その⑨考察(カテゴリ分析)

本研究では、ティール組織やシェアド・リーダーシップ組織の中心となる人物にインタビ ュー調査を実施し、ティール組織で説明されるようなチームを立ち上げ、成功へと導くため に必要なスキルとそれを実現する人物の特徴を検討することを目的とした。以下、カテゴリ ー分析、KJ 法の結果をもとに考察する。

〈カテゴリー分析の結果から〉
カテゴリー分析の結果、ティール組織の形成に寄与する人物のスキルと特徴として、“組 織つくり”と“組織文化の醸成“という 2 つのカテゴリーにわかれた。組織つくりのカテゴリ ーの中では、[持続性][共感][責任感][行動力]の 4 つのカテゴリーに分けることができた。 この組織つくりのカテゴリーは、組織を形成する前の人を集める段階の招集期とタックマ ンの集団発達モデルの形成期に当たると考えられた。
[持続性]という観点では、ティール組織の形成に寄与する人物の特徴の 1 つとして、組織を形成する際、長く 続くことを望んでいることが考えられる。ラルー(2018)は「ティール組織のリーダーたちは、 理想の職場の在り方として、家族とは別の比喩を使う。実は彼らの多くが、自分の組織を『生命体』や『生物』ととらえている。」と述べている。生命体や生物とは、子孫繁栄を行いそれぞれの生命体や生物は長い歴史を持っている。しかしながら、現在、社会問題として見ら れている、地球温暖化のように人間が生命体や生物に意図的に手を加えたために、生命体が 破壊されている現実がある。つまり、生命体とは意図的に手を加えたために、生命体を破壊 され持続性が低下しているならば、生命体とは意図的に手を加えなければ生命体は持続性 が上がることが考えられる。また、この状況は、人間が生命体や生物体を支配している状態 であり人間と生物に支配する側と支配される側という上下関係がうまれていると言えよう。 すなわち、ティール組織の形成に寄与する人物は、組織を生命体や生物として捉えているな らば、仲間の意志をコントロールすることや、形成した組織を支配するというより、特別な 手を加えず、自然の摂理に反さずに無理にコントロールしない組織つくりを心掛けている と考えられる。
[共感]という観点では、自分自身が掲げる目標 やビジョンに共感した人たちを誘うというよりは、はじめは共感した人たちがビジョンや 目標に対して行う行動に手助けとして参加をしているが、共感の気持ちが強くなるならば 手助けとして参加することを継続し、自然と組織の一員として加わっている状況が組織の 形成として望ましいと考えているということが伺えた。つまり、ティール組織とは現代社会 のように「入社」という契約して仲間になるような表現はあまりふさわしくないことが考え られた。ラルー(2018 年)は、「自然は、自己組織化に向かうあらゆる有機体の欲求に動かされて、常に、どこかで変化している。」と、述べている。すなわち、はじめは共感を得ても 価値観や思想というのは日々の経験が重なって形成されるものであるから、共感をして参 加しても、組織も個人も常にどこかで変化しているものであるから、おそらく途中で共感で きない場面ができてくる。その場合その人たちは、無理に組織へ所属する必要性はなく、共 感できなくなると活動に参加しなくなるが、それは「抜ける」や「脱退」などのマイナスな イメージはない。持続性と同様、組織とは生命体であるため、集まってくる人たちの今まで の経験から作り上げてきた価値観が似ている人、または同じような人でありかつ、強制的で はなく「これに参加したい」や「これをやりたい」という意志を持っている人たちが集まっ ている組織であるように心掛けており、気持ちの変化にも柔軟に対応していると考えられ る。
[責任感]という観点では、自分自身が掲げた目標を達成するために信念を貫くことや、現実 的に、集まってくれた仲間が働きやすい環境をできるかどうかが大切であるということが 考えられる。
[行動力]という観点では、自分自身が掲げた目標やビジョンに対して達成するための行動は 積極的に行っていく様子から、目標達成に対するこだわりやそれに対する信念の強さがあ ると考えられた。
以上の 4 つのスキルは、ティール組織を形成する際の特徴であり、形成する人たちは、組 織が長く続くことを願い、そのためにビジョンや目標に対して共感した人たちを唐突に仲 間にすることはあまりなく、段階を踏んで組織の一員となり、組織が形成されていくのでは ないかと考えた。同時に、掲げた目標やビジョンに対して全うすることを信念とする責任感 や掲げたことに対する達成へのこだわりから率先して行動する人物であると考えられた。 つまり、ティール組織を形成する人の役割としては、明確な目標やビジョンを掲げ、それに 共感をし、集まった人たちが仲間となるが、その人たちを自分の意のままにコントロールや 支配をするのではなく、あくまでも仲間の「この仕事をやりたい」や「この仕事を共感でき ないからやりたくない」という意志を尊重しながら形成することであると考えられた。

