[groovisions 100 works] 機能のグラフィック
groovisionsのデザイン・アーカイブをテーマごとに解説していく企画です。
登場人物はgroovisionsのメンバー。第1回目は機能のグラフィックについて。
そもそも無地がいい?
伊藤:こういうプロダクトの機能やスペックをそのままグラフィックにしたものって結構つくっていて・・・たぶん一番最初に作って、しかも一番わかりやすい例がカクメットのような気がします。基本的にはスペックというか、マニュアルみたいなものがそのままプリントされている。例えばこういう製品には、プロダクトを説明する何らかの紙資料が添付されていたりするんだけれど、この添付されている資料を、全部表面に出しちゃっているのがこのシリーズの始まりで。実際は装飾的なものなんだけれども、よく見れば機能やスペックの説明になっているという・・・
原:カクメットのプリントは実際マニュアルの内容どおりなんですか?
伊藤:そうなんだけれども・・・そもそも論からいくと、あんまりプリントとかほんとは入れたくないじゃないですか、やっぱり。
原:無地がいい?
伊藤:そう。デザイナーって自分ら含めて、どっちかというとバウハウス以降のモダンデザインが染み付いてる人が多いから、基本的には装飾って悪なんだよね。飾りが入っていないのがベストなんだけど、なかなか現実的にはそういうわけにもいかず、何らかの形で装飾を加えて他との差別化をする必要もあったり。
原:商品の場合、まぁ、そうなりますよね。
伊藤:そう。あえてなにかプリントしないと成立しないケースも多くて、その時に「これは困ったな」と。そこでイラストでもいいんだけれども、できればなるべく根拠があるものを、ということで、実際に商品そのもののマニュアルをプリントしていこうというシリーズなんだよね。無地でいいんだけどそうもいかず、それに対する苦肉の策として生まれているから、実際にそこに入れてあるマニュアルがほんとうに機能するわけではなくて、基本的には装飾。
原:例えばポスターのデザインで、絵があって、こういう規定文とかクレジット的なものって、デザイナーとかは邪魔だと思って。
伊藤:そうね。
原:で、「なるべく小さくていいので、すいません、これ入れてください」とか言われるんだけど、案外そうイヤなものでもなくて。それはそれで素材になったりもする。ちょっと逆転しているような、完全にネガティブなものとは考えていないというところがあるんじゃないですか
伊藤:そうね。本来は、こう隠したり、小さくしたりして目立たなくないようにするものを反転させたっていう意味がけっこうあるのかもしれないですけれどもね。
原:これはそもそもBRUTUSの企画から生まれたんでしたっけ?
伊藤:そうですね。そしてコラボレーションでカクメットを。
原:イエローさん(カクメットの製造会社)から頼まれたのはタタメットのほうでしたっけ?
伊藤:最初はカクメット。BRUTUSの企画で長山智美さんとイエローさんとうちの3社コラボみたいな感じ、「買えるブルータス」の企画でした。
反転する中と外
伊藤:まあ、そんな感じで一度カクメット作ったじゃないですか。それを同じコンセプトで次から次へと別のデザインを作っていくのがgroovisionsなところで(笑)
原:このダイネックスのマグも取説ですかね。
伊藤:このあたりも、ほとんど機能としては全く意味はないんだけど、純粋に装飾というわけではないところが屈折してるよね。
原:ここにはないけど、なんかすごく吸湿性のよいタオル、サイズだけでしたっけ? 機能とか、素材とか書いてました?
伊藤:ああ。ありましたね。あと、アイスブレーカー。アイスブレーカーはメリノウールで、比較的デリケートな素材なので洗い方とかそういう必要な説明書きがプリントされている。
原:これはほんとに必要なものですよね。実際に機能してる。
伊藤:あと、椅子、カーミットチェアの座面。カーミットは確かに、しばらく使っていないと、これはどうやって組み立てるんだっけ?、というふうになるのは確かにそうで。
原:一応、使えるイラストで。
伊藤:久しぶりにカーミットを組み立てたとき、実際に役に立ったことはあったよ。
原:タイベックで 作ったテンベアのバッグもこれの派生ですね。
伊藤:このプリントネームも黒板Tシャツの使い方ですね。
あとは、その風街の新聞広告とか、この本(groovisions 100 tools)とかは、コンセプトは違うんだけど、あえて共通点があるとすると、ちょっとどこかで反転しているということかな。本来だと隠したり中に入れたりするものを表にして。この流れの中からいくと、タイベックのシートも。タイベックのシートは、本来だと、本のテキストは内側にしまわれているべきものなのに、それがもう前面に出ちゃっているという。なので、そういうことのような気がしますね。この反転のテーマはまたいつかもう少し掘り下げてみたいです。
機能美とは根本的に違う
原:このnoteの企画って、そもそもクリエイター志望の人に対する講義目的なんですか? それとももうちょっとコンシューマー向け?
