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なぜGRが解放式ビンディングを広めるのか?

 今日はディープ話題。先日のノーズマニュアルが出来るのか?で話題になりましたが、解放式ビンディングについての事です。

 ご存知の通りGRと言うブランドは解放式ビンディングをお勧めしています。これの理由がどうも誤解されているところもある様子なので、今回はそのあたりにも触れつつ皆さんにお伝えしようと思います。

スキーボードにとって解放式は「悪」?

 もともと簡易的な固定式ビンディングで始まったスキーボード(ファンスキー)の歴史。なのでこの固定式にこだわる人々には並々ならぬものがあるのは存じております。かくいうGR中の人も20年以上スキーボードを楽しんでいますが、その3分の2くらいは固定式でした。

 ただその中で。ケガの話題のブログにも書きましたが固定式だからこその悲惨な事故をスキー場パトロール時代に見てきました。そしてそれは世界的なスキーボードの普及を大いに阻み、市場を閉じて絶滅の危機にまで陥らせる重大な事でした。

 スキーメーカーにとって安全を確保できないものは販売が出来なくなりました。ISOやDINと言った国際的な規格で確固とした取り決めが順守され、海外での訴訟や不況の背景も重なり、非常に急激にスキーボード自体がなくなりました。かつてけん引してきた大手各社もリスクを負ってまでと撤退が相次ぎ、妥協のなかでレンタル用の重いビンディングを乗せたスキーボードがかろうじて生き残る、そんな時代がありました。

 ただ、日本ではそういった海外の流れがあまり入ってこず、また国産メーカーの努力などで固定式のスキーボードがリリースされ続けたためにスキーボードのメリットのほとんどを手放した解放式のスキーボードは「妥協のもの」としてしかユーザーに見られていませんでした。運の悪い事にそうしたモデルの多くがエントリーユーザー向けのもの。実際の所ビンディングを実装して従来の価格に近付けるためには、板そのものを妥協せねばならなかったスキーメーカーの事情もあったかと思います。本格的なものはほとんど淘汰され、解放式で本格モデルを謳うスキーボードはありませんでした。私たちを満足させるような上級モデルは、固定式以外になかったのです。

 こうした流れがいつしか「スキーボードは固定式が本来のもの」と言う概念を広く作ってしまったかと分析しています。2010年~2013年頃のお話です。

そこに登場したGR ski lifeという新鋭ブランド

 スキーボードブランドを作ろう!と思ったそのころ。当時のことを思い返すと非常に多くの葛藤をしたことを覚えています。起業準備の為に丸一年費やす中で毎日のようにスキーやスキーボードの事を勉強し、検討する中で「今後に繋がるスキーボードとは?」という点に直面しました。ケガと言うリスクがつきまとう以上その復権はまずもって無理です。ユーザーとしての現場、救護者としての現場、イベント運営者としての現場、様々な現場を見てきた私にとって、今のままのスキーボードは作ったとしても未来はない。何か未来に繋がる工夫をしなければただの自己満足に終わってしまう。そう感じていたのです。

 しかし一つ転機が訪れます。板の試作の為に取り寄せた他社のスキーボードの一つに、スキーボードにとても使える可能性を秘めたビンディングを取り付けたものがあったのです。

 それがチロリアのLRXシリーズとの出会いでした。このLRXはWhiteLandやNoNameに実装されたものなのですが、このビンディングがもしなかったら、GRと言うブランドは起業せずにとん挫していたものと思います。

超軽量レールシステムビンディング

 このビンディングはこれまでのスキーボードに用いられていたレンタル用のビンディングに比べて半分程度の重さしかないもので、しかも非常に簡単にサイズ調整が出来ました。この仕組みは固定式のビンディングと比べても「解放する」と言う点以外ではそん色がなく、大いにメリットがありました。

 が、この「解放する」と言う本来のメリットがデメリットにしか感じません。なので当時の私は自分でも無茶だと思うようなシチュエーションで、体を張ってテストを繰り返しました。しかし予想したような危険なことはほとんど起こりませんでした。むしろ外れてくれたおかげで大けがをせずに済んだテストもあり、この検証は大いに役に立ちました。

 そして生み出したのがWhiteLandとForFreeだったのです。WhiteLandはビンディングコンプリートモデルとして最初から解放式であることを前提に作り上げ、チューンナップも専用に検討して作りました。ForFreeは上記の無茶苦茶なテストの中でも十分にスキーボードと名乗れる、ビンディングが乗せられるハイパフォーマンスな板を目的に作りました。さらに90cmモデルも必要だったのでこのコンセプトをもとに作ったSnowFairyを加え、この3台が晴れてファーストモデルとしてリリースされたのです。

