ハンチバックを読んで創作者としてぐさぐさ刺された話
webでこっそりR18作品を書いてる全ての人にブッ刺さる芥川賞作品をレビュー
文藝春秋を借りた
こんにちは。趣味でBL小説を書いてるグロッタです。ウェブ小説でインセンティブを頂いているため夫にも小説を書いていることは打ち明けているのですが、夫は妻が何を書いているか内容は当然知らない。
(BL小説書きの方で既婚者や子持ちの方は多いですが、皆さんどうしてるんだろう。旦那さんも知ってる?)
同様に私の妹とその旦那さんにも小説を書いてウェブで投稿してるということは話したことがあります。旦那さんがとても読書家なのですが、今のウェブではこういうのが流行ってるんだよ〜という雑談をしたことがあります(主にラノベの話。追放ざまあとか悪役令嬢とか俺TUEEとかね。BL書いてることは伏せてる)。
そんなある日、妹が子連れで我が家に遊びに来てくれました。旦那さんも仕事後に寄ってくれて、帰り際に「そういえば芥川賞の受賞作読んだ?」と尋ねられました。
うっすら授賞式のニュースを見ていて「たしか障害のある方が受賞されていたな。カタカナのタイトルの作品で……」くらいの認識でした。そう返すと「短くてすぐ読めるし面白かったよ。じゃあ今度文藝春秋貸すね」と言って親子は帰っていきました。
そして今日、妹が梨のおすそ分けのついでに文藝春秋を持って来てくれたのです。
一気読みしてしまった…
今日のところは途中まででもとりあえず読んでみよう。と思いつつページを開いたのですが、結局一気読みしてしまいました。ページ数はそう多くない短編なのですが、ページ数に対して内容が濃すぎていちいち立ち止まってぼうっと考えてはまた本文に戻る――みたいな読み方をしちゃいましたね。
受賞式のインタビューなどを見るに障がいの当事者としての出版に対する怒りやメッセージが一番伝えたかったことなのだとは思います。もちろんその点についてもなるほどと思うことはあったのですが、それ以外に創作者、しかも文字書きという立場にある人間としてグッサグサにに刺さる部分が多々あったのでその辺を感想として記しておこうと思います。
冒頭ハプニングバーの潜入レポからはじまる!?
こうやってこの作品に対して書くと「けしからん」と言われそうですが私はこの話を読んでいる最中に何度か吹き出すほどに笑いました。あ、当然身体的なことに関する部分ではないですよ。「わかる〜!」という共感からくる笑いです。
作中で主人公の釈華さんは身体的に障がいのある女性なのですが、ウェブライターとして素性を隠し男性目線でハプニングバーの潜入レポやナンパスポット記事などを書いてるんですね。(外に出られない方なので当然取材などしていないコタツ記事)この匿名性というか、どんな人が書いてるかわからないウェブ記事の有象無象さというか、冒頭からすごくいいですよね。
しかもこのハプバ記事の中にワセジョSちゃんのEカップの胸の例えとして「梨のように白く」って出てきて、この本を借りたときに一緒に受け取った梨が思い浮かんでまず吹き出してしまいました。
もらった梨食べるときぜったいミキオのハプバ記事思い出しちゃうじゃん!
釈華さんは『ミキオ』としてライターをやってるだけじゃなくて、小説投稿サイトに連載しているTL作家でもあるんです。TLとはティーンズラブのことですね。女性向けのちょっとエッチな恋愛小説のジャンルで、BL書きとしては親近感が。どちらもR18の女性向けファンタジーという意味では共通してると思います。それをこれまで10冊以上も出版して印税稼いでるっていうから釈華さんは我々素人文字書きにとっては大先輩なわけです。
書き手として主人公には共感しかない
この時点でもう書き手として共感と羨望が生まれてしまいませんか!?
