脳生理学(その2)

誰がフロイトを殺したか?

結論から書き出しますが、フロイトをアカデミックな学問の世界から引きずり降ろし、そして葬り去ったのは、アメリカの製薬メーカーとDMSです。

DMSとは何?

DMSは何故必要だったのか? 
まずDMSとは何か?を説明しましょう。
DMSとはアメリカが独自に作成した『精神病の認定基準書』です。 
世界の病気と病名を規定している組織は、世界保険機構(WHO)という国際組織があります。
医学的にも歴史的にも権威ある組織で、精神病の認定基準については、ICDという基準が既に存在していました。
不思議ですね。
何故、精神病だけ新基準を作成しなければならなかったのでしょうか?
次に、新しい基準DMSが必要だったか?について説明しましょう。

お荷物だった精神科

それには当時の精神病治療の状況を知らなければなりません。
当時の治療はカウンセリングが主流であり、一回の治療に最低二時間〜三時間が必要となり、一人の医師が一日に診る患者数には自ずと限りがあります。どんなに頑張っても三人〜四人が限界でした。

更に完治する迄とても長期のカウンセリングが必要となりますので、新たな患者(顧客)を受け入れる余裕もありません。一人の患者からの治療単価は高額でも、治療費による総収入は僅かな額で、それ以上の増収は見込めませんでした。

他の収入源は精神病患者の入院費ですが、それは治癒を目的とする施設ではなく、隔離する目的の施設である為に隔離された患者自身へ治療費を請求する訳にもいかず、患者自身が閉鎖隔離されている事で、完治もせず退院も出来ないが故に、生涯入院費用を払い続けられる事は稀でした。

入院費用は入って来なくなっても殺すわけにもゆかず、殆どは死ぬまでの費用は病院側の持ち出しで、結局は大赤字となります。精神科を抱えた病院は何処も経営は火の車状態で、精神科は病院経営上の観点からは、利益を産まない負の資産であったのです。

製薬メーカーの事情

次に、製薬メーカー側の事情があります。
既存の病気に対する薬は開発がされ尽くし、新たな市場の開拓が必要でした。
長年の研究から人間の精神に影響する薬品データは蓄積されており、あとはそれを使うシーンが無い状態でした。
基礎研究費用を回収する契機が必要であり、顧客である医療機関に唯一営業を掛けていない医科が精神科でした。

製薬メーカーにとって精神科は、手つかずのニュー・フロンティアに見えたことでしょう。
つまり、ヒトの心に作用する薬物を、精神病を治癒する治療薬として販売したかったのです。
薬を処方する為には新しい病名が必要です。
新しい病名には、特定する特有な症状が必要となります。
そして、この治療薬が病名の持つ症状の治癒に有効である根拠を示さねばなりません。

パクス・アメリカーナ

そこでアメリカが登場します。
世界の製薬メーカーはアメリカに本拠地を構えています。
アメリカは自由資本主義国家ですから、資本を持つグローバル企業が巨額の資金力を背景に、ロビー活動などを通じて、政治に強い影響力を発揮します。
米ドルは世界基軸通貨と呼ばれ、全ての国は他国との貿易決済には最終的に米ドルで支払わなければなりません。
そして軍事力は文句なしの世界一です。
ソ連崩壊の東西冷戦終結後、全てにおいてアメリカの一人勝ちです。とてもバランスが悪くアメリカのわがままが許せないという人々も居ますが、アメリカ一極集中による平和(パスク・アメリカーナ)が我々の危うい平和を築き上げてきたのです。
その結果、アメリカは強引な手法で自分たちの利益を確保しようとします。
国内のローカルルールを世界標準であると強権を振るう事はしばしばです。
例えば、タバコとアルコール業界の圧力で大麻を違法薬物とし、それを同盟国に強要した前科があります。アメリカローカルの会計基準を世界標準と自称し、決算でこの会計基準を満たさない企業の株取引を禁止にした前例もあります。
他には原油価格です。原油は中東諸国が主な産出国ですが、アメリカ、テキサス州で採掘される原油価格が取引価格とされていますし、原油は米ドルでしか買うことは出来ません。

利益の一致

アメリカに本拠地を持つ製薬メーカーと、病院を経営する医療団体の二者の利益と思惑が、この時に合致したのです。
そして、その作成には当時のフロイトの名残を引く心理学者たちも大勢招集されていました。

但し『当初は』に限定されます。

その基準を決定するに辺り、その様相は激変することになります。 中身があまりにズサンて矛盾だらけの為に、学者たちは次第に嫌気がさすようになりました。例えばこのようなものです。

『注意力欠損多動性症候群』という病名が基準に盛り込まれようとした時です。イギリスから参加していたフロイト派の学者がこう言い放ち、会議の席を蹴り立ち去ったそうです。
「周囲に対する注意力に欠け、常にチョロチョロと忙しく動き回る者は、私の国では『子供』と呼んでいる」
「君たちは子供まで病人にするつもりかっ!?」

