スキーの滑走面の劣化って何?

 スキーやスキーボード、スノーボードもそうですが、このスポーツを趣味にしているとどこかで「滑走面の劣化」という言葉を聞くことがあります。よくわからない人にはまるでわからない言葉ですが、快適に過ごすために知っておくと損をしないので今日は解説したいと思います。

 スキーなどの雪の上を滑るスポーツなどで、滑るための構造が「滑走面」です。簡単にいうと板の裏側のことで、この裏側の良し悪しが滑りに色々と影響します。競技スキーの世界だとこの裏側の仕上がりで結果が変わることもあり、とても大事な部分です。

 滑走面は「PE(ポリエチレン)」でできています。よくあるプラスティック素材で、一般だとレジ袋や食品の袋に使われています。特徴は柔らかで頑丈で熱の変化があっても固くならず、破けにくいことです。意外とこの「熱の変化があっても固くならない」というところが大きなポイントで、このような性質のプラスティック素材はなかなか代わるものがありません。
 そのPEを用いてさらにその強さを向上させたものがエクストリューデッドやシンタードと呼ばれる滑走面の素材になりますが、難しくなってしまうのでこの名称は今回は耳に触れておくだけにしておきましょう。

 PEは一般のプラスティック素材の中ではかなり強いものですが、紫外線などによってボロボロになります。皆さんも直射日光にさらされるところにレジ袋を置いておいて、気がついたらボロボロになんて経験あると思いますが、これはポリエチレンが劣化したことによります。

 ポリエチレンはその構造が鎖を何本も束ねたような構造で、この鎖の繋がり方で「HDPE(高密度ポリエチレン)」と「LDPE(低密度ポリエチレン)」に大別されて、その性能も少し異なります。スキーの世界だとこのうち「HDPE」が高級な滑走面に使われて、普及価格帯のものは多くが「LDPE」です。この二つの最も大きな違いは耐熱温度で、HDPEに比べてLDPEはやや高温に耐えられません。またHDPEに比べてLDPEは鎖が切れやすく、鎖が切れると滑走面は劣化します。

 これをイメージするものは、木材です。木材は触れてみるとサラサラに平ですが、実際は繊維が固まってできているもの。ポリエチレンもこれに近い構造と思ってもらって良く、木材の素材の違いや仕上げの違いで手触りが異なりますが、同じイメージでポリエチレンも想像できます。

 仕上がりの悪い木材の表面はざらざらでささくれてあまり触りたく無いですよね。これがポチエチレンの劣化した状態と似ています。鉋ややすりで仕上げた木材はツルッツルでずっと触れていたいくらいなめらかなものもあります。これは素材の違いにも言えて、安価な杉などはささくれやすくて、仕上げても程なくざらざらになりますが、ウォールナット(くるみ)などの家具に使われる硬い木は、仕上げるととても良い肌触りです。さらにオイルやワックスで仕上げたウォールナットの家具は美術工芸品にまでなりますね。

 これと同じようなことが滑走面にも言えて、ウォールナットがHDPE、杉がLDPEみたいなものです。そしてそのどちらもが、直射日光にさらされて手入れされないとささくれてざらざらになってしまいます。これを防ぐために日々メンテナンス、ワックスなどを塗ってツルツルの状態を維持するのですが、いざざらざらにささくれてしまったら、削るなりなんなりしないと元に戻らないのも、木材とポリエチレンが似たようなものと想像できます。

 このポリエチレンの劣化の仕組みは科学的には「加水分解」と言って、加水分解してしまった部分は基本的に削り取る以外に戻す方法がありません。加水分解してしまった部分はポリエチレンの鎖が切れてささくれてしまっている状態で、それを戻すことはできません。ポリエチレンの鎖は熱、紫外線によって切れてしまうので、直射日光はやはり避けるべきものです。
 加水分解されたPEは、元のPEとは別のもの。ワックスも浸透しませんし、ざらざらなので全然滑りません。こうなるともうお手上げ、滑っても板は走らないし、急ブレーキのようになってしまうこともあります。この状態ではいくらワックスを塗っても手遅れで、できることといえば、スクレーパーで表面を削ってささくれた滑走面を除去するくらいです。

 プロの現場ではこうなった滑走面はサンディングと言って、機械ややすりで物理的に削り取ってしまいます。しかし薄い滑走面なのでただ削ればOKというものでもなく、滑走面を削るとどうしてもエッジも削れるので、トータルのチューニングが必要になります。もし滑走面が真っ白になってしまっていたら、一度購入したお店か、GRでもチューンナップなどの受付をおこなっておりますので相談してみてくださいね!

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