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5-(2) 安全・経済的な代替案を検討するべき(その2):東伏見公園拡幅予定地の活用と「伏見通りアンダーパス」の冠水リスクの解消

〇はじめに
 東京都は石神井川上流地下調節池整備計画を進めようとしています。この地下調節池は、武蔵野市の武蔵野中央公園から西東京市の南町調節池を結ぶ地下トンネル式調節池です。
 Note 1では、石神井川上流域においては、今後、河川整備事業が進められるため、整備事業と合わせて河川脇用地の活用が可能であることを説明しました。また、河川脇で雨水貯留できる調節池や空間の創造は、以下の長所があることを説明しました。
① シールドトンネルによる地下調節池の設置より建設費が安くなる
② 河川脇の空間の創造は、治水安全度の向上とともに良好な河川環境の創出と地域の生活の質の向上につながる。

 本稿ではNote 1に関係する具体的な例として、東伏見公園拡幅予定地の活用の利点について説明します。また、現計画では東伏見公園中間立坑から「連絡管トンネル」を通じて「本管トンネル」に接続する計画です。【利点5】では、幹線道路アンダーパスの冠水防止の観点から現計画の大きな問題点と解決策について言及します。

〇東伏見公園拡幅予定地の活用
  筆者は、現計画の地下トンネル型調節池の代替地を探す場合には、河川脇の用地のあらゆる可能性を模索するべきであると考えています。
 そのような前提の上で、比較的大きな調節池を建設するためには、青梅街道北側の東伏見公園拡幅予定地を活用することが有効であると考えます(この案は、既に市民が2024年2月に提案済と聞いています)。この用地では、石神井川の河川改修事業と東伏見公園の拡幅事業を合わせて一体的な開発が行われる計画です。すでに拡幅予定地(図1で黄色線で示したエリア)は、都市計画決定されています。

 図1 東伏見公園拡幅予定地(黄色枠線)と河川事業用地(水色着色部)   
出典:「東伏見公園マネジメントプラン」P18に筆者加筆

 現在、河川脇の用地(図1で水色で着色)は、東京都が河川事業のために用地買収をほぼ完了しています。
 この河川改修用の用地と東伏見公園拡幅部の用地を利用し、地上または地下に大規模な調節池を建設することが可能です。この位置に調節池を建設することは、以下に示す5点の大きな利点があります。

【利点1】工事費と維持管理費がはるかに低額となる
 既に河川改修用の用地では改修工事が始まっていますが、周囲には広い用地が確保されています。また、その他の公園拡幅部の用地も公園整備事業が始まる前には更地になります。このため、地面下に調節池を建設する場合であっても地上から掘削作業が可能です。高額なシールドマシンを使う必要はありません。このため、地下トンネル式の調節池と比較してはるかに安価な工事費で建設することが可能です。地下の浅い空間に鉄筋コンクリートで構築することができるため、完成後の維持管理も安価です。

<参考>どの程度の深さの地下調節池となるか
 仮の検討として、どの程度の深さの地下調節池になるか検討したいと思います。筆者は30万㎥の貯水量は過大と考えていますが、検討にあたっては同じ貯水量を確保することにします。
既に開園した区域を除いた拡幅予定区域だけで約7万㎡の面積があります。このため公園拡幅予定区域の地下を活用すれば、深さ4.2m(=30万㎥÷7万㎡)まで掘削して調節池を建設することによって30万㎥の貯水量を確保することが可能です。
 ただし、上で述べたとおり、筆者は上流域の調節池の設置位置については、河川脇用地のあらゆる可能性を模索するべきと考えています。河川改修事業と合わせて小規模であっても他のエリアに調節池を建設することにより、公園拡幅予定区域の調節池の容積を小さくすることが可能です。

【利点2】安全に建設工事を行うことが可能
 シールド工事は、大型のシールドマシンを地下で推進しながら掘削する工法のため、地盤の緩みや陥没のリスクは避けられません。
また、現計画では武蔵野中央公園にシールドマシン発進用の大型の立坑が建設される計画となっています。しかし、武蔵野中央公園はかつて中島飛行機武蔵野製作所があった場所のすぐ近くであることから、戦時中の不発弾が埋まっている可能性は否定できません。このような場所で大規模な掘削工事を行うことは決して安全とはいえません。
 図1で示した用地であれば地上からの掘削によって安全に建設工事を行うことが可能です。
 
【利点3】青梅街道の冠水防止対策が可能になる
 詳細についてはNote 2で説明したとおり、この付近で最も浸水被害のリスクが高いのは青梅街道の冠水です。青梅街道の冠水を防ぐため、増強した道路脇の排水管を河川脇の用地に建設した調節池に接続することが可能となります。(図1に図示)
このような内水被害の防止と河川の治水事業の融合は、Note 3で説明する「流域治水」の考え方にも沿った対応と考えます。