そして誰もいなくなった

一時が万事この調子で、同じ患者をこのDMSに照らし合わせて診断すると、百人の医師は百通りの診断結果が出るような有様だったといいます。
これはDMS-5版となった現在でも解決されてはいないようです。
しかし問題の本質は、このDMSの作成に最後まで携わった人々の顔ぶれです。
最後まで残った者は学者や医師は一人も残っていなかったといいます。
残ったのは製薬会社から派遣された事務方の人間たちだけであったと私が今回参考にさせて頂いている『shyness』という本には書かれていました。
その理由は、薬を処方するには病名が必要であり、薬の種類だけの病名が必要だったからです。

内気は病気

『shyness』の副題にあるように、shy(内気)へ何故、病気認定されてしまったのでしょうか。
これには恐らく説明が必要です。
日本人である我々には到底考えられない事情があります。
欧米、特に米国に於いては、内気ということは、実に恥ずかしい欠点と捉えられているのです。
アメリカ人の男性が他人に見られて最も恥ずかしいと思う事のひとつに
『独りでレストランで食事をしている所を誰かに見られる』という事があります。
他には『見知らぬ人と堂々と握手や会話ができない』『吃ってしまって人前でスピーチができない』というのもあります。
 つまり、人前で臆することなく堂々と振る舞えない、内気(シャイ)な性格であるという個性は、人前でも臆することなく、自分の意見を堂々と述べる事ができる、誰とでも直ぐに友達になり心を開く懐の深い男、陽気でフランクな気質を良しとするアメリカ人の男性にとっては、個性などではなく、致命的な欠陥のある性格で、病気だと捉えられていたのです。

発売当初の向精神薬であったプロザックの広告キャッチコピーにそれは如実に表現されています。
『昨日までのシャイな私にさようなら、そして、新しい私にハロー』
これらの歴史的事実は、ネットを検索すれば直ぐに発見できるものです。
向精神薬のプロザックの主な治療目的は、シャイな内気を改善する治療薬であったのです。

広がり続けている混乱

更に『インターネット依存症』等が危険視され、日本の厚生省の発表では、ネット依存予備軍の高校生が30万人控えている居る。といった報道がされたことがありましたが、実はこの『インターネット依存症』なる病名は、DMSのどこにも存在してはいません。勿論、WHOの方でも病気の定義はされていません。日本のマスメディアが勝手に創り上げた病名であると言えます。

更に更に、セックス依存症として診断され治療を強制された有名人にタイガー・ウッズ氏がいますが、第4版では確かにそのようなセックス依存症という病名は規定されて居ましたが、しかし、第5版に於いてはその病名は跡形もなく消えて無くなっています。
いつの間にか削除されていたのです。

ですから、タイガー・ウッズ選手ももう少し待てば、セックス依存症という恥ずかしい病名を付けられることも無かったし、治療を強要される事もなかったろうにと可哀想に思えてきます。

 DMSの病名診断基準にはこのように問題が多く、それは今でも尚、多くの医師や患者が疑問を投げかけているのが実情です。

ピエール・クレペリン

あまり馴染みのない名前だと思います。
実はこの人物『アルツハイマー病』の名付け親であります。
そして、うつ病という病名を創り、発見し、その患者第一号を発表した医師でもあります。

クレペリンはフロイトと同時期に活動したドイツの片田舎に住む、無名で貧しい医師でしたが、彼が存命なうちにその名を知る者は殆ど居なかったと言って良いでしょう。
彼が書き残した精神病は脳内で分泌される化学物質のバランスに原因があるとする彼の論文を読んだ者も、皆無であったと言って良いでしょう。
何故ならその頃の世界の人々は、知の巨人と呼ばれるジークムント・フロイトの登場で、人類史上初、人間の心の闇が暴かれつつあったからです。誰一人クレペリンに注目する者は居なかったであろうと、私は断言できます。

発掘された脳生理学

この過去の遺跡のような歴史に埋もれた人物を発掘し、彼の論文を世に知らしめたのは、心理学の創始者であるフロイトをアカデミーの学問の舞台から引きずり落としたアメリカ製薬会社の思惑でした。
クレペリンの持論は「脳内は化学反応で制御可能であり、脳内の化学物質のアンバランスが精神の乱れに通ずる」です。
つまり現代の脳生理学のルーツは、クレペリン、彼にあります。

うつ病患者第一号としょうもないオチ

彼について語る事は実はそれ程多くはありません。

しかし、うつ病患者第一号の発見については面白い逸話が残されているので紹介しておこうと思います。

その名誉ある第一号の患者は、ドイツ人の年老いた男性の農夫だったそうです。

原因は、若い頃オナニーをしてしまったことが心の呵責となり、年老いた最近では、過去に自分が犯した罪に苦しみ、夜も眠れないほど、後悔しており、生きていることが辛いと云うのだそうです。
知っての通り、ユダヤ教やキリスト教の一神教では、生殖を目的とする以外の性行為を、GOD神は信者に固く禁じています。
つまりオナニーとは、神の教えに背く悪魔の所業であると言い換えることも可能です。
そして、性欲という悪魔の囁きに負け、自慰をしてしまった事を後悔し、気分が塞ぎ込んでしまい、生きる気力すら失ってしまった言うこの哀れな農夫は、目出たく、クレペリンによりうつ病患者第一号と認定されてしまったのでした。

だから、ひょっとすると、君たちが医師から処方され、飲まされている抗うつ薬は、

もしかすると…

オナニー禁止薬かも知れない…ネ?

というお話でした(笑)

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