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【相性最悪】JTC(ジャパン・トラディショナル・カンパニー)なSIerと新規事業



本記事の概要

・SIerで「新規事業をやれ」ということのヤバさ
・言われた人の絶望

混ぜるな!!危険!!!☠️

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せ、多くの企業が新規事業の立ち上げに力を入れています。しかし、その中でも特に相性が悪いとされる組み合わせがあります。それが、JTC(ジャパン・トラディショナル・カンパニー)なSIerと新規事業です。本記事では、その理由と背景について、私の本業での実体験を交えて深掘りしていきます。

話の流れは、以下の順序で構成します。

  1. JTCって何?

  2. JTCなSIerの特徴

  3. SIerと新規事業の相性の悪さ

  4. 全部組み合わさった時の相性の悪さ

  5. まとめ

JTCって何?

JTCとは「ジャパン・トラディショナル・カンパニー」の略で、日本の伝統的な企業文化や組織形態を持つ企業を指します。特徴としては、

  • 年功序列の人事制度

  • トップダウンの意思決定

  • 保守的な経営戦略

  • リスク回避志向

などが挙げられます。これらの特徴は、安定した経営には寄与するものの、急速な市場変化への対応や革新的な取り組みには不向きとされています。

大企業をイメージする方が多いと思いますが、実際は大企業に限らず小規模ながらも「気分屋なワンマン経営」だったり「社内に社長よりも発言力のある人がいる」などでも同じ様なことが起こりえます。

本業の方はそこそこ歴史あるIT企業なのですが、年功序列制がバチバチにキマっており「取締役が、役職のない先輩社員の顔色を伺う」なんてことも起こっています。

JTCなSIerの特徴

SIer(システムインテグレーター)自体が持つ特性に加え、JTCの要素が加わると以下のような特徴が顕著になります。

  • 硬直した組織体制:階層的な組織で、意思決定が遅い。

  • 技術的な偏り:特定のプログラミング言語やフレームワークに固執し、新しい技術へのキャッチアップが遅い。

  • イノベーションの欠如:自社製品やハードウェアを持たず、受託開発が中心。アイデアや独自性に乏しい。

  • リスク回避志向:新しい取り組みよりも、既存のビジネスモデルを維持することを優先。

こんな状況において、「このままではSESや受託ビジネスは滅びる!新しいことをやれ!!」という【指令だけ】が降りてきます。

なんでそうなったのか、なぜ必要なのかは指示を受ける現場までは適切に降りてきません。
降りてきたとしても、何人もの伝言ゲームを経て、独自の解釈を纏った状態で降りてくることになり、全社通貫の目的意識の統一などは夢のまた夢です。

SIerと新規事業の相性の悪さ

一般的に、SIerと新規事業の相性はあまり良くありません。その主な理由は以下の通りです。

  • 自社資産の欠如:ハードウェアや独自のソフトウェアプロダクトを持たないため、新規事業のベースとなる資産がない。

  • アイデアの不足:クライアントの要件に応える形で業務を進めてきたため、自発的なアイデア創出が苦手。

  • スキルセットの限定:プログラミングやシステム構築に特化しており、マーケティングやユーザーエクスペリエンスなど、多角的な視点が欠けている。

多くのSIerは日本の多重下請け構造の中に組み込まれていて、ビジネスモデルは要は「人売り=労働力の提供」でしかありません。基本的にかけられる予算は「人件費がほぼ100%」という構造が非常に多いと思います。
つまり、「何か新しいツールや社外の専門家を別途雇おうとしても、決裁が降りない」ということがザラに発生してきます。
つまり、大抵の場合は「今いる人たちでできること」をやるのがせいぜいということになるのです。そして、SIerの中に本物のエンジニアは少数または居ないため、スキルセットは社員数に比べて驚くほど選択肢が少ないものになります。

そして、この「今いる人たち」に能力が高い人が揃っているかは甚だ疑問です。
なぜなら、各チームは「主力を手放すことはしない」からです。

ここで「全社通貫の目的意識が統一できていない」ことが効いてきます。
どのチームもマネージャも「自身のチームを犠牲にしてエース級を出す」なんてことはしたくありません。それは当然です。だって、協力のためにエース級が抜いたとして既存事業に遅延が発生すると、「協力した」という背景は無視され「遅延した」という事実だけで詰められるからです。

となると、出てくるのは「チームにいてもいなくても差し支えない人」が多くなります。
こうして、SIerの新規事業チームは「やる気と能力の低い人たちの集まり」となり、「任命されたリーダーだけがやる気が高い」というねじれ状態が発生します。

日本のSIerの現状については、日経クロステックさんのコラムの「極限暴論」が詳しいので読んでみると理解が深まります。※要会員登録

全部組み合わさった時の相性の悪さ

これらの要素が組み合わさると、相性の悪さは倍増します。
ここは長くなってしまうのですが、実体験をもとに詳しく書きます。
JTCだからキツいことと、SIerだからキツいことに分けます。

JTCだからキツい

1. 迅速な市場対応が困難

JTCは、階層的で硬直した組織構造を持つため、意思決定プロセスが遅くなります。新規事業では、市場の変化に迅速に対応し、スピーディに製品やサービスを投入することが求められますが、JTCなSIerではこれが難しいです。

