レオの火消し(5)

5

コートの男の手からポォっと薄緑の光が放たれ、ニワトリ男の頭を包み込む。
すると変化したニワトリ男の体はゆっくりと元の人間の状態へ戻り始めた。
気を失っているが、もうニワトリの特徴は完全に消えていた。
「よっし、終わり。」
コートの男はふっと息をつくと、全身から薄緑の光を放ち、元の人間の姿に戻った。
ニワトリ男をゆっくりと担ぎ、近くに置いてあるコートを掴むとバーの出口へ歩き始めた。
「おい、バーテン。もう出てきていいぞ。悪いな、店壊しちまって。まぁ、壊したのは俺じゃないけど。」
歩きながらそう言うと、店の奥からバーテンダーがすっと顔を出し、真剣な眼差しでコートの男に話かけた。
「ちょっと待って下さい。」
「あ?あぁ、そうか。一杯飲んだんだっけ。」
コートの男はコートの内ポケットをガサゴソ探し始める。
「貴方、さっき”火消し”を使いましたね?」
バーテンダーは静かに問いかける。
コートの男の顔が引き締まり、バーテンダーをじっと見る。
「やっぱり同業か。さっきこいつが発火した時、驚いてなかったから何となくそうだと思ったけど。
で、どうすんの?通報するのか?」
コートの男は面倒くさそうにバーテンダーに聞いた。
「火消し行為は政府管轄発火者管理委員会の承認が必要なはずです。火消し能力を持っている発火者はかなり稀ですが、見つけた場合は法律で通報義務があります。」
「けっ、教科書で読んだような言い方だな。通報するなら勝手にしろ。その前にずらかるけどな。」
コートの男は出口の方へ振り返ると、ニワトリ男を抱えたまま、また歩き出した。
「もしかして貴方、レオでは?」
バーテンダーはまた静かに問いかけると、
コートの男は目を大きく開き、歩みを止めた。
「お前、ただのバーテンダーじゃねーな?」
レオはバーテンダーの方を振り返ると、警戒した表情で睨みつける。
「貴方が最近噂になってた火消し屋のレオでしたか。裏社会では貴方の話で持ちきりですよ、一目見てみたかった。」
バーテンダーは顔を緩め、嬉しそうにレオに伝える。
「そりゃどうも。じゃあ俺の稼業は知ってんだろ。引き渡しに遅れるからまたな。」
レオは無関心そうに言い放つ一方、バーテンダーは話続ける。
「うちのボスが貴方を探してました。”八足”(やつあし)、ご存知でしょう?店の修理費用の事もありますし、一度事務所に行きましょう。」
バーテンダーは静かにそう言うと、レオの顔は焦りと落胆の表情に変わった。
「おいおい、八足かよ、、、勘弁してくれ、、分かったよ。こいつの引渡しはどうすんだ?」
レオは抱えてるニワトリ男を指さした。
「下の者に代理で運ばせますのでご安心を。」
バーテンダーがそう言うと、入口のドアがゆっくりと開き、厳つい顔をしたスーツ姿のスキンヘッドの大男が店内に入ってきた。
「彼に任せます。場所は赤坂見附前ですね。よろしく頼みますよ、柏木。」
「へい。」
柏木と呼ばれた男はレオからニワトリ男を受け取り担ぐと、店を後にした。
「それでは行きましょう、レオ。」
バーテンダーは微笑みながら言った。


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