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シキ 第一章「春風駘蕩」第十一話

第十一話

 シキたちの代が主催する定期演奏会は無事に部員の観客も大満足の結果で終わることが出来た。
 来場者に配布したパンフレットに挟んであったアンケートではコンクールで行った「ア・ウィークエンド・イン・ニューヨーク」と「宝島」が肩を並べて一番の人気であった。
 心地よい気分で部員たちは年末を迎え、年が明けた。

 「あけましておめでとうございまーす」
 と次々と音楽室に入ってくる部員が言う。
 メッセージアプリの吹奏楽部のグループではすでに一通りの新年の挨拶はしているが、改めてという意味合いと、使わせてもらう音楽室に向けて挨拶するという意味合いがある。
 シキは新年のあいさつをわざわざメッセージアプリでするような間柄の人はいなかったのだが、今年は古都君に送った。
 すると、「あけましておめでとう!本年もなにかとよろしくお願いします。」と実に丁寧な返信が来ていた。

 吹奏楽部が次に待ち受けているイベント、それは地域のチャリティーイベントだ。
 ただ、これに関しては毎年定期演奏会に演奏した曲を行っているので新しい曲の練習や改めての改変などは無い。
 なので、やってくる部員達にはなんだかほんわか説いた雰囲気が漂っていた。
 ただ、シキは思っていた。
 次はコンクールであると。

 とはいえこの前の定期演奏会で古都くんに気付かされたことはその通りだったので次にも生かしたい。
 その上でコンクールを成功させるにはどうしたらいいのだろうか…。
 シキがそんなことを思いながらパーカッションの練習をしていると、川井さんが話しかけてきた。
 「美山先輩、今少しいいですか…?」
 「うん、どうしたの?」
 「ちょっと、場所変えて話したいです」
 そう言うと川井さんは指揮を連れて音楽室から出る。
 川井さんはそれこそシキよりも普段は静かな感じの人で自分の意見はあまり言わない。そんな人が練習中にわざわざ改まった話をするとはきっとなにかよっぽどなのだろう。

 場所を変えて近くの階段の踊り場。
 「で、改めて話って…?」
 「あの、新年初めの部活ですが、コンクールの話題出しておきたいなって思って…」
 川井さんは真っすぐシキの目を捉えながらも落ち着いた口調でそう言う。
 「そうね、私もちょっと思ってたところなの」
 シキはもちろんずっとコンクールを見据えて動いていたが、まさか川井さんまでも四季と同じ気持ちだったことに少し驚いた。
 そして二人であれこれと話す。
 シキは今の部活の雰囲気でしか出来ないことをやってみたいと言う。ただ、川井さんはそれだと秋を見据えられるのかと問う。
 それもそうだ。
 どんな曲をやればいいだろう。
 みんなが楽しんで演奏できる曲。
 今のみんなはしっかりと自分の楽しいように出来るのが最高に輝けるのだとこの前の定演でわかった。
 これには川井さんも同意してくれる。
 その上でどうするか…。
 シキは定演前の練習の様子を思い出していた。
 みんなが楽しめて、みんなで作る音楽…。

 「みんなで曲作ってみる…?」

 シキのこの突拍子もない発言には目の前の川井さんはおろかシキ自身も驚いた。
 思い出を振り返り試作した結果口から出てきたのだ。
 思えばこの前演奏した「宝島」のアレンジも部員たちが率先して行ったものであった。彼ら彼女らにはそのようなアレンジ力というか、そういう力があると直感が言って来たのだろう。

 「え、良いですね!やってみたいです!」

 シキの突発的な発言に初めは驚いていたものの、目の前の川井さんはいつも見せない興奮した表情を見せてそう言って来た。
 というわけでまずは部長の大木くんにこの話をする。
 早速練習、というよりもサックスパートの女子となにやらお喋りしている部長を連行する。
 「ちょっ、どうしたの」
 という部長。しっかりと面と向かわなければただの意思のない賛同だけになるのでしっかりと川井さんと相談して対峙することに決めていた。
 「部長。」
 シキが口を開く。
 「次のコンクールなのですが、」
 次は川井さんだ。
 部長は二人からの真剣なまなざしに幾分ビビっているようだ。
 「「みんなで自由曲を作曲しませんか?」」
 声が揃う。
 「へぇっ!?」
 なにを言われるのか内心ドキドキしていたのだろう。
 そして、頭の中を駆け巡る予想に反したことを言われ、部長は変な声を出した。
 「曲を作る?コンクールの?」
 「そう、この前のアレンジを見て、出来るかなって思ったの」
 「コンクールってそういうのアリだっけ…?」
 「前例があるかは知らない。だけど、だって、自由曲だし…」
 「てかなんでいきなり?」
 「いやまあ、…」
 いろんな経緯があるが、端的にまとめよう。
 「今のみんなでなら作れるかなって思って…」
 「うーーーん、わかった。今はまだ時間あるしね、どうする?自分から言う?」
 きっと大木くんは少しの優しさでそう言ってくれているのだろ。
 だが、ここでまた怖気づいては行けないと思った。
 勇気を持って。

 その日の部活終了時のミーティング。
 音楽室は暖房がついていてもなんだか少し寒い気がした。

 部長が次回の部活の日程を伝える。
 今日はまだ冬休み中であるため、少しばかり次の部活迄日程が空いてしまう。
 なので、自主練をしたいという人には楽器を持ち帰った方が良いことなども言わなければならない。
 そして諸々の所連絡が終わり、いよいよシキが作曲のことを提案することに。
 「じゃあ、僕からの連絡は以上です。そしてら、最後に美山さんから」 
 そして部長が発言権をシキに渡す。

 「あ、あの…ええと…」
 部員からの視線が集まる。
 「次の夏のコンクールなんだけど、」
 コンクール、という単語が出てきたことで部員たちの緊張感が少しばかり高まった気がした。
 「自由曲、みんなで作ってみない…?」

 この発言にみんなは固まっていた。

「もちろん、よかったらなんだけど、この前の定演でみんなが提案してくれたアレンジがすごく良くて…今のみんなとなら良い曲が作れるかなって思って…」
 誰からのレスポンスも得られなかったことで言い訳のようなことを口走ってしまう。
 だが、誰か一人が口火を切った。

 「え、いいんじゃない?なんか、楽しそう」

 それを発端にみんなも賛同する。
 「ね、楽しそう!」「やったことないけど、いいかも!」「良いじゃん!」「最後の演奏の曲を自分たちで作るってこと!?」「楽しみなんだけど!」「ちょうどこれからの練習、つまんないなーって思ってたんだよ!」
 「「「やろうやろう!」」」

 こうしてオリジナル曲作成が始動したのであった。

ぐんぐんどんどん成長していつか誰かに届く小説を書きたいです・・・! そのために頑張ります!