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11/16 芸術文化のための環境リテラシー講座 レポート その1 (講義編)

この講座では、気候変動や環境問題について、気候変動の専門家、江守正多さんより最新の情報や気候危機についての課題を伺って、芸術文化の中でその課題にどう取り組んでいけるか、イギリスの事例をご紹介しました。後半は参加者同士のグループディスカッションによって、日本の芸術文化産業の持続可能性への課題を共有しました。

講座には、約20名のご参加をいただきました。お集まりいただいたのは、演劇制作会社プロデューサー、演出家、大道具製作会社、舞台美術家、衣裳家、芸術家、俳優、アートマネージメント、大学教授、芸術祭の施工マネージャー、舞台機材製造販売担当者、中間支援団体職員のみなさまです。さまざまな専門性を持った方の集まりになりました。


講座概要

「なぜ芸術文化が気候危機に取り組むのか?」
日時:11/16 (火)19:00~21:00
会場:日比谷図書文化館4階 スタジオプラス

メニュー
イントロダクション
レクチャー 講師:江守正多
「気候の危機にどう向き合うか」
レクチャー 講師:大島広子
「芸術文化界の環境への取り組み~イギリスの場合」
グループディスカッション

講師プロフィール

江守正多
1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。2022年より東京大学 未来ビジョン研究センター 教授(総合文化研究科 客員教授)/国立環境研究所 地球システム領域 上級主席研究員(社会対話・協働推進室長)。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。江守さんの科学的根拠に基づく、わかりやすい気候変動についての解説は、多くのメディアで紹介されている。

大島広子
ロンドン芸術大学、セントラル・セント・マーティンズ校で舞台美術を学ぶ。帰国後大道具会社勤務を経て、舞台美術家として活動を開始。英国で発行された、舞台芸術界における環境負荷軽減のガイドライン、シアター・グリーン・ブックとの出会いをきっかけに、日本語翻訳に着手。イギリスの舞台芸術における環境配慮の取り組みを調査研究するため、2022年から1年間、英国のランカスター大学「社会、政治、環境変革のための演劇」修士課程で学ぶ。2023年、芸術文化における環境負荷軽減を推進する団体、Image Nation Greenを設立。

講座を開くきっかけ イギリス、マンチェスター HOMEの事例紹介

講座の冒頭大島より、この講座を開催するきっかけとなった、マンチェスターにある文化複合施設HOMEの視察の経験をお話ししました。

マンチェスター HOMEの外観 日照時間の少ないマンチェスターの気候でもなるべく日照を取り入れられるように、壁面がガラス張りになっている。

HOMEでは、建築の段階から建物の環境負荷軽減に取り組み、開館当初から持続可能性についての環境ポリシーを宣言した上で運営されています。

そんな文化施設なので、さぞ素晴らしいサスティナビリティの専門家(グリーンチャンピオンとも呼ばれている)が劇場にいらっしゃるのかと思い、支配人のデーブさんに質問したところ、

「特別な人はいないかな。強いて言えば設備管理のマネージャーが環境について詳しいけれど。ここで働いている従業員は、みんなカーボンリテラシートレーニング(環境トレーニング)を受けているから、自分の仕事の中で、自主的に環境負荷軽減のアイデアを提案して、みんなで共有し、実行しているんだよ」

と教えてくださいました。

そのトレーニングを受ければ、誰もが自分の仕事に環境負荷を軽減する活動を取り入れることができるのか!なんと!!それを聞いた私は、早速カーボンリテラシートレーニングをスコットランド、イングランドで受講しました。
(レポート↓はNote別ページ)

HOMEにおける環境トレーニングの様子
https://homemcr.org/about/sustainability/carbon-literacy/ 参照

実際のイギリスでのトレーニングは丸一日かけて8時間程度の授業だったのですが、今回はダイジェスト版として2時間の講座として企画しました。

気候科学者 江守正多さんによる講義

江守さんからは、まず地球の温暖化についてこれまでの観測のデータを元に
近年の気温の上昇傾向を解説していただきました。

温暖化の要因は温暖化効果ガスの増加が一因で、その多くは、産業革命以降の化石燃料の燃焼により大気中の二酸化炭素の濃度が、自然で吸収される量より増えていること。すなはち、「地球の温暖化は人類による様々な活動による温室効果ガスの排出が起因しているということは疑う余地がない」というIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告が出ているそうです。

産業革命以降、地球の平均気温が1.5度よりも上昇した場合、自然と人間に広範囲にわたる大きな悪影響を与えるようになるという調査に基づき、パリ協定において、1.5度に抑えるという目標が合意されています。そして、目標が到達できた場合とそうでなかった場合の地球の温度の動的シュミレーションを見せていただきました。できなかった方の地図は最後、真っ赤(高温)に地球は染まっていました。

