月を隠して 第二章「十六夜」
俺は満月が好きだ!
中学生の時に習ったけど、これって太陽の光で輝いてるんだよね?太陽の力が凄いのはもちろんだけど、その役割を交代して今みたいに夜道を照らしてくれるなんてすごいと思うんだ。
人間誰しも一人では生きていけない。必ず他人との関りがあってこそ人生は成り立つ。俺はそう思う。
俺は中学生の時に陸上を始めてから時々今日みたいに河川敷に来てランニングをしたり、そのあと休憩しながら星を眺めたりすることがある。明かりなんてないから月が出ている日に来ること多い。
ランニング中に少しぐらい足元が見えた方がいいのもあるが、なによりも元気がもらえる。
今は高校に進学してもう一年が経った。中学の時の友達はだいたい同じ高校に進学しているのでメンツは変わらない。でも、なんだかみんなちょっとずつ趣味とかそういうのが変わって来たなーと時々思う。なんならこの前、正俊に「透はなんにも変わんねーのな、」なんて言われたしよ、みんながすごいんだよって。
ほんと、中学の時の自分に見せたら笑われそう。確か、高校では運動頑張って、彼女作って、みんなと遊んで、とか思ってたのにな。いや、それならなにも変わらなくて大丈夫かも?
ま、未来のことも過去のこともわかんないし、気ままに生きてる方が俺らしいかもな。
高校生活は一年過ぎたけど、相変わらずみんなとはつるんでるし、それが一番いい。
ちなみに、メンツは俺、月島透、俺と同じ陸上部の青地正俊、高校からテニスを始めた赤塚浩、バスケ部の緑屋孝基の四人組だ。もちろん他の奴とも全然つるむことはあるけどな。
まあよく俺たちはまとめて「運動バカ組」って言われてるからさ、一括りみたいなもんだ。そしてこれが中学からずっとだもんな。変わらな過ぎて笑える。
でも、孝基と浩には最近彼女が出来たらしい。羨ましい!
そんな俺はいい人いないかなーと日々を過ごしている。
小学とか中学の時はみんなで虫取りとか川遊びとかしたのにな、今じゃそんなことしなくなっちまった。俺はウナギ好きだから相変わらずたまに釣ったりしてるけど、またいつかあいつらと子供みたいに遊びたいもんだ。
釣ったウナギはウナギ屋のおじさんに持って行って蒲焼にしてもらうんだ。あれが一番旨い。
あ、でも俺にも変わったことが一つあった。
今迄は将来のことなんて考えず、ただなんとなくこのままあいつらと一緒に居るんだろうなと思っていた。
でも、最近の世の中を見たりするとなんだか将来に微かな不安を感じてきたのだ。
そしてつい最近起きた出来事で俺は将来を決めた。
少し前の春。
俺はいつも行く河川敷で孝基と走り込みをしていた。
すると
「あれ?あそこにいんの、ホシセンじゃね?」
ふいに孝基が言ってそちらを見る。
そこには俺たちに国語を教えているホシセンこと星野がいた。しかもなにやら慌てている。ようだ。
「あいつなにやってんだ?」
俺たちは速度を落としてホシセンの方を見る。
バッシャーーン!
俺たちの視線の先、ホシセンは川に飛び込んだ。
「え!?」「なにやってんだ!?」
と同時に言ったが、すぐに理由がわかった。
「子供だ!」
遠くの方でも俺たちと同時にそれに気づいた人が声を上げる。
「誰か!」
その声と同時に俺たちは走り出す。
この川はそこそこ大きくて真ん中は割と深い。子供ならまず足はつかない。
俺もここで生き物を捕まえる時は気を付けていることだ。
ホシセンはひょろくて弱いことで有名だ。確実に二人とも流される。
流石にこの川のことは俺の方が知ってるし、体格も孝基には負けてない。子供は孝基に任せよう。
「俺はホシセン助けるから子供頼んだ!!」
「おう!」
そして俺たちは迷いなく川に飛び込んだ。
川辺の浅いところにホシセンを抱え上げると、孝基も子供を抱えて上がって来た。
すでに何人かの見物人が集まっていて心配そうにしている。
目の前のホシセンは呼吸を荒くしているものの無事だ。
子どもはどうか…?
