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もっとファンタジーを! 第九章「Sacred」

俺は新しい力を手に入れた。まさに「世界を創り変える」能力。

 以前から持っていた能力では左腕、今度のは右腕だ。
 そして、その能力は「触れたものを描き変える」というもの。つまり、俺がこの左腕で触れた石ころはダイヤモンドにも海水にも変えることが出来るということだ。
今はまだ生物以外にしか使えないが、いずれは生物にも使えるようになるとソウは言っていた。
 俺は文字通り神の力、創造主の力を手に入れた。
 俺が世界を創り変える。
 俺は少しソウに力の使い方などを教わり、地球に戻った。

 後日、梶白警部。
 私が白鷹くんと上司に話を聞くと、回答は黒鳥が言っていた通りだった。
 警視庁の上層部はもはや能力者を「人類共通の敵」のように見ている。政治家との癒着は誤魔化されたが、黒だろう。
 そしてこの日本の様子を見た世界中の政府も表立ってはいないが動き出しているという。もう、日本だけの話ではなくなり始めているようだ。
 そうなってしまえば日本の上層は一色に染まらざるを得ない。
 思った数倍速い動きだが、まさかここまで腐っているとは。
 私は白鷹くんと能力者が理解されるように捜査をすることを決めた。表向きは上層部の言うとおりに行動し、裏で別の調査を進め、能力者との接触を試みた。
 
次に私がターゲットにしたのは、一番初め、死傷者ゼロのビル倒壊事故の際にあそこにいた人物。そして、その光の正体を探った。
 かなり時間がかかったが、数日でほぼ特定完了。あの時の防犯カメラの映像、報道の映像、証言、駅の利用者データなどなどあらゆるものを統合した結果、出花赤城という高校生に辿り着いた。
 ほぼ間違いないだろう。
 私の表向きの方の調査があまり進んでいないことを受けて上層の人間からはかなり怒られたが、仕方がない。次はこの少年にコンタクトを取る。

 あの警視庁での一件があってから既に何日も過ぎているが、黒鳥に動きはない。
 SNSでの発信は行っているものの、特に何か行動をする様子はなかった。
 しかし、そう思っていた翌日に再び事件が起きる。
 それは、界隈ではそこそこ有名だという地下アイドルの一人が能力者であることをSNS暴露した。
 その内容は「ここ最近の能力者への風当たりで病んでしまいそう。」「同じ人間ではないか」といったものだった。
 これは再び世間で賛否の嵐が巻き起こり、黒鳥もこれに便乗した。
 そして、黒鳥は「新しい能力を手に入れた」という投稿もした。
 黒鳥はいよいよ「世界を変えられる」なんて言っている。動きがあれば私たちで止める。

 翌日、私や白鷹くんの意図しないところで警視庁が動いた。
 その発表は世間を大いに盛り上げた。
 ちょうど正午。警視庁が緊急会見を行うということで私も自分のデスクで中継を見ていた。
 「本日、警視庁長官より、昨今の超人による事件に関し、新法案が国会へ提出されましたことをここに報告します。」
 ざわつく会場。
 「本日より、超能力を持つ人間による事件が発生した場合、これを鎮圧するためにあらゆる武器の使用を許可することとする。」
 「彼らはもはや人間を越えている。素人が兵器を持っているに等しい状況です。なので、特例として可決前の本日から適応することとします。これに関してはすでに国会での話し合いは終わっており、今後はより細かい制度を話し合っていく形になります。」
 
 さすがの私もすっ飛んでいった。
 関わってると思われる私の上司の部屋へ直行。
 「どういうことですか!今のは!」
 「どうって、君たちの調査が遅いからだろう!」
 「なぜ私たちなのですか!?」
 「君たちがちんたらしてろくな報告も上げないから世間では事件が起きているし混乱が続いているのではないか!」
 「なんて暴論だ!」
 「もう君たちはただの形だけの部署だ。さっき会見もああいっていたが、能力者とわかれば容赦なく捕まえる。君らのせいだ。」
 「腐っていやがる…。」
 私は自分の無力感に打ちひしがれ、デスクに突っ伏した。
 少ししてハッとした。
 今私の調査書を見られれば、出花赤城くんも捕まってしまうかもしれない。
 一刻も早く会わなければ。

