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ふたつのしるし 宮下奈都

みんなでReading at Home vol.4は宮下奈都さんの「ふたつのしるし」にしました。私にしては珍しい本のチョイスだと思います。なぜかというと今回は”普段なら選ばない本を手の取ろう”と思って本屋さんにいって、装丁だけ見て何となく若い女性が読むような本だろうという感触で購入したからです。

このこととは関係ないけど、私は本を読むときにはタイミングみたいなものがあるんじゃないかと思います。失恋したから失恋の話を読むとかそういうものよりもむしろジェネレーション的なものかもしれません。かって私がサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」を読んだときに、もっと早く若い時にこの本と出合えたらよかったなって思ったことがあるからです。

その本と出合うのが世代的に早すぎた場合は後に取っておくことができますが、もっと早くに出会えていればよかったという後悔は取り返しがつきません。そういう意味でも若いうちからたくさん本を読むことは大切だと私の後悔も含めてお伝えしておきたいと思います。

それにしてもホールデンは何考えてるか全然わからなかった(笑)

さて、「ふたつのしるし」もまた私にとってそんな一冊になるのではないかという懸念も抱きつつ読み始めました。ふたつのしるしは二人の”ハル”のは話です。二人のハルは二人がそれぞれの時間を過ごしつつも、それぞれに”しるし”をちゃんと持っている。そのしるしが導くようにして出会い繋がっていくという話でした。

ストーリーはどちらかといえば単調なものかもしれないけれど、二人のハルが全く異なった個性の持ち主でありつつも学校や職場で私が嫌いな”みんな”という存在によって傷つけられていく描写は、子どもたちや若者が生きづらい世界を作っている共犯者の一人がまさに自分なのではないかという罪の呵責を感じずにはいられませんでした

特に男の子のほうのハルである柏木温之の成長過程において周囲の大人が彼を”待つ”ことができないことで彼自身が無気力になっていく様は本当に痛々しいのです。私も待つことが得意な方ではない。こちらの問いに対して正解でも不正解でも構わないから早く答えを投げてほしいとついついせっかちになってしまいがちです。

責任は英語でresponsibility(レスポンシビリティ)で、レスポンスつまり反応することが責任であり、反応しないのは無責任だと考えていましたが、無反応と無視は決定的に異なること、無反応という反応に対して私が丁寧に反応することが私たち教育に関わる者にとっての大切なresponsibilityだということを痛感させられるストーリーでした。

その点で、柏木温之が電気工事会社の社長と出合い、大好きな地図を観る力が電気の配線を観る力に活かされて。図面の意志を感じることができるほどの転職と出合うことができたことはハルにとってだけでなく私にとっても救いとなりました。

ここまで感想を書いてみたけれど、やっぱり私がこれを読んで感動するにはやっぱり20年は遅い。幼少期や少年期に感じた疎外感がまだリアルに記憶されていて、自分の未来の不確実性に押しつぶされそうになりながらも懸命に”しるし”を探している青年期にこの物語と出合うことができたならば、違った感動をもって読了したかもしれないと思ってしまうのです。

繰り返しになるけれど、「今読むべき本」というものがそれぞれの人に必ずあって、それは時期を逸してしまった後に読んでも本当の意味で物語を味わったり感動したりすることは出来ないと思います。この世の中に無数にある本の中からそんな一冊に出会うことは本当に幸運なことである一方、そう簡単に出会うことは出来ないかもしれません。

だからこそたくさん本を読んでほしいのです。それはたくさん読めば運命の出会いに遭遇する確率が高まるというだけではありません。

あなたが今手にするべき運命の一冊にはちゃんと”しるし”が付いていると私は思うのです。ただそれを見つけるためにはトレーニングが必要なんじゃないかと思います。何冊も読んでいるうちに自分の好きなジャンルや作者がわかるだけでなく、本の背表紙の紹介に目を通すだけで、本の表紙を眺めるだけでピンとくるようになってくるのではないでしょうか。

この「ふたつのしるし」もだれかにとって”しるし”となるべき運命の一冊かもしれません。

そんな”しるし”を見つけるのも書店に通う楽しみの一つです。はやく新型コロナが終息していくらでも本屋さんに滞在できる日が来るといいなとおもいながら、今日のReading at Homeを閉じたいと思います。

最後まで読んでくださってありがとう。
次回もお楽しみに~

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