【黒木啓司さん芸能界引退に寄せて:⑥】決戦〜ROCKYとラスカルズの覚悟、DOUBTの蹂躙〜【HiGH&LOW】

Back when I was a kid
My mom told me how to let go from everything
 

子供の僕へ、お母さんは
どうしたら全てを投げ打てるのかを教えてくれた

“Find your inner piece”,
that’s what she told me
Cause nothing, nothing come to free

「自分の中にある平和を見つけなさい。
対価を払わず手に入るものは何もないのだから」お母さんは、そう教えてくれた

Whenever I feel like I’m alone
I’ll find the glory deep inside my soul 

自分がたった一人のように感じるときは、
いつも魂の奥深くにある栄光に目を向けて

And I’ll fight for my passion in life
Give everything I have in me

生命を懸けられる情熱のために戦うんだ
僕の中にある全てを差し出して


第3章:Break into the Dark


前章では、ROCKYと蘭丸の対比から自分なりのキャラクター解釈へと踏み込み、彼らが雌雄を決することが宿命であると述べました。そして、かつて戦った黒白堂の廃墟にて再び、二者は激突します。

本章では、チームとしてのラスカルズとDOUBTにも触れながら、決戦前半を振り返っていきます。

まず劇中では、開戦前から両陣営ともに印象的な場面が続いていきます。蘭丸がDOUBTに檄を飛ばすシーンについては前述した通りで、その勢いのままに地を埋め尽くす黒い波のごとく蘭丸は進軍していきます。ラスカルズの白を、完全に塗り潰すために。

一方のROCKYは、開戦前からジェシーの奇襲によって少なくないダメージを負っていました。それでも彼は怯むことなく、まずはキャストの女性たちの安全を最優先に考え、彼女らを避難させました。そして、襲撃の報を聞きつけたコブラの協定と助力の申し出を、「自分で立てるうちは、自分の足で立つべきだ」と、またしても断ります。

しかし、その様子は平時の彼とは異なり、心身ともベストコンディションでないこと、ラスカルズ単体で挑むのは死地に赴くも同然であることが、立ち振る舞いと声から痛いほどに伝わってきます。そんなROCKYに、コブラは「立てなくなったらいつでも呼べよ」との言葉を残して立ち去りました。コブラはおそらく、確実に助けが必要であることを悟りながらも、蘭丸とDOUBTを滅ぼすために命をも投げ打つというROCKYの覚悟を受け止め、それ以上食い下がらなかったのでしょう。

そしてROCKYはラスカルズの仲間を集め、「奪うためではなく、守るために戦う」ことを説きます。彼は決して、共に死んでくれとも、全員で生きて帰るとも、男たちに語りかけることはありません。ただ、ラスカルズとしての、ROCKYとしての信念を貫く。女を守る。その姿勢だけを示しました。

地獄の悪魔を引き連れた魔王が如き様相の蘭丸に対し、黒白堂駅にはROCKYがステッキに半ばその身を寄り掛からせるような仕草をしながら、一人で現れます。彼は既に、「自分の足で立つ」ことさえもできるかどうか、というギリギリの状態なのです。

しかし、次第に彼の周囲にはKOOが、KIZZYとKAITOが、SMGが、そしてラスカルズの構成員たちが、まるで王を守るかのように集まってきます。

ラスカルズの構成員は蘭丸出所直後から、少数でいるところを個々に蹂躙され、中には脚にナイフを突き刺されたままアジトへ拉致されるほどの惨い扱いを受けた者までいました。ただでさえ寡兵なことに加え、敵の残虐性を散々見せつけられてきたラスカルズの面々は、それでも逃げずに正面からDOUBTへ相対します。

コンテナ街とは異なり、チーム単体で大群の相手をすることとなり、その不利は明白。しかも敵の中には、ROCKYを襲ってダウンさせたあの男を筆頭に、得体の知れない連中も混じっています。そして、それを率いるのは蘭丸。その毒牙が掠めれば、即座に生命までもが危うくなります。

