スキーとスキーボードとスキーワックス(その1 溶けるワックスと溶かすアイロン)

 最近、ワックスの話を見かける事が多いのでチューナー目線でのお話です。

 ワックスって、車で言えばエンジンオイル、人間なら炭水化物ってくらい大事なものです。それぞれ無くてもなんとかなりそうですが、無ければいずれ大変な事になります。

 スキーの滑走面には『ポリエチレン(PE)』が使われています。結構身近なプラスチックで、バケツとか袋とかによく使われます。頑丈で温度変化に強く、特に氷点下でも性質が変化しないのが特徴です。

 他にもプラスチック素材はたくさんありますが、PEほど温度変化に対して強みのある素材はなかなかありません。そしてこのPEは、パラフィンを塗布する事で高い滑走性能を発揮します。

 と、化学的な話はこれくらいにして、このパラフィンと言うのがスキーワックスのことで、これも身近なのがローソクです。これからのクリスマスシーズンには欠かせないものですね。
 ローソクことパラフィンは熱で溶けます。そしてPEは溶けたパラフィンが染み込みます。これを『浸透』と言ってチューンの世界では言いますが、浸透の助けに使うのが熱を使うアイロンです。

実際のこの浸透は極々僅かで、スポンジが染み込んでいくような感じではありません。ただアイロンでワックスを塗ると染み込んでいくような感覚があり、それがPE素材の違いやワックスの相性でかなり差があるように感じます。そして『ワックスがよく溶ければ染み込む』と錯覚します。

 これがポイント。

 実はワックス、アイロンで塗り込んでいる訳ではありません。溶けた状態で滑走面に触れればそれで染み込み、無駄なワックスは濡れたように浮きます。画用紙に水彩絵の具で色を塗るとき、適切な量で塗ればスーッと色を塗れますが、水が多いとベチャベチャになります。かといって水が少ないと綺麗に塗れません。このイメージです。

 この水分量が適切になるような感覚でワックスを溶かすのがアイロンの役割です。ワックスは温度でワックスを溶かし、滑走面に塗布していきます。この時に温度が足りないとワックスは固まってしまい、滑走面に浸透させられなくなります。
 なら高温でやれば確実に溶けるじゃん!となりそうですが、そうすると問題はPEのほうが溶けてしまうのです。

 PEの溶ける温度はだいたい90℃くらいです。スキーワックスでワックスを使う温度は90℃~150℃で、そのまま使うと滑走面が溶けてしまうのは当たり前になります。溶けた滑走面と言うのはワックスが浸透しにくく、滑りも悪くなります。
 となると、ワックスする度に滑走面が溶けてしまうのでは?と思いますが、ごく短時間であれば滑走面は溶けません。熱く熱した鉄板に一瞬触れても火傷しないように、スッと熱を与え続けないようにすれば滑走面は溶けず、ワックスだけ溶かして浸透させられます。一瞬でも溶けたワックスが滑走面に触れればその部分はワックスが浸透しますし、それ以上の溶けたワックスは水彩絵の具の話しの通り画用紙を濡らすだけの無駄なワックスになります。

 ここで家庭科の話。制服などにアイロンがけするとき、そのまま使ったり温度が高いと生地がテッカテカになってしまいます。なのでそれを防ぐために『当て布』をします。アイロンと生地との間に木綿のハンカチなどを挟み、テッカテカになるのを防ぐのがこの当て布の役割で、直接熱が当たらないようにするだけで効果抜群です。

 これがワクシングペーパーの一つの役割で、直接アイロンに触れるよりも、ペーパー越しの方が熱さの感じ方がマイルドになります。※火傷には十分ご注意下さい!試す時は自己責任で!
 ペーパーにはまだ他にも役割はありますが、ここで注意すべきはペーパーを使うとほんの少しだけアイロンの温度設定を高くしないと、適切にワックスが溶けないのです。ワックスの指定温度が130℃として、ペーパーがある場合は135℃くらいにしないと溶けない場合があります。しかしながら滑走面にとっては高い温度は溶かしてしまう原因でもあるので困ります。なので経験のある人達は、アイロンを動かす速度などでそれを経験的にコントロールしています。…これが難しいんですよね。

 なので失敗しにくくなるアドバイス。アイロンでワックスをかける場合、馴れるまではペーパーを使ってたっぷりとワックスを溶かして使って下さい。無駄は多くなりますが、均一に確実に塗れます。とにかく溶けたワックスが触れれば良いのですから、気にせず使って下さい。それを何度か繰り返していくと適量が見えてきます。徐々に使う量を減らしていき、ちょうど良い使い方が身に付くと思います。
 これの練習の最適はクリーニングワックスで、クリーニングワックスでは浸透の意味とは別にワックスを溶かすのでしっかり使う必要があります。また使う温度帯が100℃程度なので滑走面に優しく、クリーニングワックスはしっかりやると、下手にこだわって使ったワックスより滑る事もありますし、そもそもこだわりのワックスを使うときの下地としてもとても優秀なので、まず始めるならばクリーニングワックスをオススメします!

 それと細かい話ですが、ペーパーを使わなくてもアイロンは使えますが、失敗する可能性が随分増してしまいます。ペーパーを使ったアイロンに慣れてしまえばそんなに大変な事はないのでペーパーは使うに越した事はありません。初歩的には厚手のペーパーがやはりオススメですね。140℃などの高温を扱うならば、プロ仕様の薄いペーパーを使い分ける必要も、普段使って慣れてくれば経験的に理解できてきます!

と、話しが長くなってきたので今日はこの辺で。続きは明日に!

しかしワックスの話し、やはりたくさん話が出てきてしまいますね。中の人はワックスだけで一晩語れるので、悪い癖が…

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