 その夜、赤城の部屋にて。
 「出花赤城くんだね?」
 「誰だ!?」
 「驚かせてすまない。敵ではない。」
 「ならいいが、あのー、今何時だかわかってます?」
 午前二時。俺の部屋の窓が開けられ、そこに男が立っていた。
 「時間も、すまない。」
 「てか、顔よく見えないんだけど、もしかして、黒鳥創先生…?」
 「ああ、その通りだ。君に話があって来た。」
 「俺も色々と聞きたかったんですけど。とりあえずサインもらえます?」
 そして俺が黒鳥先生の小説を持ってきてサインをもらう。
 「まさか読んでくれていたとは」
 「昔から好きですよ。先生の作品。ちょっと場所変えましょうか」
 そして俺が先に飛び、着いてきてもらう。
 家族に悟られたくないだけで特にいい場所も思い浮かばない。なので、適当にあの河川敷に行く。
 「黒鳥先生、それどうやって飛んでるんです?」
 「俺の能力で出てきた腕は宙に浮いているから、それに引っ張ってもらっている感じだな。」
 「なるほど?随分と使いこなしてますね。」
 「まあな。」
 「で、話というのは?」
 「君の警視庁の発表は知ってるだろ?」
 「もちろん。」
 「どう思った?」
 「まあ、能力者ってバレてなければ大丈夫じゃないですかね?あなたは自分からばらしていましたけど」
 「甘いな。」
 「え?」
 「僕らの力は世界を変えられる!特に君の力、あの世界の神ですら一時的に超えていたんだぞ!」
 「神?」
 ここで、黒鳥から隣の世界の創造主の話を聞いた。

 「それで、俺になにかしろ、と?」
 「いや、君に任せるが、君は高校生だろ?色々とちゃんと考え出した方がいいんじゃないかい?」
 「なんでそこまで俺にアドバイスしてくれるんです?」
 「まあ、仲間になれたら心強いというのが本音だが、なにかシンパシーを感じるんだ。」
 「シンパシー?」
 「ああ。君はこの世界をどう思う?おかしいと思わないかい?」
 「…。まあ、地球温暖化とかの話は関心あります。」
 「ま、まあそういうのもあるけれど…」
 黒鳥先生は自分の考えを色々と話した。作品に込められたメッセージにも関わっており、読者である俺は先生の主張がとても納得できた。
 昨今の諸問題。それこそ地球温暖化や貧困問題、少子高齢化問題、ジェンダー問題などなどきりがない。
 富裕になりすぎたが故の傲慢な問題たち。
 正直俺は関心こそあるものの、あくまでも知識としてそれらを頭に入れていた。
 だから、というか、それを解決せんという発想はない。

そこからさらに黒鳥先生は隣の世界の素晴らしさも話した。
確かに筋も通っているし納得した。
まさにウェンティと話したような魔法による地球との文明度の違いは、ある意味で向こうには平和をもたらしているのだろう。

黒鳥先生は自身の能力をもってすれば地球の諸問題を解決し、新しい世界を創れると言っている。

 だが、俺にはスケールが大きすぎて想像がつかない。

 黒鳥先生は俺の協力は得られないと思ったのだろう。それ以上は無理に言ってこなかった。
 その後はお互いで色々と昨今の問題に対して議論を交わしたり、黒鳥先生の作品の話をしたり、俺が隣の世界で経験した話などをした。
始めこそ有名人に会えたという高揚があったものの、黒鳥先生の言うシンパシーなのか、最後の方は友人のように自由に意見を交わした。
かなり有意義な時間であったと思う。
 寒く、青い満点の星空の下、青緑に光る河川敷に高校生と小説家。
 「もしかしたら君とは敵対することになるかもしれないね。その時は意見のぶつかり合いだと思えばいい。」
 「…。俺にはまだ先生みたいな大それた意見を持てない。関心はあるけど、そこまで考えていなかった。」
 「いいんだ。たくさん悩め!昔の俺みたいだ!」
 そう言うと先生は立ち上がる。
 「成長の真っ只中、俺が居なくなってもこの世界には君がいる。」
 「どういうこと?」
 「なにをしたって世界は変わるってことさ。…まあ、これから俺がすることを俺は正しいと思っているが、批判は当然されるし、あの発表の感じだと俺は捕まるだろう。君も俺が間違ってると思ったら遠慮なく言ってくれよ。じゃあ。」
 そういうと黒鳥先生は飛んでいった。
 
 黒鳥先生の言っていたことを再び考えてみるが、確かに隣の世界と地球を比べたら、圧倒的に隣の世界の方が自然に優しく、自然と共にあり、美しかった。
 俺が黒鳥先生の様な世界を創り変えられる能力を持っていたとして、俺はどうしていただろう?
 というか、黒鳥先生はまだ有効に使っているかもしれない。もっと思考が悪に染まっている人が手に入れていたら、最悪な世界に創り変えられていたのだろう。
 でも、黒鳥先生がやろうとしていることを全面的には賛成できない。理由ははっきりとわからない。やっていることが悪役のそれだから?今の世界が失われるから?どうなるかわからないから?多分ここら辺なのだろうが、モヤモヤが残る。

