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"A Play for the Living in a Time of Extinction"「絶滅時代に生きるための劇」 Directed by Katie Mitchell 

3月のKAATのグリーンセミナーの際にも紹介した、ケイティ・ミッチェル演出の
"A Play for the Living in a Time of Extinction"「絶滅時代に生きるための劇」をバービカンシアターで観てきました。彼女がここ10年ほど取り組んできた環境問題についての作品で、実際のプロダクション製作にも色々サスティナブルな工夫がされています。

芝居の前にケイティ・ミッチェルさんのプレトークにも参加したので、その様子と一緒にレポートします。

プレトーク

初めて見るケイティさんは、日本で売られている著作の表紙の写真よりは柔らかい印象でした。バービカン演劇担当ディレクターのトニーさんとのQ&Aから、観客の質問に答えるという流れで45分間。その様子を抜粋して日本語でレポートします。

Q1. まず、どうして演出家になろうと思ったのですか?

えっと、絵が描けなかったから。(会場爆笑)
学校の美術の先生がよくなかったのね。演出家じゃなければ、ビジュアル・アーティストになっていたと思うわ。演劇の現場で人の絵を描くうちに、面白さに取り憑かれてしまって、随分長く、それで今に至るという感じ。長すぎよね。

Q2. このプロダクションはどういう経緯で始まったんですか?

2020年のロックダウン中に、スイスのローザンヌのvidi 劇場との打ち合わせがきっかけで、私は環境活動についての作品を作りたかった。
https://vidy.ch/en/event/oy-division/ vidi 劇場)
そのなかで気がついたんだけど、フランス語圏では、作品をツアーで回すという事が前提で助成金のシステムが成り立っているの。そこで、大きな規模のヨーロッパツアーをあらゆる素材や人が移動せずにできたらどうなんだろうとこのアイデアを思い付いたんです。

ZOOMでこの事について、いろんな人、そしてフランス人の振り付け家ジェローム・ベルも参加して、一生懸命アイデアを話し合っていたのだけど、そうしているうちにも、いろんなヨーロッパツアーは実行されていて、ふと、「あれ?何やってんだ、私達。何を作るんだ??」という事になって、

それでこの作品がイギリスで賞を取ったという事から、作者のミランダに連絡を取って、このややこしいプロジェクトに乗っかってくれますか?って聞いて、彼女は同意してくれました。

一番最初の立ち上げはローザンヌで、それはロンドンにいる私がZOOMで演出して、ローザンヌの劇場からアムステルダムへメールが繋がって、その時上演時の条件も書いてありました。現地の演出家と俳優によって新しいバージョンが作られて、その後台湾へメールが繋がって、台湾でも同じように現地の演出家、俳優で上演されました。

イギリスのツアーもそうですが、各地の若い演出家達とはZOOMでお話ししました。演出については、使える電気の量は、ステージ上の自転車での発電で補う事と以外は、自由にやってねと伝えました。(バービカンはケイティさんの演出)
だって、地元のお客さんの事は地元に住んでいる演出家の方が私よりよく知っているはずだから。
(観てわかったのだが、かなり観客参加を呼びかけるシーンが多かった)

            音楽も自由?

音楽は必要ならご自由にどうぞという感じ。

Q3. このプロダクションは、ケイティさん自身には結果どう影響がありましたか?将来のプロジェクトとのつながりは?

これを通じて何を発見して、どうしてこれを実践したかったという事ですか?
このプロジェクトは、このタイミングにとても重要で、緊急を要していて、演劇について考えるきっかけになると思ったからです。

ローザンヌをはじめ、ツアーをした各地のカンパニーと話し合いをしました。
飛行機を使わないでツアーをするにはどうしたらいいかという事についてです。
飛行機を使う事は環境への負荷を考えると最悪です。私は10年間飛行機に乗らずに、国を跨いだ仕事をしてきました。デンマークのこのプロダクションでは、プロダクションチームにこの仕事に関わる上で飛行機に乗らないという契約を全員から取り付けて、全員が電車のみで移動を行っていました。
大切なのは、何をすれば、炭素排出を軽減する事ができるか?という事です。

でも忘れてはいけないのは、他人に親切でいなければいけないという事です。国や人によっては、違った方法、違った事に対して適切なタイミングで対処できます。私たちはグローバルノースにいるので(ヨーロッパにいるので)飛行機に乗らずに電車だけの移動で済ます事ができますが、グローバルサウス、たとえば南米など、電車がないので、飛行機に乗らないと長距離で移動が難しい場合もあります。

結果としては、このプロジェクトは(環境について何ができるのか?という)疑問を投げかけるレガシーを残したと思います。

Q4.Zoomを使っての演出はどう思いますか?

