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室外機式スープレックス

 人生で1番笑った出来事はなんだろうか。思い返してみると色々あるが、上位は僅差の戦いになるのでぶっちぎりの1番を決めるのはなかなか難しい。が、その中でも瞬間最大オモシロを叩き出したのは"アレだ"というのがある。だけどこういうものは得てして他人には中々伝わらないんですよね。

 アレは中学時代。私は親友Tくんといつも行動を共にしていた。Tくんは体を張って積極的に笑いを取りにいくタイプで、くだらないとわかっていても笑ってしまう愛嬌も兼ね備えた人物であった。

そんなTくんであるが、時に奇行に出る癖があった。我が校は95%が自転車通学だったため、その際にはヘルメットを被るのがルールであった。とは言っても、2年にもなるとヘルメットはカゴの中に入れっぱなしで、被っているのは校舎の近くを通る時だけであったが。
ある日の帰り道、私と二人並んで自転車を漕ぐTくんは突然カゴの中のヘルメットを田んぼ脇の細いドブに投げ捨てた。特に会話もしてなかったので本当に突然だった。それを当たり前のように真顔で行い、そのまま進んでいくTくんを呆然と眺めている私。あれは非常にシュールだった。
(後ほど理由を聞いたが、本当に理由はないらしい)

3年の秋。台風が過ぎ、学校の敷地は飛ばされてきたゴミやら落ち葉やらでめちゃくちゃだった。その為、午後の授業は中止して全校生徒で掃除をすることになった。私とTくんは校内の窓掃除担当。2階の窓をダラダラと拭きながら外の景色を眺めていると、斜め下にエアコンの室外機が見えた。20年前の田舎の学校の話なので、エアコンが付いているなんてのは1階にある視聴覚室と職員室くらいだった。見えていた室外機は視聴覚室のもので、その時まで特に意識したことはなかった。あぁ室外機だな とぼんやり見つめていると、ふと思いついた。

ここから室外機の上に飛び乗ったらどうなんの?

思い立ったら止まらないのが中坊の正しい精神なので、すぐさま近くにいるTくんを呼びつけ、あれに飛び移れるか?と聞く。窓の下をジッと見つめるTくん。ガラッと窓を開け放ち、こちらを向き直しニカっと笑うと答えもなしにそのまま飛び降りていった。
あっ、と言う間に斜め下にある室外機の上に両足で着地。ドン!っと鈍い音を立てた次の瞬間、そのままその場で90度回転し背中から室外機に叩きつけられるTくん。その姿はドンキーコングの雑魚敵がやられる時にソックリ!

ドン! クルッ! ドン!となったTくんは瞬時にチャンスと思ったのであろう、その状態で手足を弱々しく動かし、ひっくり返ったカメのような動きで笑いを誘ってくる。それを目撃したのも、その場で涙を流しながら爆笑しているのも私だけなのに。次の日まで腹筋が痛くなるほど笑ったのはあれ以来あったかなぁ…

このオモシロアクシデントは前日の台風で室外機の上に薄っすら雨水が溜まっていた為だったが、今も濡れた室外機を見るとあの情景が浮かんでくる。(怪我一つなくてよかった)

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