 ここ最近は生活リズムが死にすぎていて日が昇り始めてからようやく眠気がやって来た。
 俺、この時間までずっとここで色々と考えていたのか。
 だんだんと白む空。茜色と紫色のコントラストの空を見ながら俺は部屋に戻った。
 
 次の日は学校でたっぷりと寝て、放課後はみんなといつもの河川敷を歩く。
 「あー、やっぱり最近生活リズムがあまりにも壊れてる。やばい。」
 「俺もだわ。授業中の様子だと赤城の方がしんどそうだけど。」
 「二人とも、ちゃんと寝て」 
 「そうだよ、能力者って言わなければただの高校生なんだからちゃんと高校生しないと!」
 「あ、そういえば昨日ここで黒鳥創先生と話したわ。」
 「「「え!?」」」
 「ついでにサインももらったぜ(にやり)」
 「「「は!!?」」」
 「多分、もう普通の高校生活送れなそうだわー」
 三人からの突っ込みが入る。と思ったのだが、三人が声を出そうとした瞬間に遮られた。

 「出花赤城君、だね?」

 「え?」
 全員振り返る。すると、そこには見知らぬ男女が居た。
 「ええと、なんでしょうか…?」
 「君に関することで話があるんだが…。友人には聞かれても平気かな?」
 そういうと男はファイルに入った紙の上部と警察手帳を俺にだけ見せてきた。
 そこには「仮設超人事案対策本部」と書いてあった。
 流石に驚いて言葉が出ない。この人は警察で、俺が能力者であることをなぜか知っている。一気に色々なことが頭を駆け巡る。
 なぜ?どこで?なんで警察?捕まる?新法案!?
 「大丈夫!僕らは別に逮捕しに来たとかじゃないんだ。協力してほしい。」
 そんな俺の感情を察したのか目の前の男が言う。
 なるほど。なるほど?油断はできないかもしれないが、一先ずは信用してみる。
 「あ、それなら全然大丈夫です。こいつらも俺の事情知ってますので。」
 「そうなのか、なら、まあ話しても平気か・・・。」
 「はい。」
 「じゃあ、みんな。私は警視庁仮設超人事案対策本部本部長の梶白だ。」
 「同じく白鷹よ。」
 二人がそう言うとみんなが「警察!?」と驚く。
 「まず初めに、これからは能力者と判明した瞬間に逮捕される。」
 「え!?」これには全員が驚いた。
 「でも、確かあの法案?は鎮圧のためのものじゃないいんでしたっけ?」
 「発表されたのはそうなんだが、裏ではそのような話が進んでいるらしい。そして、私は赤城君について調べていた。元々はあのビル倒壊の件を調べようと思ったのだが、結果的に私のデスクには君の情報がたくさんある。回収はしてきたが、見られたかもしれない。まずはそれを伝えたかった。」
 「色々なんてこった…。」「やべえじゃん、赤城。」「捕まえるの?」
 「だが、ここからの話の方が多分大事なんだが、」
 「はい。」
 「まず大前提として私たちは赤城君が捕まらないように尽力する。そもそも不当逮捕には反対だ。そのうえで、君には黒鳥創を止めて欲しいんだ。」
 そういうと二人とも真剣なまなざしを向けてくる。
 「止める…?」純粋な疑問だ。
 「そう。彼は今なにをするかわからない状態だと見ている。もはやただの人間に太刀打ちできるか怪しい」
 「それはそうですけど…」
 「もし彼がこれ以上なにかしようと、もしくは暴れ始めたら力を貸してほしいんだ。頼む。」
 そう言うと、梶白という男は頭を下げ、それに合わせて白鷹も頭を下げてきた。
 「もちろん私たちからも説得は試みる。だが、私たちは一度黒鳥創を裏切ったような形になってしまっているんだ。」
 「それに、黒鳥くんは上層部の考えもほとんどわかっていて、警察に対して信用が無いの」   
女性の方はなんだか黒鳥先生と仲が良いらしい。
 「そして、一般人よりも君の様な能力者からの説得の方がいいと思うんだ。彼は今、一般人に対して信用がないと思うから。」

