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危機を乗り越えて成長するために

 2020年3月24日、Times Higher Education(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)は昨年に引き続き、ベネッセをパートナーに「THE世界大学ランキング日本版2020」をリリースしました。日本版の内容を紹介する前に、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(以下THEと表記)が何なのか少しご説明します。THEはイギリスのタイムズ紙が毎年秋に出している高等教育情報誌で2004年からは世界の大学ランキングを公表している。まずは世界ランキングの概要を見てみよう。

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 評価の指標は様々で、英語圏の大学が有利になっていることは否めないものの上位の大学は英米が占めている。英語圏の大学が有利とはいえアジアにおいても相対的に日本の大学のランキングが下がってきていることには危機感を覚えずにはいられない。日本で最難関の東京大学も昨年よりは順位を上げたものの36位となっており、中国はおろかシンガポールや香港の大学の後塵を拝している状況である。
 まず、ここで確認してほしいことは日本の大学が世界的に超一流ではないということではない。もはや学ぶことに国境はなく日本の進学校に通う高校生には世界中の大学の門戸が開かれているのである。そして、世界中の同世代がライバルとして未来における様々な分野の主導権をめぐって今この瞬間もしのぎを削っているということだ。
 もちろん模擬試験の結果も大切だし、志望校合格に向けて努力することは尊いことだと思う。しかしそんなところにゴールを設定して日々の学びと向き合っていてもその努力は往々にして報われないのだ。少なくとも今の受験システムにおいて求められていることを満たして大学に合格することは、今後一層不確実性が高まる未来において自由を手に入れるための必要条件に過ぎない。大学入試レベルの内容は夢中でやれば絶対にインプット可能なのでそこだけにとらわれず、つねにその先にあるものを意識して受験対策をしてほしい。
 そのためには読書も必須だということで私のマガジンも紹介しておく。

 受験勉強をすることは大切だけど、それだけではもう通用しない。読書という海原で紹介した滝本哲史氏の「僕は君たちに武器を配りたい」にもあるようにそれではコモディティ化を避けられないからだ。

 繰り返しになるが、大学ランキングからもわかるようにすでにライバルは世界中でしのぎを削っているということ。そして受験勉強だけの学びでは自分のコモディティ化を避けることができず、世界のライバルやAIにも遠く及ばない人材にしかなれないということを進学校で学ぶ皆さんは頭の片隅に常に置いておくべきだと思う。

 さて、本日のタイトルは「危機を乗り越えて成長するために」である。私たちの目の前に今ある危機といえば、そうコロナ危機である。私が住んでいるような地方の高校生にとってコロナ危機の影響といえば休校になったことぐらいかもしれない。降ってわいたような長い春休みを楽しく過ごした人もいるだろう。しかし、そのように過ごした人はおそらく成長の機会を失ったと私は考える。なぜそう考えるかの根拠がここに示されている。それは前出のTHEがベネッセと協力して公表した日本版の大学ランキングである。

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 2020年のランキングには東北大学が躍り出た。いわゆる大学受験の偏差値とは異なった結果となっていることに注目したい。東京大学と京都大学を除いたいわゆる難関国立大学の中で地方にある大学としては他を引き離した存在といっていい。私の想像ではあるが、現在大学および大学院に通う学生は東日本大震災の時の中学生や小学校高学年にあたる。彼ら彼女らはまさに青年期に入ろうとするその時にあの震災を直接経験している。ここに通う学生の中には大切なものを失った人も少なくないだろう。私が被災地に行ったとき一番強く感じたのは、そこにいる子供たちがどんな風にこの国や地域を背負って成長していくのだろうという希望と可能性だった。震災当時小学校低学年だった私の子どもたちは東北から離れた地域に住んでいてあの悲惨さを自分事として受け止めることはできていないはずだ。原体験というか学びの出発点が違うのではないかと今も思っている。
 東北大学に通う学生の皆さんが意識しているかどうかは定かではないものの、そこに通う学生の記憶が学びのモチベーションとなっていることは間違いないと思う。彼らは未来の希望を背負っているのだ。東日本大震災という危機を自分事と引き受けて、その先の希望に向かって学ぶ者たちの熱がランキングに反映されていると想像する。

 現在進行中のコロナ危機は世界的中を混乱に陥れている。誤解を恐れずに言えば、東日本大震災以上に世界を揺るがしているのだ。このような危機において、いつか自分の力を役に立てたいという志をもって学ぶ人にこそ多くの希望を託したい。革新的テクノロジーで新しいサービスを作り多くの人を豊かにする。教育において次の世代の希望を担う人材をどんどん増やす。政治において国際社会を安定化し国民や市民に持続可能な暮らしを提供する。こんな風にして私たちが思いもよらない素晴らしい世界をつくる人材はこの危機の中から生まれてくる。
 私は本当の学びは大学にこそあると考えている。たしかにどの大学に進んでも個々人の学びを遮るものは自分の怠け心以外にはなくいくらでも学問を究められるが、一方で偏差値の高い大学には優秀で面白い人材が集まってくる傾向があるのは間違いない。
 

ちょうどこれを書いている今日こんなニュースが飛び込んできた。偉業達成である。記事の中のコメントを一つ紹介したい。

 京都で研究してきた意味について「数学の研究を進めるには、ある程度話が通じる相手がある程度の人数いる環境でないと難しい」とし、数理解析研究所に優れた研究者たちが在籍する利点を強調した。(京都新聞)

 直接出来ではないに出よ偉業には仲間が必要だ。難関といわれる大学に合格し学ぶ機会を得るということは、高いレベルの思考を共有しさらに上の次元に飛躍するチャンスが多いということだ。そのためには受験勉強にも意味があるということになる。

 コロナが世界を混乱に陥れている状況の中で危機感を感じ、学びの密度を上げてレベルアップする人と、誰かが何とかしてくれるだろうと今のペースのまま続ける人では大きな差が出る(これが先に書いた大切な機会を失ったということ)。そして、この状況は学び方においてもイノベーションを促していて、学校で教えてもらわなければ進めないというのではもう時代遅れになっている。学びのツールは飛躍的に進化し、いつでもどこでもどんな分野でもデバイスと通信環境があれば学ぶことができる。これは教育の機会を均等にする一方で、学びの結果における差を大きくすることだろう。

 さあ、この危機を乗り越えて希望をもたらす人材となるべく、今この瞬間から学びをバージョンアップしよう!そしてまずは”行きたい”大学に合格しよう!

 それではまた次回をお楽しみに~

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