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アイス珈琲は甘くして飲むもの

「ようやく飲めるようになったわ。」

やっと飛び込んだ店で、ひとつ目のガムシロップを入れながら彼女はそう言った。

ただでさえ、気温が上がり始めるこの季節。それに加えて今日のこの日差しは、また「地球温暖化がどうのこうの」という話が出そうな照りつけ方だった。

「あんたがゴミの分別ちゃんとやんないから、こういうことになったのよ。」

何で強い日差しが、即、それに結びつくのか、いつも疑問に思うのだが、そう言って、日頃の不平を解消しているのだったら、それも仕方ないことなのだろうと思う。


「まあ、とにかく、アイス珈琲は甘くして飲むものよね。」

そう言って、ふたつ目のガムシロップを入れると、彼女は満足そうにそれを飲んだ。

それだけは、僕もそう思う。


                 ※


食事の後、床に横になりながら、「世界の車窓」を観るのが好きだ。

家に居ながらに、世界を旅できる。こんないいことはない。

遠い所へは、それが好きな人に行ってもらうので充分だ。


「あ、ベトナムの電車。私、これ、乗った。」

横目にテレビを見ながら、読んでいた雑誌を一瞬伏せて、彼女はそう言った。

「そうそう。ああいうところの珈琲って、冷たくて、コンデンスミルクたっぷりで、めちゃくちゃ甘いのよね。でも、それがなぜかああいう気候に合うのよね。」

「ふうん。そんなもんかね。」

「そういうのだけはね、現地行かないと。わかんないもんなのよ。」

事業を始めてから、すっかり東京を離れることができなくなっていた。今後も遠出の予定はない。そんな、日常の不満を言いたかったのなら、それも仕方のないことだと思う。


「まあ、とにかく、暑い国では甘いか辛いか、はっきりした方がいいのよ。」

そう言って、再び何事もなかったように、彼女は読みかけの雑誌に視線を戻した。


冷たい珈琲は、甘くして飲む。

それだけは二人に共通していた。

そこだけは、僕もそう思う。


                  ※


神保町へお越しの際は、是非お立ち寄りください。

あなたはアイス珈琲は甘くして飲みますか?

お待ちしております。

                    (この物語はフィクションです。)

Coffee. / Aso
Aso
2019

(本文の最後に、お店でよくかける音楽を紹介しています。お家でお酒を飲まれる際に是非どうぞ。今度お店に聴きに来てくださいね。)

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