 「いや、それは違うと思いますよ。」 

俺は昨夜のことを思い出す。
 「実は、昨日の夜、ちょうどここら辺で黒鳥先生と話したんだ。」
 「なんだって、すでに接触していたのか。」
 「それで、先生は一般人じゃなくて、一部の、本当に一部の人間が嫌いで、そして、ただ純粋に地球が好きなんだと思う。」
 そこからは俺が昨日黒鳥創と話したことを、そして俺が考えたことを語る。もちろん大輝たちにも聞いてもらった。
 「そうか。じゃあ、尚更赤城くんなら止められるかもしれない。」
 大輝と静心、入江がやけに盛り上がっている。
 「じゃあ、俺たちもそれ手伝っていいってことですか?」
 「ああ、もちろん、協力はありがたいよ。だけど、メインで動いてもらうのは赤城君になると思う。」
 すると、大輝と静心が顔を見合わせ、こちらにも目配せしてくる。
 ああ、わかったよ、好きにしな。と言った感じで頷く。
 すると、大輝と静心は自身の能力を梶白と白鷹に見せる。
 大輝は光の装甲を、静心は光の分身体をそれぞれ出す。
 目の前の二人が目を丸くする。
 「驚いたな、まさか二人も能力が使えるとは。」
 「君は?」白鷹が入江に聞く。
 「あ、私はただの一般人です…。」
 「なんか、話聞いててわくわくしてよ!」「ね!」
 「本当に漫画みてえじゃん!」「ボス戦!」
 大輝と静心はそういう理由で盛り上がっていたのか。確かに漫画のボス戦の感じはする。そう思うと楽しそうだ。
 二人も盛り上がっているので俺も同意する。
 ただ、なんとなく棘が残る。
 心の底からは盛り上がれなかった。
 
 夜になり、また一人で考える。
 確かに黒鳥先生がやろうとしていることは過激思想家と似ている。今日もSNSで宣戦布告の様なことをしていた。
 俺だって地球で起きている諸問題関心はある。だが、それらは話し合いで折り合いをつけ、ゆっくりと解決していく、そんなものだと思っているし、きっとみんなそうだ。

 だが、一人で解決できる手段を持っていたら?

 黒鳥先生の力は問題を一人で解決できる、と言っている。
 ただ、人々からして確証のないソレはただの議論中に放たれる兵器でしかない。間違いなく平和的解決ではないだろう。
 こんな時、ウェンティならどう考えるだろう。
 黒鳥先生は以前「バカがこのような力を持つから…」みたいなことを言っていたが、今わかった。「力が人を馬鹿にする」逆に俺は今までよくこんなに何もしてこなかった方だろう。
 やっぱ俺が、俺たちが止めるのが最適なのだろう。
 力を持ちつつもまだ理性を保てている俺が。
 平和に向かうための平和的解決をしようと説得するのだ。
 俺は一先ず隣の世界に飛んだ。

 一方の黒鳥。

 いよいよ、俺の計画が始まる。
 俺は触れたものを創り変えられる力を使って手始めに東京の街並みを変えてやろうと思う。もちろんソウのいる世界のように。文明を捨てさせる。
 時間はかかるがここから世界を変える。
 この前話したすべての始まりの子、赤城くんは私を止めに来るだろうか?正直私の力はまだ小さい。これから始まる戦いはある意味で私の成長のためでもある。能力を使い、邪魔者を退くことで、私の能力は進化する。
 赤城くんは大いに悩んでいることだろう。
 俺が同じ立場でもそうなるはずだ。
 彼が俺を止めに来なくても、俺が戦いに敗れ、死んでも、どちらにせよ彼が地球に居る限り、混沌は加速する。
 ソウが言っていた。
 きっかけはソウのいる世界の国王が死んだことによる時空のゆがみらしいが、それによって力を手にした赤城少年は二つの世界の「理」を完全に壊したのだ。現在進行的にどちらの世界にも影響を与えている。
 彼が地球とあちらの世界を移動するたびに世界は歪む。
 俺が思う世界とは違う変わり方をするかもしれないが、それは仕方ない。
 どちらにせよその世界線を見られないと思うと少し残念だ。

 SNSで宣戦布告をしておいた。
 「文字通り私は世界を創り変えられる力を手に入れた。まずは東京には文明を捨ててもらう。もちろん反撃ウェルカムだ。たくさん意見をぶつけようではないか!寄り添って話し合おうとする機会はすでに警視庁のお偉いさんに奪われている。ここに対して批判はするなよ?それに、今の俺ならどんな兵器を使われたとしても大丈夫だ。俺は世界を変える。邪魔するならかかってきな。そのうち現れる。」
 この前警視庁であったことも暴露していたので、俺のこの発言に賛成する人も多い。ここ最近は、定期的な発信の甲斐あってか信者的な人間が増えた。このひとたちも俺が居なくなってもその後の世界を変えてくれるだろう。
 どちらにせよ世界は変わるのだ。
 どうせなら、もっと面白く、楽しく変えてやるさ。
 

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逆倉青海
ぐんぐんどんどん成長していつか誰かに届く小説を書きたいです・・・! そのために頑張ります!