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なぜ批判的になるのか?

鳥井一平 2020 『国家と移民「外国人労働者と日本の未来」』

この本の著書である鳥井さんは特定非営利団体活動法人「移住者と連帯する全国ネット
ワーク」、略して移住連の代表理事である。日本に暮らす移民や海外にルーツをもつ人び
との権利と尊厳の保障を追求し、誰もが安心して自分らしく生きられると同時に、多
様性を豊かさと捉える社会を目指して活動する NGO です。
この本は、外国人労働者がどのようにして日本で働く人びとが経験した事柄や、
外国人労働者の労働環境、外国人労働者受け入れの政策の歴史、これからの日本の
移民社会について書かれています。その中でも実習生の実態について、中国人女性
たちが山梨県のクリーニング工場から東京まで避難してきた事例を知り、このよう
なことが実際に起こっていることに驚きました。彼女たちは、縫製、婦人子供服製
造の技能実習という名目で日本にきたが縫製の仕事はいっさいさせてもらうことが
できず、ずっとクリーニング工場で働かされていました。その上、信じられないほ
どの低賃金で働いており、彼女たちが待遇改善を要求すると社長たちは、暴力的手
段を使って彼女たちを強制帰国させようとした。
このような技能実習生の人々に対して暴力的な行為が起きる背景について筆者
は、「研修と技能実習の混同とあいまいな解釈に加えて教えてあげるという傲慢さ
が蔓延しているがゆえに奴隷労働の温床となっている」(p.16)と説明していま
す。
この本の中で興味深い指摘は、今後日本に来る技能実習生は減少するだろうとい
う点です。いま、技能実習生たちの渡航先としては韓国の方が人気であり、日本に
来る技能実習生の多くは第二希望で来ています。韓国は、外国人労働者も韓国人労
働者と同じ待遇で労働基準や給料が同じであるため、人気が高い。政府機関の「外
国人力支援センター」(全国に八カ所)は、外国人労働者の仕事や生活の相談に乗
るほか、必要な場合には援助も行い、帰国前には母国での就職を見据えた技術指導
も行っています。韓国の外国人労働者は、このように政府の手厚い管理の下でそれ
ぞれの仕事に就いているのだといいます。
これまでも外国人労働者は日本の経済を支える重要な役割をしてきました。しか
し、彼ら彼女らが日本人の仕事を奪うとか犯罪が増えるなどといった間違った見方
がまかり通っています。本書では、外国人労働者=悪者だとか、監視の対象者とみ
なすのではなく、一人一人にそれぞれのストーリーがあり、そこを正しく見据える
ことが必要で、単なる労働力や働きに来てくれるだけで良いというように捉えるの
ではなく、人として捉えることが重要であると強調されていました。

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