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周期律表からわかる花火の原理

周期律表とは

周期律表(周期表ともいう)は、
物質を構成する基本単位である元素を、それぞれが持つ物理的または化学的性質が似たもの同士が並ぶように決められた規則(周期律)に従って配列した表です。

ここでは、周期律表を見てわかる花火の原理について説明します。


周期律表と炎色反応

表1に周期律表を示します。
表中、炎色反応が知られている元素を黄色で塗りつぶしました。

表1 周期律表と炎色反応を示す元素


1族アルカリ金属

まず一番わかりやすいのは、一番左に位置する1族アルカリ金属です。

「分光器で計測したスペクトル」でも説明しましたが、
1族の原子の最外殻の電子配置はs軌道に電子が一つ入った状態です。
なので、容易にs軌道からp軌道へ電子励起が起こります。

励起された電子がp軌道からs軌道に戻るときに、そのエネルギー差に対応する光を発します。
その光の波長が可視域(目に見える)の範囲であれば炎色反応となります。

数字で表せば、波長400~800nm程度、エネルギーでは1.55~3.1eV(エレクトロンボルト)です。

ルビジウム(Rb)とセシウム(Cs)は実際に炎色反応のスペクトルを計測することにより発見された元素です。19世紀後半、ドイツのブンセンという人が発見しました。ブンセンは理科室にあるブンセンバーナーを開発した人でもあります。


1族以外の元素は原子の状態では最外殻の電子配置に電子が一つ入った状態ではありません。なので、原子の状態では電子励起は起こりにくいです。

なにか他の物質と結合した分子が、最外殻の電子配置に電子が一つ入った状態であれば電子励起が起こる可能性があります。


2族アルカリ金属

2族のアルカリ金属で説明すると塩素と結合したラジカルが発光種となります。

塩化カルシウム(CaCl)は最外殻の電子配置に電子が一つ入った状態です。CaCl2ではないことに注意です。CaCl2では閉殻となってしまうので電子励起は起こりにくいです。
炎中で安定なCaCl2が生成し、その中のわずかな量がCaClラジカルとなり、光を発生しているイメージです。

ストロンチウム(Sr)とバリウム(Ba)も同様に塩素と結合した分子が発光種です。銅(Cu)もCuClラジカルとなった時に最外殻の電子配置に電子が一つ入った状態になるため、炎色反応が起こります。


塩素と炎色反応

塩素ラジカルが発光種となるこれらの元素は当然のことですが、塩素分がないと炎色は強く出ません。なので、炎色反応の実験を考えるときに工夫する必要があります。
ネットに書かれている方法で、水に塩酸を入れた後に水溶性の金属化合物を溶かす方法があります。これは金属化合物の溶解度を上げるためではありません。光る発光種が塩化物であるからです。

ナトリウムの場合には塩酸添加は不要です。光るのはナトリウム原子だからです。ただ、食塩(NaCl)と原料にすることが多いので塩素分は入ってしまいます。


カルシウム(Ca)

カルシウムの炎色反応でタンスの吸湿剤を使うという方法もネット上であります。原料は塩化カルシウム(CaCl2)です。良い原料を探したと言えます。チョーク(CaCO3)を削って使う場合には塩素分を加える必要があるでしょう。

もう1つの炎色の可能性

混乱するかもしれませんが、正確に説明するためにもう一つの炎色の可能性についてお話しします。

上に「塩素分がないと炎色は強く出ません」と書いています。
どういうことでしょうか?

ストロンチウムの場合、塩素分がなくても薄い赤色を炎中に見ることができます。これは分子ラジカルSrOHが光るためです。
Sr(OH)2が閉殻となる分子ですが、OHラジカルが1つ分離すると、最外殻の電子配置に電子が一つ入った状態になります。
BaとCuも同様です。

なので、塩素がないと全く光らないということはありません。
しかし、炎色反応として一般的に知られている色ではありません。


13族元素

次に13族元素の説明をします。
基本はこれまでと同様、最外殻の電子配置に電子が一つ入った状態があれば発光する可能性があります。

ホウ素で考えると酸素原子1個と結合することでそういう状態になります。
BOラジカルが発光種です。Ga、In、Tlも同様です。


まとめ

ここでは周期律表からわかる花火の原理について説明しました。
まとめると、炎色を起こす条件の一つは、原子であれ分子であれ、最外殻の電子配置に電子が一つ入った状態があることです。
もう一つの条件は発する光が可視域であることです。

グリーン・パイロラント社長 工学博士
松永猛裕



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