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趣味に対する熱血指導

今のは謝るところじゃない。
謝り過ぎると周りが見えなくなる。
試合に勝てなくて、また同じくらいのレベルの人の中で練習して気持ちよくなって、また試合に出ると勝てない。勝てるわけがない。勝てない人の典型的黄金ルール。
今のままではD級で一回勝てて良かったね、くらいにしかならない。たまたま自分より下手な人と当たった時に一回勝てるかどうか。
上に行きたいなら、もっと打たないと。
このサークルは遠慮なく打てるところなのに、もったいない。
ボレーもストローカーの所に返す。
全部選択が間違っている。
最初の入りが間違っている。
あー、ダメだ!
どのショットを取っても、平均以下だ!
途中、「健康のためにやれたら」みたいに返したら
じゃあもう言わない!
他人に教えるのって相当エネルギー使ってるんだ!
そんなやつはもう伸びるわけない。将棋習いに来てる子もそういうこと言い出したらみんな無視する。そういう子は育たないもの。一生懸命教えて、そんな風に返されたら、こっちはもう無視だよ。

私は、残念なことに運動神経が鈍い。物心ついた頃から、一生懸命速く走っているつもりでも、いつもビリだった。小学生になってももちろん同じ。よくてもブービー。他の実技ももちろん出来が悪い。中学校はそんな恥ずかしさから逃れるために、文化系のクラブに入った。高校は帰宅部。大学デビューした私は、何かスポーツをやってみたいと思ってしまった。部活勧誘のノリの良さに惹かれて。テニス部に入ってしまったのだ。体育会系の厳しい部活に。みなさん優しかった。けれど、楽しいだけではない、実力至上主義の世界を知ってしまう。名前が呼ばれる順が、上手い順。私は、最後に呼ばれた。あいにく、バカではないから、状況は全てわかってしまう。これまで、勉強の方ではそれなりに挫折はあったけど、これほどのつらさは味わったことがない。自分より下がいるということで、自分の存在を確かなものにする。そんな汚い心理を人間は持っていると思う。だが、自分より下がいない。自分が一番下の存在であると知った時の情けなさ、恥ずかしさ、つらさと言ったら、この上ない。

途中でやめてしまえばいいものを、自分も気づかないうちに持っていた自分のしつこさ、諦めの悪さ、潔くない心。今より少しでも打てるようになれないか。元々の素質がゼロなので、それはそれは努力した。自分の実力からしたら大幅にうまくなり、経験者だなとわかる程度の技術が何とか身についた。

だけど、レギュラー取りなんて夢のまた夢。いつも一番下。試合をしたって、元々のメンタルの弱さも合わさり、一勝だってできなかった。

お金はないが時間はある、そんな大学時代に、たくさん練習して、何とか、テニスを少ししたことがあります、と言える程度にはなった。一つスポーツができるようになった。身体を動かすと気持ちがいい。

ただ、どこに行ってもやはり一番下手なのだ。テニススクールの初中級クラスの中では我が物顔できる一瞬もあるが、一般の中に入ると、まあ、テニスの上手い人の多いこと。

テニスは上手いが、実力が合わない人とはしたくないという人は来なくていい、というスタンスの、職場が一緒の人が中心となって作ったサークルに、もう20年以上前から参加していた。子育てやあれこれで、数年ぶりにまた顔を出し始めた。

そこで受けた、顔を合わせて数回目の参加者からの熱血指導内容が冒頭部分だ。久しぶりの下手くそな自分の参加で、せっかく言ってもらえるのだから、真剣に聞かないと、と思い、一生懸命聞いた。自分の一つひとつのプレーに解説されるのは初めてだ。自分が下手ということはよく分かっているが、言葉に表して面と向かって言われたのは初めてだ。人前で不機嫌にならない、サラッと聞き流す技術を身につけた私でも、途中、涙が出そうになった。

自分が下手なことは自分が一番よく分かっている。これまでの経歴から、どんなに頑張っても、飛び抜けて上手くなりそうな気配はない。

帰ってから、テニス休止中だがまずまず上手い夫にその日あったできごとを話す。
「その人も、テニスで生活している訳じゃないんでしょ?そしたら、まあ言ってみれば同じ範疇じゃん。言わせておくしかない、というか、そういう人なんじゃない」

聞き流すことができることができるようになったつもりが、その日は私にとっては衝撃的な経験で、これまでのテニス人生のことを思い返して、その人からの激辛アドバイスを思い出して、頭がいっぱいだった。

そして。

ついに翌日、どぶろっくばりに「やらかしちまった」のだ!

2人ペアで行う早出の時差勤務を忘れて、仕事をすっぽかしてしまった!

幸い、というか、たまたま早く来ていた人が代役を務めてくれたが、大変な迷惑をかけた。いい歳をして、仕事を忘れるとは。情けなくてその方が泣きそうだ。

子供がセンター試験を受けていて、週末の予定のことしか考えず、週明けの仕事スケジュールを確認する、という基本中の基本を失念する、という大失態。その日は一日中後ろめたい気持ちで仕事した。

その日の帰りに、たまたまサークル主宰者に出会って、「昨日熱血指導を受けたよ」と話してみた。
「○○さん?」と即、返される。当たり、だよ。
聞けば、その人はあちこちで問題を起こしているとか。とにかく指導好きで、しかもいいことは一つも言わない。指導するターゲットを変えていって、相手を嫌がらせるらしい。これまでも何人かから相談を受けて、やめるように話したらしい。一時的には収まるけど、ほとぼりが冷める頃にまたやり始める。

だから
「私はいいです。」ときっぱり断らないとダメだって。

趣味のことで頭がいっぱいになって、仕事に穴を開ける。これでは本末転倒だ。

趣味はあくまで趣味なのだ。
趣味とどのように向き合うかはその人の自由だ。


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