涙と線香花火のヒゲ脱毛

数ヶ月前から脱毛クリニックに通うようになった。
まったく生えてないわけでもなく、かっこよく整えられるほど伸びるわけでもなく微妙なヒゲ。だけど、ヒゲを剃ったばかりにあった女友達からヒゲを伸ばしてるのかと聞かれた。それからヒゲが気になり過ぎて、脱毛することに決めた。

1回目の施術の日はドキドキでいっぱいだった。脱毛が怖すぎて、受付の優しいスタッフの方さえ悪の組織の一員のように思えてしまう程だった。

問診票を書き終え、受付に行くと青い蓋の容器を渡された。麻酔だ。これを自分で塗らなければならない。責任重大である。この麻酔クリームをうまく塗らなければ、痛みに耐えられず、叫んでしまうだろう。

そんなことを考えながら、指示された番号のブースに向かった。カーテンをピッシリと閉める。不安な顔を誰かに見られるわけにはいかない。
鏡の横に、クリームの塗り方とそれを覆うラップの折り方の説明が写真付きであった。それを見ながら、まずラップを準備していくが、見本のようにうまく折れない。僕は信じられないほど不器用なのだ。見本とは違うラップが生産されていく。上手くできないが、ラップを無駄に使うわけにはいかないので、変な折り方のラップのまま貼ることにする。
そして、絶対に効果を出してもらうために細かくクリームを顔に塗りたくり、ラップを貼っていくが、大きすぎたり短すぎたりで、結局ラップをちっちゃく切って補充した。
そこからだいたい40分くらい麻酔が効くまで待つ。頼む絶対に痛みから守っておくれ。そんなことを願いつつ、本を読みつつ、40分が経った。

すると、女性の看護師さんに名前を呼ばれ、カーテンをサッと開かれた。このラップまみれの顔を見られる。看護師さんは何人も見慣れているかもしれないが、こちらは初めてなので、とても恥ずかしい。少し下を向きながら、返事をした。
看護師さんについて行くと、まさか受付の方に歩いて行くではないですか。看護師さんに見られるだけで恥ずかしいのに、他のお客さんや受付の方に、顔の下半分ラップミイラ状態を見られるなんて。自意識過剰な僕には、ハードルが高すぎる。顔の下半分ラップミイラ男は、極力下を見ながら受付を通りすぎ、どうにか施術室にたどり着いた。しかし、これはまだ序章に過ぎない。これから本当の恐怖が待っていることを思い出し絶望する。

一度看護師さんは、退室し、その間にベットに仰向けになる。看護師さんが戻り、顔のクリームを拭き取ったりして、着実にレーザーの時間が近づいてくる。看護師さんは笑顔で話しかけてくれるが、恐怖でうまく返事ができない。ここで想定外のことが起きた。僕は矯正のワイヤーが下の歯の裏についているので、唇の裏と歯の間にコットンを挟まなければいけないらしい。コットンを受け取り、挟もうとするとなかなかうまく挟まらない。僕は不器用なのだagain。何度も試行錯誤するも挟まらなく、結局看護師さんにやってもらうことになった。このときだけは恐怖のことよりも不甲斐なさが勝った。
しかし、すぐ恐怖は戻ってきた。目を守るために視界が隠された。まもなくレーザーの時間だ。色々説明されたが、コットンでうまく返事ができない。それを察した看護師さんが左手をあげることで、返事とみなす画期的なシステムを提案してくれた。

 そして、ついに始まった。まずは毛の少ない頬からだ。一番弱いレベルで頬を照射していく。あれ?全然痛くないではないか。今までの緊張はなんだったんだ。少しずつレベルをあげてもらっても痛くない。そして、もみあげのところを照射した瞬間バチンという音とともに、輪ゴムで弾かれたような痛みがきた。やっぱり痛いじゃないか。再び恐怖が襲う。もみあげの前に、一番弱い強さになっていたからだ。その時、看護師さんに耐えられるか確認された。僕は大丈夫ですと答えていた。痛いが我慢できないレベルではなかった。

その後どんどん進んでいき、ついに鼻下にやってきた。ここに来る間に、左手に右手の指が信じられないほど食い込んでいた。一番弱いレベルから始まった。すぐにバチンの音と線香花火のようなに焦げた匂いが鼻に伝わった。普通に痛い。看護師さんからレベルをあげますかと聞かれて、はいと答える。この時謎の男としてのプライドが生まれた。バチン。痛い。レベルあげますか。はい。バチン。痛い。次が最大になりますがあげますかと聞かれ、正直この時点でめちゃくちゃ痛過ぎて泣きそうだった。けれどまだ耐えられない痛みじゃないし、生まれたばかりのプライドが再びはいと答えた。そして、渾身の一発が照射された。バチーン。痛ーい。その後どんどんリズムよく進み、線香花火の香りに包まれ無事終わった。

看護師さんが冷却などしながら、諸々確認してくれて、噛み締められたコットンを回収してくれ、ついに視界が開かれた。しかし、天井が滲んで見える。長時間目を隠してたせいでピントが合わないのだろうか。目を擦ってみると、濡れている。ちゃんと濡れている。僕は涙を流していた。照射の間、痛過ぎて泣きそうだと思っていたら、ちゃんと泣いていたのだ。恥ずかしくてなぜか涙が出ていたことを看護師さんに報告していた。話によると、涙する人は少なくないらしい。看護師さんは優しく教えてくれた。そしてクールに立ち去っていった。こうして無事一回目の施術は終わった。

現在5回以上終わったが、コットンはうまく入れられないし、ちゃんと痛いし、涙は流しちゃう。その分着実にヒゲが少なくなったし、肌が綺麗になっている実感がある。涙を流した分強くはなっていないけれど、肌が綺麗になっているので、これからも通い続けて涙を流していくのだろう。

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