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Overseas Korean (6) 朝鮮族チャイニーズ

Cocktail People : 人はみな、いろんなもので出来ている。
何かのベースにいろんな味がまざってシェイクシェイクしたカクテルのようだと思っています。

『Overseas Korean 』では
Koreaベースだけれど、わけあって韓国以外の国で育ち
ある時期、韓国ソウルに集まった
Overseas Korean たちの話を綴っています。

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イルグ:ぼくは朝鮮族チャイニーズ

教育院の中級に入って驚いたのは、19人中9人が中国からの参加者だったこと。
一般的に中国育ちのOverseas Korean は幼少時から韓国語で生活している場合が多く、さらに韓国系の学校に行くケースも見られるので読み書きともにネイティブ並の人が少なくない*。

中国はロシアと並んで韓国近代移民史の第一期の移民先である。
時代は19 世紀後半。まだテレビが普及されていない時代、各地方で各方言が話されていた時代である。その子孫である韓国系中国人の韓国語には強い訛りが残っている場合が多い。

イルグもその例にもれず、韓国語の読み書きレベルはクラスの中でもトップレベルなのだが、かなり強い慶尚北道の訛りがあった。
標準語もままならない私にとって、彼の韓国語は完全にお手上げ状態。加えてイルグは英語は全くダメということで、私たちはほとんど会話をしたことがなかった。

韓国語の師匠


そんなある日。私は懇意にしているクラスメートの部屋に電話をかけた。不在らしく、出たのは彼のルームメート。韓国語での電話の受け答えにしどろもどろの私はまさに冷や汗をかきながら、やっとのことで電話を切った。

その翌日。
教室で宿題をしていた時、ふと気配を感じ、顔をあげると目の前にイルグの出っ張ったハラが。
「???」
私は身構え、沈黙。

そしてイルグが、のたもうた。
「電話のかけかた、練習しましょおおお。」

私が呆気に取られていると、
「私は○○ですが、誰々さんいらっしゃいますか?」
「代わっていただけますか?」
「電話があったことお伝え願いますか。」
など、電話での決まり文句を1文ずつ、ゆっくりと何度も何度も、繰り返し教えてくれるのだ。

ああ、そうだ、昨晩電話に出たのはイルグだったのだ。
私のあまりにひどい韓国語を聞いて、
「よっしゃ、しゃあない、ワシがひとつ教えたらにゃあいかんな。」とイルグは立ち上がってくれたのだ。

その日以来、私たちは急接近した。
イルグを師匠と仰ぎ、毎日質問攻めにした。
『ベルト』の韓国語を知りたかった時は、出っ張ったイルグのハラにのっかっているベルトを引っ張りまくった。

イルグはどんな質問にも、懇切丁寧に何度も何度も説明してくれた。
強烈な訛り韓国語で。。。
これは大陸的寛容さというのだろうか。

ぼくは朝鮮族チャイニーズ

イルグは 中国生まれ育ち。21才。祖父の代に慶尚北道から中国の吉林省に居住。幼少時より家庭では韓国語のみで生活。韓国人コミュニティの中でどっぷりと生活。朝鮮族学院に進学したが中退。
コカコーラ瓶製造工場で働いていたが、辞めて本プログラムに参加。今回初めて韓国の土を踏んだという。
プログラム参加理由は、将来ビジネスで使うために韓国語をブラッシュアップし、訛りを矯正するためだという。出来れば韓国で大学進学も考えているという。

中国には付き合っている彼女もいる。相手は彼と同じ朝鮮族。結婚は『当然』朝鮮族と。
母親から中国人と結婚することは言語道断と昔から言われているという。

私 : 「ご両親や、他の朝鮮族の友達の考えはさておき、イルグはどう思う?中国人のべっぴんさんのことが好きになったらどないすんの?」

イルグ:「好きになることはあるやろなあ。でも、結婚とは別。だって、中国人とは習慣が違うもん。それに中国人娘は家事をあんまりせえへんイメージもあるし。一般的に中国人は衛生観念が低いという僕らの偏見もある。そりゃ金持ちの中国人の家はピカピカにしてるやろうけど。」

私 :「じゃあ(韓国生まれ育ちの)韓国の子はどうやの?」

イルグ:「あわへんと思う。だって考え方が違うもん。彼ら、外国の影響すごく受けてると思う。」

私は思った。
白人社会の中で、外見が明らかに違うOverseas Korean や養子養女や、歴史的理由によりねじれた感情をもつ日本社会のなかでのOverseas Korean とは違い、中国のOverseas Koreanは外見的にも、歴史的にも中国人社会にうまく同化し、中国人化が進んでいるだろうとの勝手に想像していたのだ。
予想が外れたか?

イルグ:「国籍は中国。自分は中国人。中国に愛国心がある。」
私 :「自分は何者?」
イルグ :「Overseas Korean と自己認識してる。」

私 :「イルグのコヒャン(故郷)はどこ?」
イルグ :「中国。でも、韓国で大学に行ったり、長期間滞在したら変わるかもね。」
子供が出来たらまずウリマル(韓国語)を教える。
まずは韓国式の家庭教育。それプラスアルファで西洋式のものもある程度伝えたい、と言う。

韓国は西洋化しすぎ


今回、初めて韓国に来たイルグ。
韓国に来る前、韓国に対する憧れの念で一杯だった。
来てみて驚いたのは、韓国では外国の情報がたくさん入っていて、西洋化している(しすぎている)ことだと言う。

イルグは『朝鮮人』でなく、『朝鮮族』という言葉を終始使い、自分を『朝鮮族の中国人』だと言っていた。
強い民族的アイデンティティ=朝鮮族

国家的アイデンティティ=中国人
を備え持った人だ。

文化的アイデンティティはどうだろう?
言語的には韓国語と中国語のバイリンガル。
祭礼儀式は韓国式祭礼がメイン。

では食に関してはどうだろう?

韓国料理はあんまり食べない


私:「好きな韓国料理は?」
イルグ:「韓国料理???あんまり無いなあ。ピピンバくらいかなあ。中国料理やったら山ほど言える。」
私:「嫌いな韓国料理は?」
イルグ:「一般的に、おかずで甘い味付けは苦手。」

朝鮮族と公言してはばからない彼が、あまり韓国料理に熱くないとは意外である。言葉は話せなくても、料理から自分のルーツの探索をはじめる人が少なからずいるのに。

韓国名:中国名と同じイルグ
国籍:中国

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