そちらに目をやると、子供も胸で息をしているのが見えた。
「よかった…」
自然と口から漏れた。
その後は上流の方から息を切らした子供の家族がやって来て無事に引き渡し、ホシセンからはお礼にとラムネを奢ってもらった。
「いやあ、本当に助かったよ。二人ともありがとう。」
びしょびしょのホシセンがびしょびしょの俺たちに言う。
「いや、ホシセンが無理しすぎだって」速攻で孝基が突っ込む。
「自分の能力を理解してください!」俺もそれに乗る。
「ははあ、わかってるんだけどね、…。」
「なんで飛び込んだんすか?」
「いや、助けられる人周りに居なそうだったし、見つけちゃったからさ。それに、先生だし。」
「先生っていうのとなにが関係あるんすか?」
「僕が先生になろうと思ったのは色々理由があるけど、その一つには日本の将来を担う子供たちを育てたいって思ったからかなあ。」
びしょびしょホシセンが遠くの昼には見えない星を眺めるようにして言った。
この人はそのためなら自らを投げうてるのか。
「他の理由は?」
孝基には今度敬語を教えよう。
「僕、文学が好きなんだけど、中でも宮沢賢治が好きなんだ。で、作品の中に似た場面があって、助けないと!って反射的に…。」
「いや、すごっ」
確かにすごい。
「二人も色々と勉強しなさいね」
「はい。ありがとうございます。」
「うす。」
「僕があの子に気付けたのは、川の景色をただ見ていたからじゃなくて、景色の中からなにかを探していたからなんです。」
「なにか?」
「そう。知識があるとみんなの目に映るソレとは違う景色が見えるんです。」
「でも、なにかわかんないんすよね?」
「それがいいんですよ、なにかあるかと探す目を持てば、なにかが映るかもしれない。それだけで世界が楽しくなるんですよ。」
俺はこの人が見ている世界、見据えている宇宙を知りたくなった。
「あとは夏目漱石のこころって作品に出てくる先生に憧れたのもありますね、」
星野先生はそう言って笑った。
数日後、夜にランニングしている時にふとそのことを思いだし、夜空を見た。
月や星はもちろん知っている。
しかし、星座や満月以外の月の名前を俺は知らないことに気付いた。
次に学校に行ったとき、星野先生に星のことを尋ねることにした。名前からして知っているだろう。
「先生、星座ってなんか知ってます?」
「もちろん。興味ありますか?」
「はい。俺、自分が何も知らないことに気付いて。先生みたいに世界を見てみたくなりました。」
少しなかり恥ずかしいセリフだが、俺は一歩を踏み出す。
「それなら、放課に職員室に来てください。」
「わかりました!」
放課に職員室へ行くと、星野先生が別の先生と話していた。
確か、科学の河本、だったと思う。
「あ、月島君。河本先生に色々聞いてみましょう。」
「先生が教えてくれるんじゃないんすか?」
「一部は知ってますが、物語に出てくるものばかりですし、こういうものは専門家にお任せしましょう。せっかくなので僕も学びます。」
向上心の塊だ。
こうして俺たちは河本先生からあらゆる宇宙の話を聞いた。先生の話はとても面白く、星野先生の質問も鋭く、とても学びになった。
宇宙は広く、冷たく、でも美しい。とても浪漫を感じる。
より一層知りたくなった。
そして俺は学問の道に進みたくなり、同時に教師への憧れを持った。
そして、決意を固めて高校卒業後は大学進学を考えていると親に言ったら、なんと塾に通わせてもらえることになった!
時期は夏休み終わりからの予定だが、この前一度体験に行って来た。やっぱ塾に通う人ってみんな真面目だな、多分全員眼鏡かけてたぞ。俺なんて部活終わりに行ったから汗だくの坊主だったし。
でも、なんとなく少しだけ未来が見えそうな気がした。一瞬だけど。だから夏休み明けからは頑張るつもりだ。
他のみんなが卒業後どうするのかはわからない。多分みんな就職のつもりだろうから、俺が「大学に行く!」なんて言ったらどんな反応するだろうか?楽しみだ。
そして大学卒業後は教師になり、科学の中でも特に地学の分野を教えられたらいいなとは思っている。
内なる宇宙に夢を秘めつつ、俺または普通の日々を送る。
高校2年の夏休み。一番遊べる夏が来た。
俺たちは全員部活動をやっているから夏休みは基本的に顧問にしごかれている。でも練習が終わる時間はだいたい同じだからたまたま会えば一緒に帰ったりどっか駄菓子屋とか行ってアイス買って食べながら帰ったりとそういう日々。これでいい。こういう日々を俺たちは相も変わらず楽しむ。
8月の初めには近くの川で市の花火大会がある。孝基と浩は当然彼女と行くと言っていたので俺と正俊はあいつが適当に声をかけたクラスの女子と行くことになった。
花火は綺麗だったけど、正直こういう形で一緒に遊びに行ってもその人のことは好きにはれそうにないな。多分、こういうのは俺の性分に合わない。
最終的には相手の女子も途中で飽きたのかどっかに行ってしまったし。俺は沈んでいる正俊をなだめながらりんご飴を食べていた。まあそんな上手くはいかないわな。
あとは部活にしごかれていたらあっという間に夏休みなんて終わった。
部活のない日は弟と魚を捕まえたり、みんなで隣の市にラーメンを食いに行ったりした。
そうそう、俺には弟がいる。
と言っても血は繋がっていない。
俺の両親は俺が小4の時に離婚した。理由は母が他に男を作ったからみたいだ。
今の母と弟は俺が中学に上がるタイミングで俺たちの家にやってきた。つまり弟は今の母の連れ子というわけだ。
連れ子といってもそれまで兄弟に恵まれなかった俺はとても嬉しくて実の弟のように接している。みーんな普通に兄弟が結構いるから、今まではみんなが兄と遊んだりしているのを正直かなり羨ましく思っていた。だから中学の時は弟を連れまわしまくった。
でも弟は俺と違って運動が得意な方ではない。家で大人しく本を読んだりすることが多い。なので、中二が終わるころには無理に外へ連れ出すことは無くなっていた。
俺の家は元々四人ぐらい生まれる予定で家が建てられているため部屋の数は多い。その子供用の部屋のうち一つずつを俺たち兄弟で、一つは兄弟の荷物置きに。残りは家族の荷物置きのような感じで使っている。
一つ一つは狭いが別に置くものもないし不便はない。
夏休みが終わると俺は本格的に塾へ通いだした。
理系科目は得意なので、取るのは英語と古文だけだ。
あいつらに「俺は受験して大学に行く!」というとまずは全員唖然としていた。
それもそのはずで、今でこそ減ったようだが少し前まで大学紛争がそこかしこで起こっていたし、さらに俺たちの代からは受験の制度が変わり「共通一次」というものが導入されるためどうなるかまるで分らないというという状態だった。
だから正直今はただ勉強あるのみ!と言った感じなのだ。そのうえでそもそも「受験」が頭になかっただろうこいつらからしたらとんでもない話なのだろう。
みんな驚いていたものの、快く応援してくれた。一寸先は闇状態だが、頑張ってやる!