伊藤:どっちかというとなにか将来クリエイティブなことをやりたい人に向けてのものですね。それがデザインかどうかわからないけど、自分はそういった人に向けた講義を散々やってきて、この際、記事としてまとめてしまっていいかなと思って。だけど普通にマニュアル化しちゃうとAIが書いたような体裁になっちゃうんですよ、今日日。だからうちのメンバー巻き込んで対談形式にしようと企画しました。
原:コンシュマー向けとしては、ちょっとデザインの細かい話のような気がして、普通の人にもわかりやすい言葉がないかな、、、むしろ業務用っていうか、本来装飾的なものではない単純に機能美みたいなものを前提として考えたほうがわかりやすいのかも?
伊藤:そうですね、まずは機能美ありきで、そこを通過してないと意味がわからない。機能美の誤った使い方をやってるから屈折してる。うちらも古い人間だからやっぱりどこかに、根底にやっぱり装飾に対する嫌悪感、やましさみたいなのがどこかあるんだよね。ものすごくシンプルに見えるんだけど、表現としては二重性がある。
伊藤:一方で本当に機能するアイスブレーカーやカーミットの例とかそういう扱いもあって、、実際それは本当に役に立つわけで。たとえば、ほんとうに機能が重要なアウトドアウェアのベースレイヤーとかあるじゃないですか。あれ買う時はいいんだけど、パッケージとかなくしちゃうと、その機能性ってのがわかんなくなっちゃうんだよね。例えば発汗することによって、熱を蓄えるウォーム系とか、発汗性・速乾性を重視したドライだったりとか、その実際肌触りを冷たく感じるクールなものだったりとか、いろんな種類があったりとかするんだけど、あとでほんとにわかんなくなったりするんだよね。そういうものこそちゃんとパッケージがなくてもわかるように明記しておきたいわけで。そういう機能がどういうものであるかっていうのが確実に記されていてほしいジャンルというのが実は確実にあるんですよね。
そうなってくるとものの使い方だったりとか、いわゆるUXに近い概念に近くなってきていて。例えば、一時、セブンイレブンのコーヒーサーバーのRとLの意味がわからないみたいな、ああいうのはただ単にUIの話じゃないですか。けっこうそういう世界と近づいてくるんだよね。ほんとに機能性とグラフィックデザインと関わりを考えると、どんどんUIとかUXの世界に近づいていく。僕らがやっていることは、根本的にはそうではなくて、逆に機能性を半分笑い飛ばしている、そしてそれを反転させて装飾にしているというのをうちはやっていると思いますけれど。
原:こういうのはあえて?
伊藤:そう。こういうのは業務用グラフィックがかっこいいというか、そういう視点はある意味普通というか定番だと思います。
原:機能というよりは機能美ですよね。
伊藤:そういっちゃうと、例えばああいう…川崎のあたりの工場の夜景とか、そういうような話の気がしますけれどもね。だから本来ある機能性みたいなところからを逸脱して美的に見てしまう、そういう見方としては昔からある見方だけれど、groovisionsがやっているのはそうした一義的な機能美とはやはり根本的に違う。それがうちの特徴かもしれないですけれどもね。
原:個性というか。
伊藤:そうですね。
伊藤:この時計をみると、、時計のクロノグラフって、昔の飛行機乗りの「あと燃料がどれくらい残っている」「あとどれだけ航続距離がある」とかそういうのを計測するための機能だったんだけれど、今、もちろんそういう用途はないわけ。純粋に装飾的なものとしてかっこいいから残ってるんだけれど、それをあえてうちはものすごく単純化して、例えば一番生活において役立つのって3分でしょう、10分でしょう、とか。そういうところにフォーカスしたもの。
原:わかりにくい、、二重、三重にまわってまわって・・・
伊藤:笑。本来クロノグラフな機能が装飾として残っている現状を皮肉っている。さらにそこで、スマホありきの現在で、腕時計で3分を計測する必然性もないわけだから、三重に屈折してるよね(笑)