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石神井川上流地下調節池整備事業の事業評価について (その1):溢水被害の場所を考慮して議論すべき

 
 石神井川上流地下調節池整備事業については、令和5年11月27日に開催された河川整備計画策定専門家委員会において事業評価の検討が行われました。この委員会では、時間の制約があったためか、「便益(B)1154億円」「費用(C)877億円」「B/C 1.31」の結果のみが提示されています。(委員会配布資料
 河川整備計画策定専門家委員会は、東京都が国から事業費の補助採択を受けるために必須の専門家会議です。この専門家委員会後に都が国に申請を行ったところ、近年、事業費が高騰する中で、「新しい数字を使っていない」という理由で補助金の採択は「保留」となり、都はその申請資料を「廃案」する扱いとなっています。(詳しくは、五十嵐都議のNoteを参照して下さい)
 しかし、令和5年11月27日開催の委員会資料を確認すると、事業費以外についても何点かの疑問点が見つかります。

【過去の水害実績に「内水」が示されている】
 説明資料の3ページ目には、「2. 過去の水害実績」が示されています。

出典:第17回河川整備計画策定専門家委員会配布資料

 この資料では、過去10年間の水害の原因はすべて「内水」と説明されています。しかし、石神井川上流地下調節池事業は、河川の溢水氾濫の防止を対象とした事業であり、「内水氾濫」は対象外です。
 この点は、東京都も以下のように正式に回答しています。

質 問 事 項 一の 12
算出根拠資料の「 基礎数量 ・資産額 ・被害額」のうち 、超過確率 1 / 10の場合に生じる被害として 、調節池があった場合の case1 -2に ついて 、 約 616億円の被害が出ると試算している。この被害は 、 どんな 被害か。川の溢水氾濫か、内水氾濫も含むのか 伺う。
回 答
「 治 水 経 済 調 査 マ ニ ュ ア ル ( 案 )」 に 沿 っ て 求 め た 被 害 は 、 洪 水 時 の 溢水氾濫によるものを想定しています。

 出典:令和6年第一回都議会定例会文書質問趣意書

 専門家委員会の説明資料は、事業の意義やその評価の議論を行う重要な資料です。その説明資料に、事業で被害の軽減を想定しない「内水氾濫」を示している点は、議論の本質を歪めることにつながるのではないでしょうか。
 被害想定額の算出に使用した氾濫図(リンクの最後からダウンロード可能)やトンネル式地下調節池の構造物の図面からも、事業で防止を想定している被害は、河川の溢水被害のみであることは明らかです。
 2024年7月23日に開催される委員会では、事業で防止できた可能性のある「溢水被害」をもとにして議論を行うことが大切であると考えます。

【溢水被害の場所を考慮して議論すべき】
 筆者のNote(2024.7.16付)で説明した点に関係しますが、河川の溢水被害は、被害が発生した場所も考慮の上で検討するべきであると考えます。
 石神井川においては、「上流域」と「下流域」の間には、巨大な環状七号線地下広域調節池の取水施設があります(下図および口絵の写真を参照)

図:石神井川の「上流域」と「下流域」  
出典:筆者のNoteから引用   
(元図)東京都建設局「石神井川及び白子川洪水浸水想定区域図」


 「上流域」で河川水量が増えた場合には、この取水施設を使って河川水量をピークカットすることが可能です。このため、当該事業が期待する被害削減効果として、下流域の溢水被害は含めるべきではないと考えます。
 例えば、石神井川は平成22年7月5日に「下流域」の北区において溢水した履歴があります。この履歴は板橋で記録された1時間114㎜の記録的な豪雨です。また、このときの石神井川の溢水は北区に限定されていて、西東京市、練馬区など「上流域」において溢水は発生していません。北区における溢水被害の履歴は、「上流域」に建設される地下調節池の必要性の裏付けとは基本的にならないはずです。
 もちろん河川は一体的に治水管理するべきですが、石神井川については環状七号線地下広域調節池の効果を考慮した正確な議論が求められています。

【論理的・正確な議論が求められる】
 東京都は、令和5年11月27日の河川整備計画策定専門家委員会の開催後に、事業計画の書類とともに国に補助金の申請を行いました。しかし、「保留」の直接的な原因となった事業費の他にも、前回の事業評価には複数の問題が存在しています。都が国に申請した申請書類の中で問題があると思われる点は、Noteの【6月14日追記】で説明されています。
 東京都は、国に再度の申請を行うために2024年7月23日に再度の河川整備計画策定専門家委員会を開催する予定です。次回の委員会においては、事実に基づいた論理的・正確な議論が行われ、事業費以外の評価についても誤りが修正されることが期待されています。


※ 筆者は、正確で中立的・論理的な議論を望んでいます。
このため、もし上記の執筆に誤りなどがあった場合には、是非、筆者(2024naturegreen@gmail.com)までご連絡下さい。訂正すべき箇所は、訂正するなどの対応に努めたいと考えています。


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