【利点4】小型のシールドマシンの建設と施工が不要になる
 現計画では、図4に示すとおり東伏見公園中間立坑から「連絡管トンネル」を通じて「本管トンネル」に接続する計画になっています。【利点1】の工事費に関係しますが、提案している位置に調節池を建設することによって、小型シールドマシンを建造して「連絡管トンネル」の建設工事を行う必要がなくなります。
 シールドマシンは工事毎に断面などが異なるために、一般的に工事の完了後は廃棄処分となります。すなわち本計画では本管トンネルまでを結ぶ僅か200mの連絡管トンネルを建設するために高額なシールドマシンが必要となっています。東伏見公園中間立坑の設置と連絡管トンネルの建設の省略は、大幅な工事費の削減につながります。

図4 石神井川上流地下調節池の概要図   
出典:東京都建設局HPに筆者加筆

【利点4】2つの調節池の中間の適切な位置に新しい調節池を建設できる
 本事業の取水位置である「南町調節池」の下流には「富士見池調節池」あります。この2つの調節池の中間地点は、提案を行っている東伏見公園拡幅予定地です。現計画の東伏見公園中間立坑は中間位置より下流側に位置します。
 局地的な集中豪雨は、河川のどの位置で発生するか分かりません。河川の水量をピークカットできる調節池は、既存の調節池の中間位置に設置した方が、その機能を十分に発揮できると言えます。

【利点5】「伏見通りアンダーパス」の上流側に調節池を建設可能
 最後の説明となりましたが、この利点が最も重要な点であり、重大な浸水被害の防止の観点から現計画の大きな問題点であると考えます。
 取水施設の上流側には東伏見公園(開園済)と西武新宿線の下を通過する「伏見通りアンダーパス(西東京東伏見トンネル)」があります。この道路は西東京市と武蔵野市を結ぶ南北の幹線道路です。石神井川からの氾濫水が「伏見通りアンダーパス」に流入する事態は、必ず避ける必要があると言えます。
 しかし、南町調節池から東伏見公園脇の取水施設までは距離があるため、この地域にゲリラ豪雨や集中豪雨があった場合には、河川の水位が上昇して伏見通りに氾濫水が溢れるリスクがあります。東京都が本事業のために作成した「氾濫図」でも、100ミリ/時の降雨で想定した氾濫想定図(図2)でも氾濫域になると予想されています。
 伏見通りが石神井川を跨ぐ東伏見橋は道路勾配のピークに位置しています。伏見通りに氾濫水が溢れた場合には、東伏見橋から道路勾配を下に流れるようにして「伏見通りアンダーパス」に大量の氾濫水が流入します。

図2 「東伏見通りアンダーパス」とその周辺図 
出典:石神井川洪水浸水想定区域図(100ミリ/時)に筆者加筆
写真 「伏見通りアンダーパス(西東京伏見トンネル)」    
出典:筆者撮影

 繰り返しですが、「伏見通りアンダーパス」が冠水する事態は避けなければなりません。このため伏見通りの下流側に取水施設を設置している現計画は見直す必要があるのではないでしょうか。
 幸いなことに、東伏見公園拡幅予定地は伏見通りの上流側に位置しています。東伏見公園拡幅予定地内に調節池を設置して、上昇した水量をピークカットできるようにすることは、極めて重要であると考えます。

〇まとめ
 石神井川の上流域においては、これから河道整備を行う段階です。このため河川改修事業と合わせて河川脇に小規模な調節池を建設することにより、治水性能を向上させることが可能と考えられます。特に、青梅街道北側には河川改修事業のために東京都が既に買収をほぼ完了した広大な用地があります。東伏見公園拡幅予定地と合わせたこの用地を活用して調節池を建設することは複数の利点が考えられます。
 最後に説明したとおり「伏見通りアンダーパス」に石神井川の氾濫水が流入することは必ず避ける必要があります。この点からも東伏見公園拡幅予定地に調節池を設置すること、少なくとも取水施設は伏見通りの上流側に変更することは「伏見通りアンダーパス」の冠水を防止する上で極めて重要と考えます。
 拡幅計画が進められている東伏見公園の拡幅予定地に調整池や取水施設を設置することは、東京都の中の異なる部局間の調整が必要になることと思います。しかし、重大な水害被害を防止する上では東伏見橋付近での氾濫は必ず避けなければなりません。新しい国の水害対策である「流域治水」も、河川の流域全体のあらゆる関係者が協働して、流域全体で治水対策を行うことを謳っています。

(参考文献)
Note 1: 安全・経済的な代替案を検討するべき(その1):河川脇の用地の活用
Note 2: 過去の水害の原因を踏まえた対策の必要性(その2):内水氾濫の防止も考慮した対策を検討するべき
Note 3: あらゆる関係者が協働した「流域治水」の実現を

※ 筆者は、正確で中立的・論理的な議論を望んでいます。
このため、もし上記の執筆に誤りなどがあった場合には、是非、筆者(2024naturegreen@gmail.com)までご連絡下さい。訂正すべき箇所は、訂正するなどの対応に努めたいと考えています。


 


 

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