 お気づきの方もいらっしゃるかもですが、実はGRは二つのロゴが存在しています。GRだけのシンプルなロゴと、それに板を組み合わせたもの。GRでは記念すべき特別なモデルにだけこの特別なロゴを使う事にしており、この3機種だけロゴが異なっているのは実に特別な事だったのです。※現行モデルの中だとSnowFairyだけ。今後も特別なモデルが登場するときに使われる予定です。

 この3機種は大いに皆さんのスキーボードのイメージを変え、解放式のイメージも変わったと思います。それだけでなく解放式を採用したからこそ、スキーボードが未来につながった、そういうモデルになったかと思います。実際にこのビンディングは今やスキーボードの主流ともいうべきビンディングになり、さらにそこから進化したもの、他社でも追随した超軽量レールシステムビンディングの登場と、意外に楽しいことになってきています。さらにはリジッドのものでもフリースキーでの採用が増えていることからスキーボードにも相性の良いモデルが多く登場し、解放式ビンディングにおいては今後悩むことはほとんどないような状況にまでなっています。

だからこそこだわる「固定式」

 じゃあ、全部解放式にすればいいじゃん!って思うかもですが、GRはそんなことは考えませんでした。固定式だって同じスキーボード。区別はすれど差別するつもりは毛頭ありません。固定式には固定式の素晴らしい利点があり、リスクマネージメントが出来るのであれば解放式と違った楽しみ方が味わえるのも私自身が知っているからです。
 逆に言うと固定式を取り付けられるのはスキーボードだけ。そんな特別なものを除外するなんて古参ユーザーの私が認めるはずがありません。自己責任と言う事に念を置いてのものにはなりますが、許される限りGRは固定式でも履けるスキーボードは用意し続けるつもりです。

 でもGRでは固定式のビンディングを用意していませんよね?これはいくつか理由があるのですが、一番大きな理由は固定式のビンディングを選ぶ場合にはリスクの事を十分に理解してから使ってほしいから。これはS-B-Bシステムと言うビンディングの認定技術者として、SAJスキーパトロール資格者としてきちんと注意喚起しなければならないという事もあります。

 そしてブランドの代表としてスキーボードのオピニオンリーダーとなった現状。しかも膝がボロボロになっている今では固定式はほとんど履きません。新しいスキーボードを紹介していくために自らが先陣を切って履き続ける事は必要ですし、解放でも更なる技術検討をしていく必要もあります。それとは別に私はこれ以上怪我をしてしまったら……もうスキーボードが履けなくなる可能性があります。それがどうも誤解されて見られてしまっているようです。

 あまりこういうことはこういう場で書くべきではないのですが、私の膝は本来メスを入れて手術すべき状態です。ただそうした後に元通り滑れるようになるのに何年もかかるかもしれない、下手をすると元のように滑れないかもしれない…。そうであるならば、痛かろうが辛かろうが今は手術をしない。そう決断しました。自分自身が開発の軸でもあるため、滑れないという事はGRと言うブランドが皆さんに満足してもらえるような板を提供できなくなるかもしれない。そういう天秤が目の前にあって、私は未来の自分よりも未来のスキーボードを選択しました。
 その中で少しでも膝をいたわる為に解放式を使っています。正直、もしあと一度でもひねるような転倒をしたら……私は多分歩くことすらできなくなると思っています。私が滅多に転ばない理由、実はこういう部分もあるんですよ。

 このように、怪我を意識して固定式を選べない方も大勢いらっしゃると思いますし、怪我をしたくないからスキーボードから離れ、解放式ならばと戻ってこようとしている方も大勢いらっしゃいます。

 そういった皆さんをやさしく受け入れられるのは、長年スキーボードを愛してきた皆さんだと思います。固定でも解放でも、スキーボードの手軽さ、楽しさ、身近さ、簡単さ、それを味わうのには差がありません。ただ少しだけ固定式の方が特別なトリックがやりやすく、解放式の方がリスクマネージメントがしやすい。ただそれだけの違いでしかないです。それを理解できるのは我々長年のスキーボーダーだけ、だからこそ固定式にも解放式にも偏見を持つことなく、それぞれはそれぞれのものとしてお互いに価値観をリスペクトしあってほしいのです。

 その選択肢の為に、未来に繋がるスキーボードを提案するために。GRは固定も解放も変わらずリリースしていきます。ただ明らかに長いロングサイズスキーボードでは固定式のリスクが大きすぎるのでこれは解放式のみにはしますが、安全を確保できる固定式、と言うのがもしあったら実装したいですね。

 今回はブログということもあり個人的なことも含めたかなりディープな話題になってしまいました。ここでお詫びするのも失礼な話ですが、このような考えで進めているブランドですので、どうかご容赦頂けますようお願い致します。


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