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石神井川上流地下調節池は本当に計画規模が必要か?(その3) ―護岸整備に長期間を要するエリアは限定的-
本稿では、引き続き東京都が計画している貯水容量30万㎥の石神井川地下調節池の計画規模について考えます。計画中のトンネル式地下調節池は、1000億円を投じる巨大工事です。この巨大なトンネル式の地下調節池がないと、本当に石神井川の溢水は防げないのでしょうか。
【石神井川の洪水浸水想定区域】
石神井川は、東京都により下流から着実に護岸整備が進められています。
また都は、年超過確率1/100の1時間最大雨量100mmの降雨があったときの洪水浸水想定区域図を公開しています。
![](https://assets.st-note.com/img/1721091298134-kyUBNyhxDe.png?width=1200)
出典:東京都建設局「石神井川及び白子川洪水浸水想定区域図」に筆者加筆 https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/content/000067054.pdf
参考ですが、年超過確率1/100とは、毎年、1年間にその規模を超える洪水が発生する確率が1/100(1.0%)という非常に激しい豪雨を指しています。
一方、石神井川上流地下調節池は、年超過確率1/10の1時間最大雨量65mmの降雨を想定した対策として計画されています。
【石神井川上流地下調節池は上流域の洪水対策】
図1が示しているとおり1時間最大雨量100mmの豪雨があった場合には、西東京市~武蔵関駅下流付近(練馬区)の「上流域」と、練馬区東部~板橋区の「下流域」において、最大浸水深0.1~0.5mの浸水が想定されています。
この「上流域」と「下流域」との間には、巨大な環状七号線地下広域調節池(完成すると合計約 143 万㎥の貯留量を確保可能)の取水施設があります。このため、上流域における河川の増水はこの取水施設によって水量をピークカットすることができます。このため、計画中の石神井川上流地下調節池は、南町調節池(西東京市)~武蔵関駅下流付近(練馬区)の「上流域」の洪水対策であると言えます(図1を参照)。
【各エリアの状況:氾濫リスクは今後の護岸整備で解消可能】
それでは、「上流域」の洪水浸水想定区域を4つのエリアに分けて見ることにします。繰り返しですが、説明図の浸水想定は年超過確率1/100の100ミリの豪雨があった場合のとても広い範囲が着色されています。現実には、南町調節池が建設された1980年以来、西東京市のエリアでは43年間にわたり石神井川が溢水した履歴はありません。
![](https://assets.st-note.com/img/1721089217665-PvLQdtSPzZ.png?width=1200)
出典:東京都建設局「石神井川及び白子川洪水浸水想定区域図」に筆者加筆
① 南町調節池~青梅街道(西東京市)<今後、護岸整備>
河川の両側に住宅などの建物があり、護岸は未整備のため川幅も狭い状況です。将来的には護岸整備により治水レベルを向上させることが望まれるエリアと言えます。ただし、護岸整備を行うためには、住宅地の買収または区画整理事業が必要と思われます。
② 青梅街道~東伏見通り(西東京市)<現在、護岸整備中>
この区間は東京都による河川整備事業および東伏見公園の拡幅工事のため、既に用地買収が完了している区間です。このため、溢水により家屋等が浸水する被害は考えられないエリアです。(本稿の見出し部に写真掲載)
③ 東伏見通り~武蔵関公園(西東京市)<護岸整備済>
この区間は、既に護岸整備が完了しています。100ミリ降雨時を示した上図では浸水エリアが着色されていますが、多くが護岸より低いグラウンドです。武蔵関公園の西側に位置する溜渕橋付近については、川幅が急に狭くなっているため対策が必要と思われます。しかし、その他のエリアについては川幅も広く65ミリ程度の降雨では溢水のリスクはないと思われます。
④ 武蔵関公園~武蔵関駅の下流(練馬区)<近年中に護岸整備>
この区間は、護岸が未整備のエリアです。しかし、着実に下流域から護岸整備が進められています。また、隣接する西武新宿線の立体交差化事業が着手済です。この事業とあわせて武蔵関駅周辺のまちづくり(区画整理事業)も進められています。今後の護岸整備によって65ミリ程度の降雨に対応できると思われます。
【まとめ】
上で述べたとおり、石神井川上流域の護岸の多くはこれから整備する状況です。現地をよく視察すると、上流域については今後の護岸整備だけで65ミリの降雨に対応できるように見えます。
また、護岸整備までに長期間を要しそうなエリアは「① 南町調節池~青梅街道上流域」に限定されています。早期の治水対策が必要とはいえ、このエリアの洪水対策として1000億円を投じるのは過大です。また、地下調節池の建設には10年間の工期を要するため、「早期の治水対策」という点は理由には乏しいといえます。
また、東京都は、「調整池と護岸の整備を合わせて1時間最大雨量65mmの降雨に対応できる」と説明しています。しかし、一般的には下流域の護岸が狭い断面で整備され、住宅などの周辺環境によって護岸の拡幅ができないときに上流域の調節池建設が必要になるのではないでしょうか。
石神井川の下流域の護岸は50ミリの降雨に対応するように整備済とは言え、実際にはその堤防は高く護岸の幅も広くなっています。100ミリを想定した洪水浸水想定区域図(図1)でも、「上流域」と「下流域」の間の流域では浸水は想定されていません。これは65ミリ程度の降雨では、実際には溢水しないことを意味しています。
また、「上流域」と「下流域」の間には環状七号線地下広域調節池の取水施設があります。この点から石神井川地下調節池の建設が「下流域」の洪水防止のために必要とは言えません。
地下調節池は「上流域」の洪水対策が目的であり、その「上流域」の未整備区間では近年のうちに護岸整備が進められる計画です。これらの点を考えると、計画中の大規模(貯水量30万㎥)な石神井川地下調節池の建設が本当に必要であるのか疑問に思えます。
※ 筆者は、正確で中立的な議論を望んでいます。
このため、もし上記の執筆に誤りがあった場合やご意見がございましたら、是非、筆者(2024naturegreen@gmail.com)までご連絡下さい。
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