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キネマの神様 原田マハ

 みんなでReading at Home vol.2は私のがいまハマっている原田マハの『キネマの神様』にしました。この本を選んだ理由は原田マハが好きってことのほかにもう一つあって、それはやっぱり映画化されるにあたって志村けんが円山郷直(ハンドルネームは”ゴウ”)をどんなふうに演じるのか楽しみにしていた自分がいたからだと思います。原田マハの小説は結構読んでいるんですが、先入観なしで志村けんの演技が見たかったのでこれは映画を見てから読もうと思っていましたが、残念ながら予定が早まってしまいました。

キネマとシネマ

 キネマもシネマもどちらも映画や映画館のことを指すってことは皆さんご存じだと思います。でもその違いはなんだといわれると”?”ってなりますよね。あらためて調べてみました。
 「キネマ」は、“キネマトグラフ”という活動写真や映画を意味する言葉の略式で、1895年にアメリカのエジソンが発明した映画用映写機キネトスコープや、発生式映画用映写機キネトグラフを語源とされているそうです。一方で「シネマ」とは、1895年にフランスのリュミエール兄弟が発明した映画用映写機“シネマトグラフ”の略式だとか。単なる音の違いではなくてそもそもの映写装置が違うんですね。

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 日本では大正時代に輸入されたそうですが、「シネマ」のほうは音が「死ね」に近くて敬遠されたために「キネマ」のほうが流通したともいわれているそうです。
 神様っていうからには少なくとも130ほどの映画の歴史のすべてを見てきていて私たちより長生きしていらっしゃるんだろうから、やっぱり「キネマ」のほうがぴったりくるような気がしますね。

円山郷直と西部邁

 私は小説の登場人物を頭に思い浮かべるときに結構実在する人物を重ねることが多いんです。深夜特急の沢木耕太郎なんて塾友達のK先生そのままだったし、竜崎は警察官僚になった大学の後輩を思い浮かべながら読みました。でも不思議なことに女性はあんまり実在する人に重ねることができない。なんでなんだろうといつも思います。
 さて、ほぼ主人公の円山郷直(以下”ゴウ”)は破天荒なじいさんです。家族をいつもひやひやさせて周りに迷惑をかけまくっているような男なんですが、でも映画を愛してやまない。彼を演ずる予定だった志村けんをイメージしながら読み進むのかと思いきや、なぜかゴウに重なったのは志村けんではなく西部邁でした(笑)。
 物語は途中からゴウとローズ・バッドのブログでのやり取りを中心に進んでいきます。ゴウが自分の好きな映画を愛情いっぱいに評するのに対して、ローズ・バッドは映画への深い造詣にもとづいたウィットでゴウをからかいながら作品に潜む影の部分を明らかにしていく。まさに同じ作品を太陽と月で照らせば異なって見えるように対比が続いていきます。

 私は、ゴウのブログの文体を懐かしい気持ちで読んでいました。対象への愛情と謙虚さが書き手の破天荒さとミスマッチなところにも既視感がある。
それは一人称に”小生”を用いてエッセイを書いていた西部邁に重なるのでした。そして、実はローズ・バッドもの文体も西部のそれと雰囲気が似てるんです。G・K・チェスタトンを引用するときの西部の表現を思い起こして読んでいました。

 だれもそんな風には読んでいないかもしれないけれど、私にとってゴウとローズ・バッドのやり取りは西部邁VS西部邁というとても豪華な対話を読むような味わいだったのです。原田マハさん勝手にありがとうと言わせてください。

好きなものがある幸せ

 ゴウをはじめとする登場人物はみな映画を愛してやまない人たちです。私も映画を映画館やAmazonでよく見る方だと思いますが、彼らの愛には到底かないません。
 人との出会いももちろん大切です。この人と出会えて人生が変わったとか、この人と出会うために自分は生まれてきたと思えるような人がいる人生が幸せであることは言うまでもありません。誰もがそんな出会いに恵まれるとは限らないでしょう。
 しかし、人間以外のなにかとそこまでの出会いをすることができる人はさらに限られていて、さらに幸せなのかもしれないと思わされました。人間は対話を通じて歩み寄ることができます。つまり相手が人間ならば向こうから近づいてきてくれることもあるでしょう。そして気が付いたら自分のそばでかけがえのない存在だったということもあり得る。しかし映画や芸術、趣味や研究学問というものは向こうからは歩み寄っては来ませんし、自分がどんなに理解しいくら愛していても相手はただそこに存在しているだけです。
 ゴウにとっての映画のように、このために自分の人生はあるといえるものと出会うことができれば、それこそ最高なんだとこの小説は知らしめてくれます。

 自分にはそんなものが果たしてあるだろうか。自分にとっての”神様”はいったい何なのか考えさせられもしました。

映画館が閉まってるゴールデンウイークはこれを読もう!

 今年のゴールデンウイークは新型コロナのせいで家にいる人が多いでしょう。もちろん映画館は営業していない。そんなときAmazonプライムとかではやりの映画を観るのもいいけど、この本で映画を観ることのすばらしさを感じてみたり、自分にとってのベストな一本は何かを思い返してそれをもう一度観たりするのもいいんじゃないだろうか。
 ちなみにこの小説は、後半にローズ・バッドが出てきてからは涙あり笑いありの怒涛の展開で、最後まで一気に読むことができるはず。そして読後にはまるで一本の映画のエンドロールが流れるような温かい気分になることができますよ。おすすめです!

片町のアキさんにとどけよう

 この本を読み終えたときに、金沢のシネモンドをこよなく愛し、映画とジャズと読書を養分に生きている素敵な女性を思い出しました。新型コロナの影響でしばらくお会いしていないけど、彼女が経営しているジャズバーのラファロにはいつも名画のパンフレットが置いてあって、それらの作品がどんなにすばらしいかを彼女は延々と私に語ってくれます。彼女もまたキネマの神様に魅入られているんだろうなと思います。騒ぎが収まったらこの本を届けに行こうと思います。もう読んじゃってるかもしれないけど。

最後に

 ゴールデンウイークの予定がないのは私も同じです。
 楽しみにしていたお祭りも無くなり、かといって旅に出ることもできず、インドアな毎日を過ごすことになりそうです。だから、キネマの神様のなかでゴウが進めてくれた名画を何本か観ようと思います。
 まずはフィールド・オブ・ドリームスからかな。これはこれで楽しみです。

もちろん読書もしていきます。また読んだら書きますのでお楽しみに~
最後まで読んでくれてありがとうございました-

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