こうして俺の日々はだんだんと変わっていった。
部活でしごかれながらその後に塾に通い、土日も塾で授業があれば通ったし、無くても勉強や質問に行った。疲れすぎて授業中に寝ちゃうことも結構あったけど…。
それに学校の先生にも質問を多くするようになった。
前から別に成績は特段悪くなかったので、質問に行っても怪訝な顔はされず、「受験がしたい」というと多くの先生は快く教えてくれた。
星野先生からは前に聞いていた宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」という作品を貸してもらった。
勉強もそこそこに順調。なんとなくいい調子な気がしていた。
しかしそんな日々を送っているとクラス内で「がり勉」やら「病気」やら言われだしたが構うもんか!頑張ってやる!正直、運動以外でこんなに打ち込めることが無かったので、楽しんでいる自分もいる。
もちろん「運動バカ組」とは相変わらずつるんでいる。
勉強を今までよりも本格的にするということで俺は少し本でも読んでみようかという気持ちになった。
そこで、実は図書館で働いている父の書斎からいくつか本を借りることにした。弟と父におすすめを聞いて二人がそれを本棚から取り出し、俺の部屋の勉強机に積んでくれた。
今迄は父さんの仕事なんて全然関心がなくて本の話なんてしなかった。
だから俺が本を読みたいなんて言った時には驚きと嬉しさの表情をしていた。
弟とはよくそう言う話をしていたらしく二人の作業は早い。弟も楽しそうでよかった。
ただ、自分でもなにか一つでも惹かれるものを手に取りたいと思ったので、おすすめはおすすめでありがたく読むことにし、二人を書斎から追い出して一人の時間を作った。
なにか目を引くものがあればなあ…。
内心はかなりわくわくしている。
完全に未知の世界との出会い。
ここ最近勉強を少し頑張って改めて思ったが、世界は広い!あまりにも。
この前教えてもらった宇宙の話もまだほんの一部であることを知った。
頭の上で輝く星空のことを全然知らないことは変わらない。
それにそれ以外にも目をやれば必ずそこになにか学問がある、というくらい学ぶことは広くて楽しいものだと気づいた。
この父の本棚にもきっとなにかある。
期待の籠った目で本棚を眺めていると、とある一冊の本が目に入った。
「なんだこれ…?」
明らかに他の本よりも古い色褪せた本。もはや背表紙も何と書いてあるのかわからない。
だが、なんとなく気になる。
試しに手に取って開いてみる。
「え!?」
なんと驚くことにその本にはなにも書かれていなかったのだ!
なんだこの本?パラパラと適当に開いても文字は一個も出て来やしない。
しかし、改めてもう一度初めの方から開くと、最初の方のページからなにやらヒラヒラと落ちてきた。手に取ってみるとそれは真っ黒な「栞」のようなものだった。
「…?」
眺めてみると材質が引っかかった。黒雲母かなんかか?薄い鉱物の様なもの出来ており、なおかつしなやかさがある。なんだこれ?本といい変な栞と言いよくわからない本だな。
だが、栞はこれから本を読む上ではありがたいので貰うことにする。白紙の本は棚に戻した。
まあ、自分を動かす出会いはきっといずれ。
とりあえず適当に積んだ本をパラパラとめくってみる。
全部読むのはなかなか時間がかかりそうだが、やってやる。
だけれど、普段から本を全く読まない俺にとって少しの間でも「本」に向き合うのが大変だった。いずれはパラパラと読めるようになるのだろうか?