しかもメジャーな文学賞を取るような作者さんとは違う、R18物書きの自虐的な気持ちというか、家族にも言えないものを書いてる人間の気持ちっていうんですかね。10冊本出してるってことは売れてるわけで、胸を張っていいはずなんだけどその印税を釈華先生は「尻軽な金だ」とバッサリ。(いうてこの方は印税も寄付してますからね。天使なの、SNSの発言は過激だけど。行動が天使だから口だけ偽善者よりよほど清らかなんよ)そして「♡喘ぎ」は「品性に欠けるので私は使わない」という釈華さんの気持ちが痛いほど想像できちゃうんですよね。エロ書いてる時点でエロを書かない作者にしてみれば♡喘ぎだろうがそうでなかろうが品性も何もないわけで。でもそこに謎のプライドみたいなものを見せてしまう作者の気持ち、わかるなぁ。私の書くBLでもアホエロ作品には♡喘ぎ入れることもあるけど、シリアスだと入れないもん。
とにかくこの性的な文章を書いてる自分をメタ的に見てる感覚がわかりみすぎてイタタタ……ってなっちゃって。R18作品書いてる人みんなわかるよね!? あんあん(喘ぎ声)で文字数稼げる、とかさ。わかるー、「……」も入れたらもっと増えるよね。濡れ場を何作も書いてたら「この言い回し前も使ったかな? 読者さんに毎度同じって思われるかな」とか。真剣に頭悩ませてる中でふっと我に帰って「私は何をやってるんだろう…」てなる時あるよね。BLの紙の公募に何度か出したことあるんですけど、募集要項に「挿入までしてるエッチシーン必須」とか普通にあるからね。どんな世界だよ。芥川賞の選評されてる先生はご存知ないかもしれませんが現場からは以上です。
「おいで」が嫌いな釈華先生
そして挙句の果てに釈華先生がTLの人気シチュエーションである「おいで」が嫌いっていう話でまたまた吹き出したよ!
もう、これ最近BL界隈でもXで盛り上がってたやつじゃないですか! TLでも人気なんだね!? 私は個人的にそこまでこだわりのあるシチュでもなかったので「なるほど〜」と流れてくる皆さんのBL作品における「おいで」を眺めていました。そしてTL書きの釈華さんはこれを「嫌い」だと思いながらもきっと読者のために書いてるんだろうなぁと思うと、なんかもうエモすぎて。誰かにこのことを話したくて話したくてすっごくむずむずして、今これを書いてるわけです。
だってこの話をするには私がR18BL書きだとバラさないといけないじゃないですか。だから貸してくれた旦那さんには言えないわけです!
ってここまで芥川賞受賞作をどんな目線で読んでるんだよと怒られそうな感想しか述べてないわけですが、それだけこの作品の釈華さんのキャラクターがリアルでいきいきしていたということなんですね。めちゃくちゃ感情移入しちゃいましたよ。
田中というインセル予備軍
それだけに、田中とのシーンはキツくて。仕事は丁寧だが某たぬ○なさんによると○権のない小柄な田中。彼はヘルパーさんでありながら、釈華さんのことを羨んでいるんですよね。釈華先生、親の遺産で超お金持ちなうえ長身なので。それでちくちく言葉で攻撃してくるんです。そして釈華さんのSNSアカウントを特定して……という流れなんですが。
以前Youtube動画の「街録チャンネル」で障害者向けの性サービスをされてる方の回を見たことがあるんですよ。それで障がい者にも性欲があるということ自体には事前知識がありましたが、まさかこうきたか〜! という展開へ。田中こんにゃろー。
しかもちゃーんと田中が「おいで」と言ってきやがって「田中に言われてもスパダリに言われてもむかつく」って思っちゃう釈華先生。悲劇と喜劇ってまじで紙一重ですよね……。(しかし芥川賞受賞作の中に『♡喘ぎ』や『スパダリ』って言葉出てくるのすごくないですか)
生き返ったら高級娼婦なりたいというある意味での転生願望?
ラストシーンでは梨のような胸のワセジョSちゃんこと紗花ちゃん視点で文章が書かれて、彼女がホス狂いの風俗嬢であることがわかります。
いや、待て待て面白すぎるだろ。兄ちゃんが施設で人をコロした? え、田中の妹てこと?? えーとこれは「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」釈華先生の願望が田中との行為(未遂)により孕んだ幻ってこと?
大変エネルギッシュで面白かったです!
もう最初から最後まで感情があっちこっちに揺さぶられてとんでもないものを読んだという感想ですね。読後感が悪いというレビューも見かけたけど、私はむしろスカッとしたかなぁ。釈華先生は前向きですよね。やらずに後悔するよりチャンスがあればやってみようぜっていうエネルギーを感じる。結果はどうあれ、障がいがあってもやりたいことやって何が悪いんだ? というパッションを感じました。
元々エンタメ作家を目指されていたというだけあって、文学的でもあるけどエンタメ性もありますよね。怒りで書いたっておっしゃってましたが、読者を楽しませようという気がなかったらああいう構成にはならないと思うし。
とにかく素晴らしい作品を読ませていただきありがとうございます。
ラストシーンについては本を返すときに妹の旦那さんと談義してみようと思います。これくらいなら私がBL小説書きであるとバラさなくてもできそうだから。
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