それを知ってなお、ラスカルズはROCKYの掛け声に心を奮い立たせ、正面からぶつかっていきました。

SWORDの各チームは、それぞれ構成員レベルでも異なる強みを持っていますが、ラスカルズのそれは間違いなく、ROCKYから伝えられた気高い覚悟と、それが支える一人一人の精神力でしょう。彼ら全員が、まさに何もかもを投げ打ってでも戦うという決意でここに臨んだのです。己の意志で、女を守るため、未来を守るために。

一方、対するDOUBT軍。こちらは数で圧倒しているのは勿論のこと、モブ集団の動きもコンテナ街のときとは見違えるように統制されている描写が目立ちます。開戦早々、ROCKYはKIZZYに指示を出してラスカルズを広く戦場に散らせますが、DOUBT兵の個別に袋叩きにするムーブによって確実にやられていきます。

その際に流れる彼らのテーマ曲「ASOBO!」も、以前はチャラチャラした軽薄な集団のイメージを想起させましたが、今回の一味違うDOUBTの「遊び」は容赦がなく残酷で、それと陽気な曲のミスマッチが尚のことその暴力性を際立たせる演出になっています。

DOUBT兵の強化については、もちろん蘭丸のコインゲーム選抜によって生まれ変わったところも大きいと思われますが、もともとの彼ら自身の特性として、有能な指揮官の有無で大幅に戦闘力が変わるという点も挙げられます。たとえば、ザム前半で印象的だったルードとの戦いのシーンではコンテナの上を取った上でガラス瓶投擲によって足場を封じ、有利に戦闘を進めていましたが、これは劉という智将の的確な作戦があったからこそでしょう。

こうした点を振り返ると、彼らは本当に数だけの寄せ集めなわけではなく、事前に作戦を授けられるか、または近くに指揮をするリーダーがいれば、一気に流れに乗って敵を圧倒できる力は持っているということになります。逆に、コンテナ街決戦の湾岸軍ではマイティが個々に大暴れしてはいたものの、特に軍団を指揮することはせずにいたため、DOUBTは数に頼る以外の戦い方がなかったと考えられます。

劇中では直接の格闘シーンこそありませんでしたが、黒白堂で平井チームがKAITOを、高野チームがKIZZYを追い詰めていたのも、幹部の彼らがそれぞれ兵士を的確に使い、コンビで無類の強さを発揮する二人の分断と集中攻撃を徹底したからだと思われます。さらには、描写こそありませんが自由に動き回るプリズンギャングが一般構成員を圧倒しているのも間違いなく、KOOやSMGはそのフォローに手一杯だったのかもしれません。

こうしてラスカルズが不利な戦いを強いられる中、ROCKYと蘭丸の2人もついに激突します。互いが隙あらば周囲のあらゆるものを使って相手を追い詰め、仕留めようとする戦いは、もはや殺し合いに近い様相を呈していきます。しかし、覚悟の形相で挑むROCKYに対して、蘭丸にとって彼はやはりあくまでも遊び相手……あるいは遊び道具に過ぎません。表情や挙動からも、ROCKYの心身を傷つけることそのものを楽しんでいることが伝わってきます。

鎖を使って首を絞め合うなど、一進一退の死闘が続き、一時はROCKYが押し切るかとも思われましたが、蘭丸は脱出。そして、ROCKYの拳をガラス(金属?)片で深く貫きます。これが決定的なダメージとなり、形勢は一気に逆転。さらに、弱ったところへプリズンギャングが横入りして追い討ちをかけ、満身創痍の彼を大勢の敵が取り囲んでいきます。

細かいところですが、ROCKYの拳を完膚なきまでに破壊する瞬間には愉悦の極みにあった蘭丸の表情が、プリズンギャング勢の追い討ち以降は一気に興味をなくしたような、つまらなさそうな顔に変化しています。この時点でROCKYは彼にとってもはや壊れた玩具だと見なされていたのかもしれません。

そして万事休すと思われたその時……バイクの轟音を響かせて、コブラたち山王連合会が救援にやってきます。

いよいよ、EOS最大のカタルシスとクライマックスの場面に差し掛かってきました。今回の記事はここまでとし、次回にて黒白堂の戦いの決着までを、長年温めてきた持論と共に語っていきます。







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