なかなか集中が続かず、同じところを何回も読んでしまうし、文字だけだと頭に入れるのが大変だ。
「はあー、こりゃ大変だ」
今迄は図解のものとかが多かったので文字だけの本は疲れる。
飽きてしまったのでさっき見つけた栞をよーく見てみることにした。
全体的には黒っぽいというのはさっき思ったことだが、よく見ると不思議で、なんだか透明感があるのだ。よーく見てみると色分けがされているようだった。下の方は上部よりも青緑といった感じ。なんか絵が描かれている感じがする。
もっとよく見てみたかったので明かりに透かしてみた。
すると、なんと、風景画が浮かび上がってきた。
草原と、それから満天の星空のような絵だ。星座からするに夏の夜空だろう。代表的な星だけだが描かれている。なんなんだこれは?これは栞というか作品に近いんじゃないか?かなり綺麗だ。
そしてさらに文字が浮かんできたように見えた。栞の中央やや左、満月の左側に小さめではあるが文字が書かれている。
よーく見てみると「月を隠して…」のようなことが書かれているがマジで見にくくてよくわからない。すごく読みにくい。そんな気がするだけだ。
それにそこに続く文はさらに読みにくく、何が書かれているかわからない。
結局材質も何もわからないが、綺麗なので使うことにした。
二学期が始まって何回目かの土日。今日は塾で勉強をすることにして家を出た。
職員室に行って空いている部屋を使わせてもらう。
言われた空き教室に入ると、既に人が居た。窓際の席で女生徒が勉強している。向こうもこっちに気付く。だが、なにも言わずに再び参考書に目を落とした。
俺は構わず適当な席に座り、勉強を始めた。
だが、どうしてかさっき見た顔が脳に焼き付いて集中できない。チラチラと後ろから先の女生徒を見てしまう。
集中できずに一度トイレに行くことに。
そして、戻ってくると、女生徒が俺の参考書とノートを覗き込んでいた。
その光景に数舜扉のところで固まると、向こうがこちらに気付き、今度は声をかけてきた。
「君、数学得意?」
なんだか言い方が鼻にかかったが、名乗ってないし仕方ない。
「数学ぐらい屁でもないね」と少し意地になって返す。
「ちょっと教えてくれない?」そう言ってその女はこちらに手招きした。
俺が無言で行くと、自分の席からノートを取った女がこの問題なんだけど、とノートを差し出してきた。その問題はなんてことのない簡単なものだったので、なんだこんなものかと軽く教えた。すると、「君、教えるの上手いね」と言われたので、思わず「当たり前だ!教師を目指しているからな!」とこれまた何故か意地になって返す。
「教師かー、すごいね、頑張って」
「そういうあんたは何になるのさ」
「私はね、…内緒にしとくね」
「な、人のを聞いておいて…」
「だって、初対面でしょ?」
「そっちは聞いてきたくせに!」
「私は聞いてないよ?」
なにやら俺の頭は混乱している。
その後も少し話し、その女生徒の名は日野陽子と言い、なんと同じ高校の先輩だった。しかもさっきの問題も解けていて、俺を試したのだという。
なんだか生意気な人だ。
それからしばらく、俺は日野先輩とよく会った。
学校では見かけることはなかったのだが、まあ学年が違うしな、仕方ない。
塾で会う時も学年が違うから授業ではなく自習の時や帰る時で、自習の時なんかはこの前の逆で勉強を教えてもらうことが多かった。
日野先輩もたくさんのことを知っていた。
ある日。
「前に天体が好きって言ってたよね」
「うん。それがどうかした?」
「どの天体が好き?」
「うーーん。やっぱり月かなあ、」
「名前にもあるから?」
「いや、夜空を一番照らしてる感じが良いなって、」
「ふーん、私も月、好きだな、でも星も好き。」
「なんで?」
「あれって一個一個が太陽みたいな星らしいじゃん?」
「恒星ってやつね」
「そうそう。なんか、例えばデネブの周りにある惑星にいる生命も、昼はその光から恩恵を受けてるはずだし、なんかやっぱり力強いからかな、」
「なるほど。」
「それに、月も太陽が無いと輝けないしね。私も月は好き。」
その後の帰り道、少し二人で星空の話の続きをした。
今日は満月。僕らのほぼ真上で月が笑う。
お互いの知っている星座や話を共有した。
しかしその日から一週間、俺は珍しく体調を崩した。なんだか内臓系の調子が悪いようで、食欲もあまりなく、ずっと寝込んだ。医者には「食当たり」と診断されたのですぐに良くなると思ったが、一週間も倒れてしまった。
何度か俺の家にあいつらがお見舞いに来てくれた。「勉強のし過ぎだ」といわれたが、笑って誤魔化した。
その後はなんとか学校に戻ったものの、部活の顧問からはこっぴどく説教され、「気持ちが緩んでいる!」「そんなんで一週間も休むやつがあるか!」と散々言われ、挙句部活の時間が終わるまで外周させられた。
部活終わるころには俺は道路わきで倒れ込んでいた。体力がかなり落ちてしまったようだ。やはり調子が良くない。
倒れて半ば意識を失っているところに俺を探しに来た正俊がやってきた。肩を借りて顧問のところまで連れられると、平手打ちをくらい、再び説教を受けた。
なんで俺がこんな目に…。
