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Overseas Korean (3) ドンの娘

シルビア : 南米コリアン社会ドンの娘(2/3)

値段交渉が必須の東大門市場、南大門市場でも、シルビアが交渉すると常にローカル値で買物ができた。
こちらから、「実はわたしゃアルゼンチンキョッポ(在外韓国人=Overseas Korean)」と言わなければ外国育ちとは分からないみごとな韓国語を話す。韓国の習慣、礼儀作法も下手すりゃ韓国本土のアメリカナイズされた若者よりずっと詳しい。

私はシルビアを観察しながら、疑問に思った。
ーこんだけ韓国のことよう知ってんのに、なんでわざわざこのプログラ
ムに参加してんねやろ?ー

アルゼンチンでは 『ガイジン』  
死守してきた韓国籍は一体何のため?

シルビアいわく
「私はアルゼンチンの『韓国』の中で育ったけれど、韓国には住んだことがなかった。だから一度住んでみたかったの。本場に。それに、韓国の大学で修士課程に進学しようかとも思ってたの。親も、韓国なら学費を出してくれるって言うし。

でも、あなたも知っているでしょ、
『例の奨学金事件』でもう韓国は結構、と思ってきたところ。」

シルビアのいう『例の奨学金事件』とは、教育院の奨学金制度に関わるちょっとした事件である。プログラム参加者を対象とした奨学金で、パンフレットには、教師陣に推薦された参加者が、奨学金委員会によって選考され、最終的に院長が選出するという記述しかない。選考基準の詳細は記載がない。ただ、プログラムのオリエンテーションでは、出席率、授業態度、成績が加味されて総合的に奨学生が選定される伝えられた。選定は毎月行われ、額は日本円で4万円程度。

シルビアは短期コースで、韓国語のレベルはトップ。欠席、遅刻ゼロ。授業には活発に参加、発言。おまけに級長としてクラスのまとめ役もこなしていた。

しかし1度目の奨学生にもれたのである。

当然、彼女は教育院当局に問い合わせをした。奨学金は経済的に困難な参加者および養子養女に分配されるとのこと。平たく言うと、中国、ロシア、旧ソ連からの参加者と養子養女のための奨学金であるとのこと。

日頃、お姉さん役として笑顔を絶やさず、冷静沈着に調停役に徹しているシルビアが、この返答に激怒した。

アルゼンチンで育ち、一流大学を出ても肌の色、国籍の違いから非アルゼンチン人とみなされ第2市民扱い。どんなに成績が良くてもアルゼンチン政府奨学金なんてもらえなかった。でもそれは韓国籍を保持している限り仕方がないと割り切っていた。不利な境遇を覚悟で、死守してきた韓国籍は韓国本国では正当に扱われると信じていた。

しかし、だ。
奨学金に関して優遇されるのはロシア、旧ソ連、中国の参加者。おまけに韓国の子孫ではない中国人(この時期例外的に5人の中国人女学生が参加していた。) さえも韓国籍の自分をさしおいて奨学生になっている。
なんのための奨学金?誰のための韓国政府だというの?と、机をひっくりかえさんばかりの勢いでまくし立てていた。(3/3に続く)

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