具体例: 例えば、スタートアップが市場のトレンドに合わせて新しいアプリケーションを迅速に開発・リリースしようとする際、JTCでは承認プロセスや内部調整に時間がかかり、タイムリーな市場投入が遅れてしまいます。その結果、競合他社に先を越されるリスクが高まります。

2. 人材の活用不足

JTCでは、従業員が特定の役割に固定され、柔軟に多様なスキルを活用することが難しいです。新規事業では多岐にわたるスキルセットが求められるため、人材のポテンシャルを十分に引き出せません。

具体例: 新規事業チームにマーケティングやデザイン、ビジネス開発の専門家が必要なのに、JTCではエンジニアリング部門に人材が集中しているため、他部門との連携が不足します。その結果、プロジェクト全体のバランスが取れず、製品やサービスの質が低下する恐れがあります。

3. リスクマネジメントの欠如

JTCはリスク回避志向が強く、安定志向のために新しい挑戦を避ける傾向があります。新規事業ではリスクを取って新しい市場や技術に挑戦することが必要ですが、JTCなSIerではこれが阻害要因となります。

具体例: 例えば、新規事業でブロックチェーン技術を活用したサービスを開発しようとする際、JTCの上層部はその技術の不確実性や市場の成熟度を懸念し、プロジェクトを中止する可能性があります。このような保守的な姿勢は、新規事業のイノベーションを阻害します。

4. コミュニケーションの非効率性

JTCでは、トップダウンのコミュニケーションが主流であり、現場からのアイデアやフィードバックが上層部に届きにくいです。新規事業では現場の声や市場の声を反映させることが成功の鍵となりますが、このような環境では実現が難しいです。

具体例: 新規事業のアイデアが現場レベルで豊富にあっても、それが上層部に伝わらず、具体的なプロジェクトとして形にならないことが多々あります。また、フィードバックループが遅いため、開発中に市場のニーズが変わっても迅速に対応できず、結果としてプロジェクトが失敗する可能性が高まります。

5. 文化的な抵抗

JTCなSIerでは、長年培われた企業文化や慣習が根強く残っており、新しいアプローチや考え方に対する抵抗があります。新規事業では既存の枠組みにとらわれず柔軟な発想が求められますが、これが阻害されます。

具体例: 新規事業チームがフラットな組織構造やアジャイルな開発手法を導入しようとしても、従来のピラミッド型の組織やウォーターフォール型の開発プロセスが根強く残っているため、改革がスムーズに進まず、チームのモチベーション低下やプロジェクトの遅延を招きます。

SIerだからキツい

1. 独自価値の創出が困難

JTCなSIerは、受託開発中心のビジネスモデルを持ち、自社製品や独自の技術を持たないことが多いです。新規事業では差別化された独自の価値を提供することが重要ですが、JTCなSIerではこれが難しいです。

具体例: 新規事業として新しいIoTデバイスの開発を考えても、JTCなSIerはハードウェアの知識や経験が不足しているため、独自の製品を創出することが困難です。また、プログラミングスキルに偏りがあるため、ソフトウェア面での革新は期待できても、ハードウェアとの統合がスムーズに行えません。

2. 資源の制約

新規事業には専用の資金や人材、時間が必要ですが、SIerでは既存のプロジェクトや業務が優先され、新規事業に十分なリソースを割くことが難しいです。

具体例: 新規事業に取り組むために必要な予算が既存の受託プロジェクトに吸収され、開発資金が不足するケースがあります。また、人材も既存プロジェクトに縛られ、新規事業専任のチームを組むことが難しいため、プロジェクトが停滞する原因となります。

3. 顧客志向の欠如

SIerは受託開発が中心であるため、クライアントのニーズに合わせたソリューション提供には優れていますが、自社の顧客志向で新しい価値を創出することが苦手です。新規事業では自社のビジョンに基づいた顧客価値の創造が重要ですが、この点で課題があります。

具体例: 新規事業として自社ブランドのサービスを展開しようとしても、クライアントの要件に合わせた受託開発が優先されるため、自社の顧客層に合わせたサービス設計やマーケティング戦略が不十分になります。その結果、顧客の期待に応えられず、サービスの普及が難しくなります。

  • 迅速な市場対応が困難:組織の硬直性と意思決定の遅さが重なり、市場の変化に追いつけない。

  • 独自価値の創出が困難:ハードウェアや独自のソフトウェアがないため、差別化が難しい。

  • 人材の活用不足:多様なスキルやアイデアを持つ人材がいても、組織文化や体制がそれを活かせない。

まとめ

JTCなSIerと新規事業が組み合わさることで、組織の硬直性、リスク回避志向、リソースの制約など多くの障壁が生じます。これにより、新規事業の立ち上げや成長が著しく妨げられ、企業全体のイノベーション能力が低下するリスクが高まります。

本記事では一旦、問題点を挙げ連ねました。
これらは基本的には本業で経験したことなので、割と多くの企業に当てはまるのではないでしょうか?

今後は、解決策などを体験ベースで解き明かしていきましょう!

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