くたくたどころではないが、今日は塾で授業がある。今からでも既に遅刻だが、なんとか顔を出す。
顔面蒼白で頬が真っ赤の俺に教師は驚いた様子だったが、「大丈夫です」というと授業を再開した。
もはや意識朦朧で授業どころではなくなっていた。途中で意識が無くなり、俺はぶっ倒れた。
目が覚めるとこの前使った空き教室に寝かされていた。そして、視線を横に移すと例の日野陽子が居た。
俺が「ウッ…」と声を漏らすと日野陽子は「お、気が付いたね。なんか大変そうじゃん」と軽く言ってくれた。俺がどんな目に合ったか知りもしないで…。
「どうしたの君?」と聞いてきたので仕方なくここ最近の体調不良のことを話した。
すると「君、カニにでもやられているのかね。」と訳の分からないことを言って部屋を出ていった。
起き上がる気力もないのでそのままぐったりとしていると日野先輩が先生を連れて再び入ってきた。
先生は「今、お父様を呼んだからもう少し待っていてね」と言って再び出ていった。
日野先輩は「お大事にね」というとまた勉強を再開した。
その真剣な横顔を最後に再び俺の意識は闇へと消えた。
気づいた時には家のベッドの上だった。察するに父に運ばれたのだろうが、図書館職員も案外力あるのだなと今になって冷静な脳で思った。
俺はそこからさらに二日寝込んだ。今度は一日中猛烈な吐き気に襲われ、寝ることすら難しかった。
少し落ち着いて学校に行っても、登校するのがやっとの感じだった。
そして、放課後、俺は部活を辞めたいと顧問に言った。再び説教を食らうかと覚悟したが、今度は「わかった。でもまたよくなったら戻ってこい。」と言ってくれた。
それからは多少落ち着いたものの、気分は晴れなかった。正俊たちも励ましてくれたが、気分はあまり変わらない。
明らかに俺の体の中で何かが起きている。
体調が落ち着くと俺は体力を戻すべく河川敷でのランニングを再開した。
こんな少しぐらいの体調不良で!とこの前までの部活を辞めるとか言っていた自分とは大違いに頑張った。
塾にも体調がいい時は通った。
日野先輩にも勉強を教えてもらった。話を聞いていると頭の良さが滲み出ているようだった。この人、凄い人なのでは?
俺の身体が弱いという噂は学校でも塾でも広まって初めこそ「ふざけんな!」と思ったが、そう思っていても仕方ないので逆に利用させてもらい、学校や塾に行けなかった日の授業は周りの人に聞いた。
あいつらも俺を心配していつもより熱心に授業を聞いたりしているそうだ。
マジでありがてえ!
さらに夜のランニングにも同行してくれて四人で河川敷を走った。
走りに行く日は学校で「今日、行くか!」と言って、時間と集合場所を話し合う。
まあ、ランニングと言っても俺が走るペースはほぼジョギングレベルに遅かったけどな。
走り終わったら河川敷の階段で休みつつ雑談をして過ごす。
孝基と浩の彼女とのデートの話なんか聞かされて俺と正俊で「羨ましい!」と叫ぶ。
体力戻ったら絶対彼女作ってやる!
だが、俺の体長はまたすぐに悪化した。次はこの前のような消化器系の不良に加えて腰の痛みが出てきた。痛くてベッドから起き上がれない。
医者からは再び気休めの薬を出され、走るのを腰痛が治るまで禁止された。まあこれに関しては仕方ない。どっちにしろ走れないし。
そして夕方ごろにみんなが俺の家に来て俺がベッドから起き上がれないとひとしきりいじられたが、そのまま俺の部屋でみんなで駄弁った。
さらに母が夕飯を振る舞うというのでみんな自分の家にうちの電話で連絡して、みんなで俺の部屋で食べた。俺が起きれないばかりに申し訳ねえ!
俺もめちゃくちゃ痛かったがなんとか体勢を起こして少しカレーライスを食った。
やっぱみんなで食うのは旨いな!
そこから数日はやはりベッドから動けずに痛みが続いた。
父に机から本を取ってもらい、そのままの体勢で読む。
すると、夕方に日野先輩が俺の部屋を訪ねてきた。
「やあ、君のお父さん、私が塾の先輩って言ったら普通に通してくれたよ。もしかしてなんか話した?」
「いや、なにも?それより何の用?」
「案外元気そうで安心したよ、無理してない?」
「それを聞きに来たの?まあずっと腰痛いし飯もろくに食えてないけどなんとかね。」
すると一瞬日野先輩の表情に陰りが見えた。
「透君、もう一度医者に行った方がいいと思うんだけど、どう?」
「なにも変わんないでしょ、変な薬出されて終わりだよ。」
「いや、そこら辺の医者じゃなくて、大学病院だよ。」
「大学病院?なんで?そんなひどくないよ、ってか診てくれないでしょ、」
「うーん、…実はね。私のお父さん、大学病院の先生なの。」
「え!?凄すぎない?とんでもないじゃん。」
「まあ、そうね。それでちなみに私も医者志望…。」
「え、すっげ!頑張って!」
「…ありがとう。」
「なんでそんなに暗いのさ、」
「女で医者って言うと無理だって言われるからさ…。」
「あー、まああんま居ないよね。でも、日野さん頭いいしいけるっしょ」
「ありがとう、がんばるね。」
微笑む彼女がその瞬間、「かわいい」と気づいた。
結局、日野先輩は親も説得したようで、いつも診てもらっていた医者に大学病院への紹介状を書いてもらうことになった。
やっぱ日野先輩、凄い人なのでは?
