シキ 第二章「夏雲奇峰」第二話
第二話
翌日の学校では朝から自分の席で机に突っ伏していた。
踏んだり蹴ったりとはまさにこのことを指すのだろうと思う。
用例で使ってもらって構わない。
まだ完成せずともせっかくここまでやったのに…。
少しずつ、本当に少しずつ形を作っていたのに…。
まあ、仕事が遅かったのは事実だし、もっと自分が積極的に動いていれば春休み明けには完成していたかもしれない。
だけど、自分一人のせいにはしてほしくはない。
「美山さん、大丈夫…?」
伏せているとふと頭上から声がした。
「ん…」
顔を上げると前の席の快活少女がシキのことを心配そうな目で見ていた。
名前は確か…
「ありがとう、空知さん。大丈夫だよ」
空知詩季。三年生で初めて同じクラスになった人で、シキとは真逆で髪はかなり短めなショートカット。適度な小麦色の肌からきっと運動部だろうことが想像できる。
「この前もボーっとしてたけど、私でよければなんでも聞くからね!」
「ありがとう…」
初対面でも心配してくれる空知にシキは純粋に感謝を述べた。
「そういえば美山さん、今日の古典の現代語訳ってやった?」
空知はここで会話を終わらせるのにある種の不安を覚えたのかもしれない。
「あ!やってない…」
シキは空知のこの会話によってこれを思い出した。昨夜は課題なんてなにも出来ずに寝てしまったのだ。
今日の古典は一時間目。現代語訳をやっていないとちゃんと怒られる。
「はい、これ写しちゃいな」
そういって空知は自分のノートを差し出してきた。
「え、いいの?」
「うん、美山さんなんか最近大変そうだったから心配でさー」
まさか、前の席の人にそう思われているなんて。
「あ、ありがとう…」
シキはありがとく受け取ってササっと自分のノートに写させてもらう。
「ありがとう、助かった」
写し終わったシキはノートを本人に返す。
「古典の課題はヤバいからねえ、よかったよ」
「本当ね、」
「美山さん、改めてよろしくね」
「うん、よろしく」
「私、美山さんと話してみたかったんだ~」
「え、なんで?」
「だって、ほら、」
そう言って空知はシキが返したノートの自分の名前のところを指さす。
「私の名前、詩に季節の季でウタって読むんだけど、読み方変えたらシキってなるでしょ?」
「おお、本当だ!同じだ!」
「新学期に入って気付いたんだけど、美山さんいつも忙しそうにしてたからさ、席替えで近くになれて良かったよ」
「えー、なんか素敵なこと考えてるんだね、こちらこそよろしく!」
「うん!」
そうしていたら担任が入って来たので会話はここまでに。
これが美山色と空知詩季の出会いであった。
そしてこの日の昼休み。
「美山さん、よかったら一緒にご飯食べようよ」
昼前の授業が終わると、前の席から空知さんが振り返ってそう言った。
シキはいつも音楽室に行って川井さんとご飯を食べていたが、今日はその気分にならなかった。というか、いつも川井さんと話しているのは作曲についてだ。それが無くなった今、その必要も無くなったわけである。
「うん、いいよ」
「あ、ほんと?部室とか行かなくて平気?」
「うん、今日は大丈夫」
「よかった~でもいつも部室とかに行ってたんだよね?」
「うん、よくわかるね、」
「まあ、美山さん、部活頑張ってるみたいだしさー、そうかなって」
そして持ってきている弁当を開けて話の続きをする。
「そういえば、空知さんって部活はなにやってるの?」
短髪小麦はだ。きっと陸上部とかだろう。
「ん、私は一応美術部だよー」
「え、あ、美術部なの!?」
「うん、意外?」
「うん。意外。てっきり運動部かと思ったよ」
「あー、まあ見た目がこれだからたまに間違えられるけどねえ」
「うん、日焼けもしてるしさ」
「日焼けはねえ、私、外で絵を描くのが好きなんだ。週末はずっと外に出かけて絵描いたりしてるー」
「いいね、風景画?」
「うん!街の様子とかもいいけど、やっぱ自然が好きだから原っぱとか山とか川とかよく描いてるよ」
「いいな、今度見せてよ!」
「もちろん!」
「あ、一応言っとくと、短髪なのは絵を描くときに邪魔だからさ」
「なるほど」
「美山さんは音楽だけ?吹部だよね?」
「うん、パーカッションていう打楽器とかのパートと指揮者してるー」
「だよね!歓迎会でも指揮者してたもんね!かっこいいな~」
「ありがと、絵を描けるのもすごいよ」
「ありがとー、ねえ、下の名前で呼び合わない?」
「いいよ!」
「じゃあ、シキちゃん?」
「じゃあ、ウタちゃん!」
ただ、ウタはなにやら思索の顔をしている。
「あだ名でもいい?」
「もちろん!どんな?」
「カラちゃん!」
「はじめてのパターンだ」
「色って漢字がとってもいいからそこから!」
「いいね!嬉しいよ」
「じゃあ改めてよろしく、カラちゃん」
「こちらこそ!ウタちゃん!」
こうしてここから二人の長い付き合いが始まるのである。
ぐんぐんどんどん成長していつか誰かに届く小説を書きたいです・・・! そのために頑張ります!