死の淵を見た話

2022年、2月16日、水曜日。
水曜日は夜にバイトが入っている。

目覚めたのは18時。どれだけ遅くとも18時55分には出発しなければならないので、布団を出て残り物の鯛めし風炊き込みご飯を食べた。
また、髪の毛の事情上寝たあと風呂に入らずには外に出られないので、風呂に入る。

ついでに言うと生理3日目(ほぼ寝てる間に過ぎてるけど)で、昨日は2日目だったのだが漏れてしまっていたので、風呂で下着を洗う。

温まって、髪も洗って、風呂を出る。
そしてドライヤーをして歯を磨いて、最後に水を飲んで家を出た。

予定通り(?)18時55分。

そこからは、息切れすることはわかっているのでマスクを付けず自転車爆走。毎週のことだ。

バイト先に到着した私は、マフラーを外し、マスクをつけて引き戸を開けた。

息切れというものは、急には治まらない。自然と落ち着いていくものだ。分かっている。なので私は平然とマスクの中で息を切らしながら、息を吸いながら、立っていた。

おかしいと思った。
急に治るとは思っていないが、あまりにもマシになる傾向がない。それどころか、よりしんどくなっていないか?
そう気づいた頃にはもう遅かった。

目は開いているはずなのに、どんどん視界に黒い部分が増えていき、気付けば何も見えなくなっていた。
耳は聞こえている。
息を吸っているのに吸っているような気にならない。足りない。
頭の後ろの方がガンガン、ぐわんぐわんと鳴っている。
吐き気もある。
その上、ただただしんどい。持久走Lv.50000(最大レベルは100です)をしているようなしんどさ。
吸っても吸っても息切れがマシになるどころかどんどんしんどくなっていく。
足元も覚束無い。幸い、知っている場所で起きたことで何とか記憶の中の配置を頼りに机を持っていることが出来たので、転倒はしなかったが、動けない。
口も、吸うことで精一杯で何も話せない。今誰かから心配の声をかけられてもきっと返事ができない。

機能しているのは手の感触と、耳だけ。

空いている右手で右目の上と下の皮膚を上下に開いて、ちゃんと目が開いていることを確認しても、目の前は真っ暗。

このまま死ぬか、もう死んでいるかのどっちかだと思った。
顔が向いている先から人の話し声は全部聞こえていて、世界はいつも通り回っているのに、自分は何も見えなければ、何も出来ないし何も話せない。
だからもう、自分はこの世界の者では無くなって、精神だけ残っているんじゃないかと思っていた。

そう思いながら体感では5分(実際には2分も経っていないかもしれない)ほど経った時、視界は暗いままだが、真っ白なものは、濃いグレーで見えるようになったタイミングがあった。
実はその前にも1回あったのだが、一時的なブラックアウトだと思っており(普段から貧血による立ちくらみで一瞬のブラックアウトはよくあるため)、その間に行動しようとは思わなかったのだ。
しかし、もうここで動かなければ(もしまだ生きているとすれば)死ぬと思い、2回目はさすがに行動した。奇跡的に責任者の服が白だったため、「すみません、ちょっと気分が…」と、おそらくこの白っぽいので合っているだろう、と顔も外に出るための道も見えない状態で、半分言い捨てて外に出た。知っている場所で本当に良かった。

そうして外の空気を吸いながら足踏みをすること5分ほど(これは本当に5分)。なんとか視界も戻り、息切れも喉の奥に残ってはいるが(持久走の後によくある感覚)治まり、手でまた目を上下に開くと勿論見える。

無事にバイトを再開出来たが、生きた心地はしない。今生きていてこうやって文字を打てていることが信じられない。もう一生経験したくない。


普段あまり怖いと思うことがないのだが、人生で1番怖かった。絶対に開いている目から何も情報がない感覚。なのに耳から聞こえてくる世界は通常運転。自分だけが異世界に取り残されているような感覚。本当に本当に怖かった。人間皆死ぬ直前は怖いんだなーと思う。死ぬなら楽に死にたいね。


家に帰って調べていたところ、「脳貧血」と思われた。

皆も『貧血・体調不良時の寝起きに入浴してその直後息切れするくらい激しい運動』したらダメだよ!!!!!!


このことをバイト帰りに友達に話していたら、「別に嘘やって思う訳では無いけど、自分では信じられない」と言われて、この体験を信じられない世界の方がきっといいと思ったのでむしろ嬉しかったです。でも世の中には経験者はいっぱいいると思います。皆強く生きていこうね。からだ、だいじ。

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