その日の夜、本を読んでいてふと栞を見るとなにやら違和感を覚えた。
光に透かすとこの前とは違う絵柄になっている気がした。
確かこの前見た時は月なんてなかったような…?
記憶が曖昧だが、今見ている栞の中央には満月が描かれていた。
しかもこの前「月を隠して…」に続く模試が読めなかった気がするが、今日はなんとなく読める。そこには「月を隠して、目を瞑る。」と書いてあった。
意味自体はわからない。でもきっとなにか意味のあるものなのだろう。有名な詩とか?俺は知らないけど。
それよりも絵柄が変わったことの方がよくわからない。
いよいよ頭もおかしくなってきたか?
数日後、俺は父の運転で大学病院へ運ばれることになった。
でもこれが一苦労で、体勢を変えると腰が痛むのでまず車に乗るのがやっとだった。
しかも運転中、揺れる車内で一定の体勢などとれるはずもないため、終始痛みに苦しめられた。
大学病院に着くと先に父が中に入ってナースとともに車椅子を持ってきた。
これまた痛みに耐えながら車椅子に乗せられて移動。
もう泣きたいぐらいには辛かった。
診察や検査が終わった。正直なにをしているのか一つとしてわからなかったが、医者が「大丈夫、きっとよくなりますよ。」と言っていたのは覚えている。
その後はよくわからない薬をたくさん飲んで、なんとか少し歩けるくらいにはなった。
だが、もう学校や塾へは行けそうにない。
最近は俺の家にわざわざ医者がやって来て診察が行われる。俺の腕には常に針がさしっぱなしで、隣には常に点滴のための車輪付きの長い棒がある。
何とか生きている。そんなこともう流石に俺自身でもわかる。これはもうただの体調不良ではない。なにかしらの病気だ。
度々家を訪れる医者が何度目か診察に来た時、「なんの病気なんだ?」と聞くものの、「大丈夫、すぐに良くなるから」としか答えない。
正俊、浩、孝基は相変わらず俺のところに遊びに来てくれる。そして、日野先輩も遊びに来る。勉強を教えてもらうことがほとんどだが。
そして、部屋での時間が増えた俺は必然的に以前よりも本を読むようになった。
必然的に父や弟との会話は増え、特に弟とは本の話で盛り上がったし、弟の読解力や思考にかなり驚かされた。
父に頼めば図書館から色々な本を持ってきてくれる。行ったことはないが膨大な蔵書があると話には聞く。そして、父に色々と持ってきてもらい、その中で俺は特に「推理小説」にハマった。
一度父に病気に関する本などを頼もうかとも思ったが、少し知るのが怖くてやめた。
何回目か日野先輩が遊びに来た時、面白いことを聞かされた。
「そういえばさ、君。」
「ん?」
「私の妹と君の弟、付き合ってるの知ってる?」
「え?は!?マジで!?」
「コラコラ大声は良くないぞー」
「いやだって、あいつそんな素振り全然見せなかったし…」
「そもそも私が君のこと知ってるのもそれきっかけなんだよ?」
「え?でも会ったのって塾が初めてだよな?」
「じゃあこれについては次来たときね」
「え、っちょ、」そして日野先輩は部屋を出ていった。
ここ最近日野先輩と部屋で話している時間がとても好きだ。
もうここまできたらいい加減自分の心情にも自覚している。
俺、あの人のこと好きだわ。
そしてそれらの話はあいつらにも話したりしている。
未だに彼女の出来ない正俊は「えーなんだよーお前も抜け駆けかよー!」と言って項垂れたが、みんな応援してくれている。
でも俺はこのことを本人には言わないだろう。
なんにも教えてくれない医者からなんとなく予想が付いたのだが、多分俺はもうこのまま一生治らないのだろう。病名がはっきりとしているのかはわからないが、家族からのサポートも手厚いし、なんでも言うことを聞いてくれるから家族は俺の病気が何なのか知っているんだ。しかも誰もかれも教えてくれないということは大層なものを患っているのだろうな、と簡単に予想がつく。
親が下の階で泣いている声が真夜中に聞こえてきたとき、この考えは核心に変わった。
俺には未来がない。
いくら俺がこの先さらに日野先輩のことを好きになっても、もうなにも出来やしないのだろうからなにもしない。
それに先輩は俺が居なくとも前に進める。
次に日野先輩が家に来た時、初めて私服でやって来た。
部屋に入るなり「じゃーん制服じゃないやつー」
と言って読書の邪魔をしてきた。なんと返したらよいかわからなく無言でいると「え、なんの反応もない?え?」と言ったので思わず噴き出した。
正直に言うだって?かわいいよ、の一言がどうして出て来ない!
