これまでの経緯と執筆の背景―石神井川上流地下調節池整備計画について―
〇 石神井川上流地下調節池整備事業について
東京都は石神井川上流地下調節池整備事業を進めようとしています。この調節池は、武蔵野市の武蔵野中央公園から西東京市の南町調節池を結ぶ地下トンネル式調節池です。東京都は、石神井川の溢水防止のために30万㎥の地下調節池の建設が必要と説明しています。
〇 整備事業計画のこれまでの経緯
整備事業のこれまでの主な経緯は以下のとおりです。
令和3年12月14日~28日:都市計画案の縦覧
令和3年12月23日:第2回武蔵野市都市計画審議会
令和4年2月9日:第236回東京都都市計画審議会 (議事録のpp.9-14が該当)
令和4年3月10日:都市計画決定
令和5年11月27日:第17回河川整備計画策定専門家委員会
令和6年3月19日:事業計画の申請(東京都→国土交通省)
(令和6年3月28日:「事業計画の申請」の文書(R6.3.19付)の廃案)
令和6年7月22日:第18回河川整備計画策定専門家委員会
最近の動きとしては、令和6年3月19日に東京都は国土交通省(国)に事業計画の申請を行いました。しかし、この時の費用対効果が事業費の高騰分が反映されていない過去の金額に基づいて算定されていたため、最新の価格で算定し直すように国は都に要請しました。(申請が「保留」の扱いとなったため、都から国への申請手続き文書は、一旦は廃案の扱いとなりました。)
その後、新しい事業費に基づいた費用対効果などが令和6年7月22日の専門家委員会で議論されました。今後、東京都は国に対して、再度、事業計画を申請する予定です。つまり、国が新規事業として石神井川上流地下調節池整備事業を採択するかどうかは、今後の国による判断に委ねられている状況です。
〇 Note執筆の背景
東京都のHPが示すとおり、本事業について東京都が公表している情報は極めて限られています。シールドの発進立坑が設置される武蔵野中央公園付近の環境が大きく悪化することから、武蔵野市の都市計画審議会でも多数の意見や質問が出されました。しかし、提示される情報が乏しいため議論の深まりには限界がありました。東京都の都市計画審議会でも、巨費を投じる大規模事業に対して委員から数多くの疑問や質問が出されました。しかし、限られた情報に基づいているため議論が深まらないことは同様でした。地元説明会での説明や質疑も同様です。
そこで、自身で石神井川を現地調査し、氾濫の場所や原因、河川の水位情報などを調べました。また、東京都と協議している方から調節池の貯水量や費用便益分析に関係する資料を共有させていただきました。専門家の方からさまざまな知見も教えていただきました。
依然として、いくつかの疑問点が残ったままの状況のため「東京都は巨額の税金を投入する本事業に着手する前に、納税者が納得できる説明をした方が良い」と考えるようになりました。
1点目に、計画では30万㎥の貯水量の地下調節池を建設する計画となっています。しかし、本当にその規模が適切であるのか、説明が十分ではありません。南町調節池が完成した1980年以降、南町調節池が満水になったことはなく、調節池の不足を原因とする溢水も発生していません。
2点目に、本事業は国からの補助を受けて東京都が実施する公共事業です。公共事業の実施にあたっては費用対効果を確認する必要があります。費用対効果の分析については、東京都は2度の専門家委員会を開催しています。しかし、委員会は短時間であることもあり検証できなかった問題も残されていると考えます。
3点目に、治水事業は巨額な資金を必要とする事業です。安全・経済的に工事を行うことができる事業計画を策定する必要があります。地下トンネル式の調節池は建設費や維持管理費が高額です。計画中の施設が完成すると、毎年約6.5億円もの維持管理費が必要になると想定されています。将来世代の負担にならないような計画に改善できる余地があるように思えます。
4点目に、「内水」が流域の浸水被害の6割以上を占める中で、河川の溢水だけ防止できれば良いということではありません。また、過去20年間の溢水被害のほとんどは、北区の河口付近で発生しています。中流域には巨大な環状七号線地下広域調節池の取水施設もあります。流域全体の水害を低減する上で、1310億円の事業費を投入して上流域に地下調節池を建設することが、流域全体の水害を減らす上で合理的と言えるのか、説明が不十分に思われます。
5点目に、国は新しい「流域治水」に政策を転換しています。日常は公園やグラウンドとして使用できるような調節池で治水対策ができれば、地域住民の生活の質の向上にもつながります。石神井川の水害防止も「流域治水」の考え方に沿って、流域全体で持続可能な治水対策を行うことができるのではないでしょうか。
以上のような疑問が、石神井川の近隣に住む私がこれまで原稿(Note)を書いてきた背景です。
これまでの原稿は、以下の目次からリンクが可能です。
第6節で書いたとおり、河川の治水対策は、住民を含むあらゆる関係者が協働して対策を実践する「流域治水」の時代に転換しています。一人でも多くの関係者や住民の方が、本事業に関心を持っていただくことを願っています。
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