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シキ 第一章「春風駘蕩」第十二話

第十二話

 確かに地域のチャリティー演奏では新しい曲を行わないので改めての練習は要らない。とはいえシキの提案がここまで盛り上がるとはシキも思っていなかった。
 この日の部活はシキの提案の実でお開きとなり、作曲に参加してみたい人は次の練習までに色々と考えてもらうことになった。

 シキは次の部活までの間、家であれこれと考えた。
 部員のみんなのやりたいことをやってほしい、それが今の部活の最高の形として現れるはずだ。シキはそう思っているものの、流石に提案した張本人がなにも考えずに次の部活を迎えるのは再び反感の狼煙をあげかねない。流石にある程度の曲の雰囲気やどのパートの見せ場を作るかとかは考えた。

 シキとしてはやはり今の部活の目標である「楽しむ」ことと部活の雰囲気を加味して乗れるような曲が良いのではないかと思った。
 なんというか、サンバ、ボサノバの空気間というか…。
 あとは大木くんの技術を目立たせたいなあ、と思いつつ、二年生が担当するパートが過去良い場面も作りたいな、などあれこれとアイデアを出す。
 だがシキ自身も提案したものの曲を作ったことなんてもちろんない。
 考えはするが、まずはなにを手掛かりにしていけばいいのかも手探りである。
 「うーーーん…」
 部屋の勉強机の上に広げた白紙。
 そこに描かれたアイデアはどれも具体性に欠けている。
 一体どうすれば…。
 机に向かって考えているのに疲れたので、ベッドに寝転んでみる。
 「あー、どうしよ。」
 そして、直感的にアイデアが浮かんだ。
 「古都くんってどうやって作品を作ってるんだろ…」

 メッセージアプリを起動し、新年の挨拶ぶりにメッセージを送る。

 「聞きたいことがあるんだけど、古都くんって写真、というか作品を作る時に考えてることってあったりする…?」
 このメッセージアプリは返信がすぐに来るとは限らないのでシキはメッセージを送ってすぐに携帯を放って天井を見やった。

 そして一時間ほどの昼寝の後に古都くんの返信があったことに気が付いた。
 彼はシキがメッセージを送った十分ほど後に返信をくれていた。

 「考えていることかー」
 「いかに被写体の本来の姿を写せるか、かな?」
 「被写体を最大限に生かせるように僕の方から寄り添ってる感覚、って言ったらなんとなく伝わる…?」

 このようなことが返信されてきていた。
 「被写体に自分から寄り添う…」

 三学期になり高校二年生ももうすぐ終わりる。次はいよいよ受験学年だという集会での学年主任の話を聞き流しつつ、シキは今日の部活で話すべきこと、そのセリフを選んでいた。
 今日は午前中に全校集会と学年集会、そして一月二週目の土日に行われる大学受験のための試験に向けた話などを聞いたら今日は終わりだ。
 シキの学校はこの毎年一月に大学受験を受ける人たちの試験の会場になっている。
 なので、荷物のことや部活のことに関して注意事項が伝達されるのだ。

 そして、そんな午前中も終わり、部活の時間に。
 今日もまずは定期演奏会で行った曲を繰り返し練習する。
 正直もうこの時間はグダっている。
 なので、シキが様子を見に行くと、二年生が率先となって曲作りの話をしているパートもあった。良い傾向だ。

 さて、そんな部活時間を過ごし、終わりのミーティング。
 今日はいつもよりも早めに切り上げてこのミーティングの時間を長めにとっている。
 もちろん、作曲についての話し合いがあるからだ。

 まずは部長からどんな曲をやってみたいかを話す。
 「僕は、まあサックスが楽しいところがあればいいかなって思うかなあ、あとはなんか、冬みたいな曲が好きだから、一応。」
 冬みたいな曲。つまり、どんなだ?静かめで、錫の音を使ったようなものだろうか?ぶっちゃけ部長がそのような曲が好きというのも少し意外であった。
 そして次々とみんながやってみたいアイデア、曲の雰囲気を出していき、川井さんがそれを黒板に書いていく。
 「じゃあ、最後に美山さんはどう?」
 最後にシキの発言となった。自ら言い出せないから仕方がない。

 「まず、みんなが生き生きと演奏できるようにしたいなって思ってて、雰囲気はこの前の宝島のような感じでソロパートも多めで、そして、…曇りでも明るい日、みたいなものにしたいなって…」
 「どういうこと?」大木くんが純粋に聞いてくる。
 「ただただ明るい曲じゃなくて、普通の人は暗く思ってしまうような曇りの日に、その中にしかない明るさ、良さを見つけられるような、小さな希望の曲、というか…」
 なんだか言ってて恥ずかしくなる…。
 集会の時に言いたいことはまとめたのに結局口に出そうとしたら上手く言えない。
 ちゃんと思いは伝わっただろうか…?
 すると
 「え、いいじゃん!俺もそういうのがやりたい!冬ってそういう雰囲気だと思う!」
 なんと大木くんが大賛同してくれたのだ。
 すると、他の部員もそれに続いて
 「うん、なんかただ楽しいとかよりもよさそう」
 「そっちの方が作り甲斐あるかも!」
 「しっかりと意味を持たせるのって大事だよね」
 などなど賛成の声が上がった。
 良かった。

 そして、このシキの案をベースに、他の人のアイデアも入れ込んで大まかな曲の感じが出来上がった。

 「じゃあ、タイトルはSnow flake cityで決定!」
 話し合いの結果決まった曲名を大木くんが高らかに宣言する。
 「大賛成!」「良いんじゃない!?」「ワクワクする~」
 「駆け抜けるぞー!」「よっしゃー!」「おー!」
 みんなもなんだか楽しそうだ。

 雪が降る街。
 雪の結晶は一つとして同じ形にはならない、なんて話もある。
 今、目の前に降って来た一片の雪の結晶、その一枚との一期一会。
 その結晶を見る人の心にも様々な思いがある。
 そして、空から降る結晶が写す街や人も、様々である。
 今この瞬間に綺麗と感じたもの。
 それを掌に乗せ、掬う曲。

ぐんぐんどんどん成長していつか誰かに届く小説を書きたいです・・・! そのために頑張ります!