そんな正直なこと言っても意味がないから心のうちに隠しておく。
それよりも俺はこの前の話が聞きたい。
「それよりさ、この前の話、教えてよ」
「いいよ。どこから話そう…」
「じゃあ、いつから俺のこと知ってた?」
「えーと、君が一年生の時からだね。」
「なんで知ってたの?」
「だって、いつも勉強に使ってる部屋から君が部活で走ってるところ見えたからさ。」
「なんで俺だってわかったん?」
「初めはなんとなーく、なんかカッコいい人いるなーって見てただけ。」
「え、は?」唐突な発言に動揺する。
「ん?言ってなかったっけ?君、カッコいいよ。みんなに嫌われて人間不信の私がそれでもお話したいって思った人なんだよ?」
「ちょっと色々と言いたいけど…また色々聞かせてもらうことにするわ。とりあえず弟のそっちの妹のことを教えてくれ。」
「ん。付き合ったのは君が二年生にあがったタイミングくらいだったみたいだよ。君の弟はなにも話さなかったみたいだけど、私の妹は色々教えてくれてね、ある時街中で二人で歩いてたら目の前を君が通り過ぎてさ、そしてら妹が、あ、あの人カレシのお兄さんだ。なんて言うじゃん?それで君の顔を見たらいつも見てる頑張ってる君だったわけ。」
少しばかり早口だったが理解はできた。それで日野先輩は俺のこと知ってたんだな。
そしてそのすぐにあと、なんと初めて日野先輩とあいつらが鉢合わせた。
逆に今までよく会ってなかったなと言う気もするが、お互いの話を俺がしているため、すぐに「ああ!あの話の人!」とお互いになったようだ。
少しばかり全員で話をした。初めて会った感動からなのかみんなして俺を置いてけぼり。蚊帳の外からみんなの話を聞いていた。でも、全然悪くないなと思った。
ベッドの上から俺の部屋の床の上に座る四人の話している姿を眺める。
なぜだか安心できる景色だった。
少しして日野先輩が帰り、その後は男四人で話した。最近学校で起きたことや色恋沙汰を聞いていると、なんだか日常の中に居れる気分になって楽しかった。
みんなが帰って俺はまた一人に戻る。
一人に戻るとさっきまで考えなくてよかった小さな痛みに意識がいく。それが始まると全身が不調なような気がしてきて「あれ?もしかして気持ち悪い?」と思えば本当に気持ち悪くなって吐いたりした。
睡眠なんてろくにとることが出来ず、数時間の断続的な睡眠を一日のうちに何度か繰り返すような生活。
だんだん夜が怖くなった。「今寝たら次は目覚めないかもしれない」という恐怖が一人の夜には襲った。これも含めて寝れなく、いよいよ病気のせいなのか寝てないせいなのかわからないような体調不良が全身を駆け巡りはじめた。
気を紛らわすために本も読んだ。一度集中できれば少しの間辛いことを忘れられる。その結果「連載もの」にもハマった。次が気になる感じでワクワクを心に残しておいた。
みんなが遊びにくればすべてを忘れて高校生に戻れる。
浩と正俊はお気に入りだという漫画もたくさん持ってきた。なので、漫画の話でも盛り上がった。唯一読んでなかった孝基は学校帰りに俺の家に寄ってあいつらが持ってきた漫画を読むこともあった。孝基の親はこういうものを認めていないらしい。
日野先輩が来た時のことは正直上手く思い出せない。
お互いにもうとっくにわかっていた。両思いだと。
でも決して口にはしなかった。
俺は自分が病気で長くないだろうと思っていた。
日野先輩は医学の勉強をしているから俺が長くないだろうことを見抜いているのだろう。
時たましんみりとした雰囲気でこれからのことを話すときもあったが、なんか違うなとお互い顔を合わせて笑った。
だいたいは勉強や学問の話が多かった。
俺は地学分野が好きで、先輩は医学分野が好き。
お互いがお互いのことを知るというよりも、思考を同化させるために知らない部分を補っている感覚だった。
先輩の過去のことも聞いた。俺の過去も話した。
先輩はかなり貧しい家庭に生まれ、早くに父と兄を失っていた。自分も当時その村で流行った疫病を患って死を覚悟し、毎日家族で泣いたという。だがその後、街中でどういう経緯か今の医者の父と母が出会い、その疫病についても調べていたという父に救ってもらったと。
その時は相手の親が貧乏人との婚約を大反対したが、父は医者としてかなりの腕がある。婚約できないなら家を出るという半ば脅しの様な状態でなんとか婚約できたらしい。父を失いたくないという思いがどれだけ強かったか。そして自分の親に歯向かう勇気がどれほどのものなのか。俺には全く想像つかない。
だが、先輩はそんな父に憧れ、勉強に励んだ。