また、”組織文化の醸成”のカテゴリーでは、[コミュニケーション][多様性][自然体]の 3 つのカテゴリーに分けられ、タックマンの集団発達モデルの騒乱期、規範期、遂行期に当た ると考えられた。
[コミュニケーション]という観点から、組織内では コミュニケーションを重視している様子が伺えた。ラルー(2018 年)は、「ティール組織には 重要ではない人はいない。社内のだれもがあらゆる情報に同時に接することができる。」と 述べており、「組織階層が存在しないので、どのチームも最善の判断をするには入手可能なあらゆる情報を得る必要がある。情報が公表されないと、『なぜわざわざ隠すのか?』とい う疑念を生む。疑念は組織への信頼にとって弊害である。だれかが知っていてだれかが知ら ないと、非公式な階層が再び現れる。」と、述べている。つまり、ティール組織を形成して いる人たちは、友好関係を深めるためのコミュニケーションをとるだけではなく、組織内の 人たちの全員に平等に組織内の情報を認知してもらうことを心掛けており、平等な立場を 保つための手段として使用しているのではないかと考えられた。また、情報量が平等である ということは誰か 1 人が組織を支配しているというよりは、全員で組織をコントロールし ているように考えられる。従来のトップダウン型のような、組織の階層の上層部が主に意思 決定権を所持していることや、ボトムアップ型のような部下の意見を吸い上げて意思決定 をするというような、最終的には組織の上層部が意思決定するという形はティール組織に ふさわしくないように考えられた。ティール組織は、組織を形成した人物が必ずしも最終的 な意思決定を下すのではなく、全員が意思決定権を所有しているという観点から、ティール 組織とは上下関係を生まない環境の 1 つではないかと考えた。また、組織の中で上下関係 や役職、立場などを作らないことによって常に対等な関係になるため、より円滑なコミュニ ケーションが行われやすいのではないかと考えた。
[多様性]という観点では、ティ ール組織を形成する人物は組織内に多様性を求め、そこからより良いアイデアが生まれる ことを望んでいるのではないかと考えた。
[自然体]という観点では、組織に集まった人たちは計算された勧誘や強制的に参加を強いら れたのではなく偶然で運命的な出会いをした人たちであることを望んでいると考えた。テ ィール組織を形成する人物とは計算外や予想外な出来事をポジティブにとらえているのだ ろう。自然体とは、飾らない自分であることを示しており、ティール組織とは自然体の状態 の自分、つまり、ありのままの自分を受け入れている組織環境であるともいえるだろう。す なわち、自尊心が高められる環境であるともいえよう。川西(1995)は、「self-esteem の高さ はストレスの有害性の認知的評価と関係があると示された。すなわち、self-esteem の低い 者は日常でストレスを感じやすいと言えよう。」と、述べている。つまり、ティール組織が 自尊心を高めることのできる環境であるならば、ストレスの感じにくい組織環境であると いえる。
以上の 3 つのスキルは、ティール組織の文化を醸成する際の特徴であり、例えば、組織内 で問題を発見し、解決するために意見の対立が起きたとしても、コミュニケーションをとる ことによって解決することを心掛け、数人で解決するのではなく、様々な観点から問題解決 策を得るために、思ったことを、相手にそのまま伝えることができるような環境を作ってい るのではないかと考えた。また、「意見の対立」というような表現は、自分らしさを尊重す ることや互いの個性を認め合うある組織ではあまりふさわしくなく、意見の対立という事実が起きたとしてもそれは、単なる「問題を解決するためのディスカッション」というポジ ティブな表現が合っているのではないかと考えた。

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