いいですよ!だって家にいられるんですから。(会場爆笑)
簡単な事ではないな(challenging)と思っています。現地に優秀なアシスタントが必要です。これまで3つの作品をアシスタントと共にZOOMで演出してきました。必ず生でその場にいなくては成立しないと思っていないですし、全員がリハ室にいる必要もないと思ってます。

コロナのロックダウン中に演出や環境と演劇について、特に若手に対してZOOMを通じて指導してきました。

ZOOMでの演出は違った集中力が必要で、結構疲れます。
あと、音のクオリティを保つ事が大切です。発声されるテキストのクオリティです。その場の様子は、どんな感じかをアシスタントが伝えてくれます。

色々ありますが、炭素を大量に排出するくらいなら、私はZOOMでの稽古を選びます。

Q5. 教えることについて、もう少し聞かせてください。

環境と演劇を作るという事について、2つの事を横断的に話す事もありますが、主に私は演出を若手に教えています。具体的な演出技術についてです。
ニューヨーク、オスロ、デンマーク、パリ、ベルリン、台湾など世界中で教えています。素晴らしい機会です。若い人とあって話す事ができるのは、年齢を重ねた自分にとってはとても良い事です。自分の知っている事を簡単に具体的に次のアーティストへ渡すのです。あと、自分の過ちについても、同じ過ちをして遠回りしなくてもいいように話をします。

Q6. 環境問題についてのリサーチはどうしていますか?

環境危機については、11年前にケンブリッジ大学の研究者のStephen Emmott教授に会った時から常に考えてきました。

彼は環境変化が起きていて、環境変化で自国に住めなくなった人たちが、ドーバー海峡をボートでそのうち渡って来るだろうと言いました。11年前は私は信じなくて笑ってました。
(少しそれますが、北フランスの海岸沿いの街では近年常にヘリコプターが、ボートで海峡を渡ろうとする不法越境者を捜索しているそうです)

今から思うと、笑っている自分が信じられないのだけれど。でも彼はとても真剣でした。そして2012年、ロイヤルコートでTen Billion: AN EXPLORATION OF THE FUTURE OF LIFE ON EARTH という作品を共同で製作、上演しました。それ以来これまでに8つの環境危機に関する作品を作ってきました。いろんな国のいろんな人と、どうやったら環境危機についての演劇作品をつくれるのだろうと、ずっと模索しているのです。

それから何を学んだかというと、ほとんど失敗だったという事です。自分は100%
の努力をして、98%が失敗。がっくりきますよ。この間はドイツでチェーホフの「桜の園」を物語に登場する木々の視点から描きました。人間を中心から外して演劇を作ったのです。登場人物たちはガラスケースの中にいて、そして彼らの声は全く聞こえなくした。(ここで、顔を透明ガラスに押し付けて口をぱくぱく、真似をするケイティさん。会場爆笑)

そして、自然の桜の木々の様子を投影しました。もちろん、根本的に演劇的とはかけ離れています。全く演劇的ではない。でも、あなたならどうしますか? 人新世時代の演劇ではなく、人間以上の存在について演劇で描こうとしたならば。

ケイティ・ミッチェル演出 「桜の園」/ ガーディアン記事(リンク先に舞台写真あり)

たくさんの失敗をします。たくさんリサーチもするし、失敗もする。
でも、実験的な事が必要なんです、これ(環境危機と演劇)をやるためには。

Q7. 何か希望はありますか? 

まずは否定から入るかもしれません。受け入れるのはとてもしんどすぎて、辛い事です。その段階を経て、実際の行動を試してみようというふうになっていきます。行動するという事はとても重要です。この行動の中に希望があります。行動というのは、個人としての行動も含まれます。私の行動は飛行機に乗らない事。全ての人が一個人として違った方法で変化に向けての行動をとる事ができます。

その2に続く



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