そして、温暖化効果ガスの排出量の少ない国、人ほど、気候変動の影響を受けやすい状況にあり、逆に排出量の多い国(主に先進国)ほど影響が少なく、気候変動の影響の不平等についてグラフを元に解説していただきました。

データに基づく江守さんの解説

最後に私たちが何ができるのかについて、
これまでの常識を覆す、社会の大転換(Transformation)が必要とされている。

これまでは、環境への取り組みは、小さな積み重ねを個人がこつこつと行うこと、いわば何かを我慢すること(例えばエアコン使用を控えるなど)と捉えられていたが、新しい技術を支持し、社会の常識、制度の変革を個人が求めることによって、大きな転換が可能な社会を作ることができると教えていただきました。

大島広子による、イギリスにおける芸術文化セクターの取り組みの紹介

イギリスにおける芸術文化と環境配慮の取り組みについて、年表を使ってこれまでの流れを解説しました。10年ほど前から、アーツカウンシル•
イングランドの呼びかけにより、芸術文化セクターのエネルギーやゴミによる二酸化炭素排出量の算出から始まっています。

舞台芸術の方では、コロナ禍による劇場の休止期間中に、これまでの業界内での議論が、シアター・グリーン・ブックというガイドラインにまとまったことで、これまでなかなか取り組むことができなかった、作品製作の過程においても環境負荷を軽減する意識が一般的に広まり、イギシスを代表とするナショナル・シアターやロイヤル・オペラなど大規模な劇場から小規模なインディペンデントカンパニーにおいて、持続可能な作品製作の実践が始まっています。

イギリスの事例

デザインミュージアム
「Waste Age: What can design do?」
廃棄物の時代と名づけたれたこの展示を実施するにあたり、「デザインミュージアムとして、これまで美しい成果物を展示してきた経緯の中で、果たして、廃棄物というものが魅力的な展示物になり得るのか? ゴミをわざわざ見に来るお客様はいるのだろうか?」という大きな議論がミュージアム内であったそうです。しかし、プロダクトデザインもこの大量消費、大量廃棄を生み出してきた過程の中にあり、自分たちがこの廃棄物とどう向き合って行くべきかを考えることが今重要であると結論に至り、この企画を採用したとの事。

展示では、さまざまな廃棄物の現状を伝える展示の他、廃棄物を素材として活用するデザイナーの取り組みや製品などが展示されていたそうです。

また、展示で使用する展示用の什器やパネルなどはデザインの時点から、環境負荷の少ない素材を利用し、展示終了後、再使用できるように、展示を行う他の組織と連携して次の使用先を探したり、図録はロンドンの地域で印刷し、ベジタブルインクを使用するなど、展示物以外にも企画全体で環境負荷軽減に取り組んだとのこと。

専門的なシンポジウムの開催
近年文化芸術と環境を考える専門的な業界のシンポジウムが開催されたり、業界の年次シンポジウムの中の議題として、環境のサスティナビリティが取り上げられています。

Climate Crisis>>Art Action  (2023年4月)
ホワイトチャペル・アートギャラリーとギャラリー・クライメート連合(GCC)による
美術館・博物館関係者向け、環境シンポジウム

業界の外側からの期待と要望
再エネ導入に消極的で、化石燃料依存やイギリスの国内の石炭採掘を継続するBP(ブリテッシュ・オイル・アンド・ガス・カンパニー/エネルギー会社)
が多くの芸術施設、団体を長期間助成していた事に反対する市民団体の抗議活動が活発になり、2015年以降多くの文化芸術団体が、BPとのスポンサー契約を打ち切る流れが生まれています。スポンサーシップにより、グリーンウォッシュとして芸術が利用されかねないことや、公的な芸術文化セクターは、化石燃料を製造する産業=倫理的に問題のある企業からの資金提供を受けるべきではないと、環境団体は主張しています。

また最近(2023)の舞台の観客の意識調査では、
77%の観客
「文化芸術団体は、気候変動という非常事態に対処するために、社会の抜本的変化をもたらすように社会に影響を与える責任がある」と回答しています。

このようにイギリスでは、業界内の変化、文化政策によるプレッシャーと業界の外側からの要望、関心が高まっており、従事する人で関心がある人同士の議論は大変活発です。しかし実践までを行なっている団体はまだ少数派であり、今後どのように運動が広がっていくのか、大変興味があります。

以上講義編のレポートでした。
次ディスカッション編へ続きます。


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