そこからは辛い道が続いた。「女に勉強はいらない」「女の医者?あり得ない」などと学校内外さらには大人にまで散々言われてかなり精神が応えたという。でも諦めなかった。
貧困生活の時、病気の時に比べればこれぐらい。
私が医者になってもっとたくさんの人を救うんだ。
健康的で私を馬鹿にする人たちじゃなくて、外にも出られない他の人のことを考える余地すらなく苦しんでる人を助けるために。
学校では一部の先生の理解でずっと保健室に居させてもらっていたらしい。先輩が俺を見ていたのは保健室だったようだ。
初めは外で元気にしている俺たちを他の人と同じように思っていたようだが、頑張ってる姿に自分を重ねたらしい。
ただ走ってるだけじゃなくて明確に目標に向かって「努力している目」。俺にも確かに前まではあったな。
「単純でしょ?」なんて笑うが、案外恋なんてコロッとしているのだろう。
先輩なら本当にすごい医者になって今俺が患っている病気も治せるようになるんだろうなと思った。もし俺がもう少し遅く生まれていたら先輩にこの病気を治してもらえていたかもしれない。でもそうじゃなくてよかった。
出会ったのが今でよかった。
それから俺の容態はますます悪くなった。
まず一つ目、俺は完全に立てなくなった。
色々な理由が重なっていたと思う。もはやどこで起こっているのかわからない痛み。なぜだかずっと残る倦怠感。力も入らない。うすうす気づいていたが、明らかに俺は体重が減った。多分、減ったどころではないだろう。点滴の棒を掴む腕が、本を持ち上げようとする腕が日に日に細くなっていくのだ。
一日の中で意識がはっきりしない時間もだんだんと長くなった。
この時にはむしろ意識が落ちていた方が楽かもしれないと思うようになった。
みんなが来ても、家族が来ても、はっきりとしない。言葉も出しにくくなる。
辛い。苦しい。
窓から差し込む月明かりに何度涙を流したか。
朝日が昇ることに何度救われたか。
流れ星はいらないから、月が昇ったあとにちゃんと太陽が来てくれればそれでいい。
…。
お、今日もみんな来たか。今日はなんの話をしよっか。
おい、やめろよ、そんな顔で俺を見るなって。
医者も言ってたろ?俺はすぐに良くなる。
…。
おい、正俊、浩、漫画を目の前で掲げて読ませてくれたのはありがたかったけどさ、もう前の話覚えてねえんだ。代わりにその漫画、全部孝基に読ませてやってよ、なんでだっけか?確かそんなこと話したよな?
お前ら、いつまでも馬鹿でいろよな。「運動バカ組」はずっと馬鹿でいないといけないんだ。
父さん、ごめん。せっかく塾に通わせてもらったのに、俺、教師になれないかも。本はありがとう。最後にこんなに面白い世界を知れてよかった。
母さん、まだ五年くらいしか一緒に生活してないけど、迷惑かけてばかりでごめん。母さん料理上手いからもっと色々食いたかったなあ。
弟よ、泣くなよ?お前は俺ほど強く無いだろ?運動もあんまり得意じゃないもんな。でも、俺より先に彼女作りやがって!大切にしろよ!あと、父さんにも言ったけど、最後に本っていう面白い世界を教えてくれてありがとう。これからも、まあ、なんだ?色々と好きなままで自由に、がんばれよ。
日野先輩。好きでした。
最後の最後にあなたと出会えて本当によかったです。あなたは強い。弱った俺に何度も希望の光を見せてくれた。これは俺にと言う意味ではなく漠然と「未来」の話。
俺は居なくなるけれど、ずっとその強さで、みんなを照らしてください。
俺もみんなを夜空から見守っているよ。
葬式の朝。私は行くのを躊躇った。
実感してしまうから。まだ現実だと認めたくないから。
覚悟はしていた。
最後の方のあの状態を見れば、あとどれくらいなのかなんてわかる。医者になるもの。
私には救えなかった。
生まれる時代が違えば、きっと治すことも出来たのかもしれない。
私はいつまでも彼の元気な姿を遠くから見ているだけで多分満足できた。
遠く離れた場所で熱心に頑張る姿。視界に写る彼の姿は私無しでも輝いていた。
生まれる時代さえ違えば。でも、私は今出会えたことが嬉しかった。我儘かもしれないけれど、私は彼に救われた。
彼の分も私は頑張る。
そう決意を決めて、現実を知りに足を動かした。
結局私たちはお互いにお互いのことを最後まで好きだと口には出さなかった。でも、なんとなくわかっていた。大丈夫。その事実だけで私は動く。
流れ星に願いを込めることはしない。太陽が輝いた後に月が昇るように、そして満ち欠けが起こるように、少しずつ変わること、変わらないことを胸に秘めて。
ぐんぐんどんどん成長していつか誰かに届く小説を書きたいです・・・! そのために頑張ります!