほとんど揚げ物の油の温度です)

 滑走面に使われている素材はほぼ全てがPE,ポリエチレンですが、PEは90度くらいで溶けます。はい、ワックスのほとんどはPEの溶ける温度よりも高い温度で使います。

 これがなぜ溶けないか?というと、滑走面が溶けるよりも短時間しか熱を与えないので溶けない、そんなところです。熱湯に指をつけると当然やけどをしますが、一瞬なら大丈夫です。そんなイメージに近いものです。

 ただしワックスは完全に溶けてしまうと熱が伝わりやすくなります。そして保護性の高い気温が低いときに使うワックスは溶かすのに120度以上の高い温度が必要・・・つまり滑走面が溶けてしまわないギリギリのところでワックスを溶かして染み込ませるのがワクシングのキモです。これがうまくいかないとどんなに高性能ワックスを使ってもすぐに剥がれてしまったり効果が実感できないなどのことがあります。プロが行うワックスで持ちがいいのは、そのギリギリのところを経験で知っているからです。

 因みにワックスは溶けてしまえば押し当てずとも浸透します。ただ浸透させるのにも滑走面自体も染み込みやすい温度を保つ必要があるので、そのコントロールは簡単ではありません。

 それを代わりに行ってくれるのがアイロンなのです。設定した温度で適切にワックスを溶かし、それ以上の温度を与えないように浸透させる。これがワクシングアイロンのもっとも重要な部分です。

 そんなアイロンは内部に伝熱線が仕込まれていて、電気が通ることでこの伝熱線が加熱され、アイロン金属部に熱が伝わって温まります。そしてその金属部にサーモスタッドなどの温度を測る部品が備わっていて、設定した温度以上になると加熱をやめ、設定した温度以下になると加熱を始めるという機能となります。この部分が価格差の重要なところで、この性能、つまり設定した温度を保ち続ける機能が上等なほどアイロンは高いのです。

 最初にあげた低価格アイロンは重要な温度設定ができないばかりか温度維持も曖昧で、しかも金属部が小さいことから簡単に熱を奪われてしまいます。

アイロン温度

 簡単なグラフを用意しましたが、設定した温度に対してのアイロンの温度の保持がどうなっているかを表したものです。赤いゾーンは滑走面を溶かしてしまう温度、青いゾーンはワックスが溶けない温度です。

 こうして見比べると低価格アイロンが思ったよりヤバいのが見て取れますよね?温度の振り幅が大きいだけでなく「熱持ち」も悪いので加熱と冷却を激しく繰り返します。この熱持ちはアイロン金属部の大きさや冷えにくさによるもので、一般的には大きく重いものほど熱持ちが良く冷めにくいものになっています。

 一般的なアイロン(温度調整ができるもの)はある程度熱持ちも良いので設定温度から大きくはみ出ることは少なくなります。そしてプロ用は見ての通りかなり精密に温度管理がなされます。金属部も熱持ちの良いもの、さらに最近のものだと温度管理がデジタル化されている「デジタルアイロン」が主流で、温度の振れ幅が小さくなければならない140度以上の高温を用いるワックスを使う場合などに大きく違いが現れます。※ただし高い・・・

 一般であれば熱持ちがいい重たくて大きいアイロンを使う事で満足できます。これが価格とするとだいたい10,000円前後、ちょっと高いですが、もし板を焼いてしまったり滑走面を溶かすようなことがあれば、その修理費用はそれくらいかかってしまうこともあります。

 もし本格的にホットワックスを使う場合、最低限アイロンは温度設定ができるものを選んで下さい。そしてアイロンの加熱が行われているときは待って使うと失敗が少なくなります。ワックスは溶ければ浸透するので、押し込むように何度も熱を与えるのではなく適切な温度でさっと。そんな感じで使うと良いかと思います。

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