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サマソニ東京2016 雑感ライブレポ 2日目編

タイトル通りです。

長い短い、セットリストあるなしあるけど、思い出し書きで書き残しておきます。

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・・・しかしまぁ非常に書きづらい。

ようやく人生初のレディオヘッドを見て、意気揚々と雑感なり感想なりを書こうとおもいきや、元Snoozerの編集長であり英米ロック/ポップミュージックに対していまの日本で最も優れた批評家であろう田中宗一郎さんが、非常に悲しいコメントを残していたからだ。これまでRadioheadの番記者のようにこれまで接していらしたし、今回のライブにしてもファン側というよりバンド側の気持ちに寄り添うようにみていらしたと思う、だからこその嘆き深さ、おっしゃられているところには深く首肯して、僕も当時のツイッターで同じようなこと書きました。

Radioheadは懐メロバンドじゃない!この点は本当に僕も強く言いたい。

でもまぁ、確かにこの日のサマソニ2日目は記念すべき、と同時に見る人が見ると忌むべき日になったのかもしれないのは確か。この日のサマーソニック東京では、日本の誇る3つのロックバンドが出ていたことを改めて思い出して欲しい、[Alexandros]、METAFIVE、サカナクションだ。彼ら3組に加えてRadioheadのライブレポ……というより見ていた中で感じたことをツラツラと書いている。

四つ分の長い文章を書いた、この日のアクトについてだけじゃなく、バックグランドや彼らそれぞれの志向性にも触れている。書いていく内にこうなったので、読む方もなんとなく彼ら4組の関係性を読み解いてもらえると嬉しい。

その前に、その他にみたアクトを紹介したい。Mayer Hawthoneは70'sソウル/ディスコにドゥー・ワップの流儀を取り入れ、いまの邦楽インディ界にもアジャストしていくシティ・ポップライクなポップスをブチかましてくれて非常に楽しかった。

ノルウェーのトラックメイカーCASHMERE CATはMETAFIVEで微妙に踊りきれなかった気分を払拭させてくれる非常にグルーヴィなサウンドをカマしてくれた。

変拍子に揺らぐトラップミュージックのリズム感に、ダブステップ~ベースミュージックを感じさせる図太いベースサウンドがぶっ刺さり、体がポーンと飛び出していってしまいそうになる特有の感覚、普段なら数百人のクラブハウスで再現するであろう質感を1万人は入るステージで見事に再現していたのは素晴らしい。

ところによりDJのつなぎをミスって愛嬌よく笑っていたが、去り際にバッグをひょいっと肩に背負い、DJ機器からUSBを引き抜いて「Thank you! Bye Bye」と挨拶してササっと舞台袖に歩いて行ったが、あの長髪で端正な顔つき、近くで見るまで女性だとばかり思っていた・・・男性だったのね。今回の来日は、来年頃に発売になると噂のデビュー作のPRがあったのかもしれない、氷山や北極を思わせるVJが頻繁に流れていたので、非常に印象的なアクトであった。

さて、先に謝りたいのはTHE YELLOW MONKEYだ。

アリーナでラスト2曲ほどしか聞いていなかったので、何も話せることがない!

だからここでは彼らについて話すことが本当にないので、ご容赦していただきたい

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[Alexandros]

去年のフジロックに出演した際にも彼らを見た。2010年に蓮沼ロックフェスに出ていて、同年のカウントダウンジャパンでソニックステージ1発目を飾っていたステージも見ていた、だいたいそれくらいから彼らを見続けてきて、ワンマンも数度足を運んでいる。

野性的で奔放に、ガムシャラにロックンロールを奏でていたあの姿を僕はいまでも覚えているし、その後の作品群だって全て追いかけてきた。

長年の活動を経てきて作詞作曲を務めるギター/ボーカルの川上は、「自分のソングライティングに自信を持ててきた」とROCKINON JAPAN2016年7月(いや8月号?)で語っているが、この日のライブではその威力を十二分に発揮されていた。メンバーの演奏する姿にウットリとした眼を向けて、唇は川上が歌う歌詞とシンクロしているファンを、この日のカメラは幾度と無くとらえる。デビュー時より、他のロックバンドよりも鋭きギターリフ/ギターフレーズを楽曲のなかで披露してきた彼らだからこそ、こういったアリーナ/スタジアムクラスのライブアクトにも選ばれるのだ。

だがしかし、である。

率直に言ってドラムの音が弱い、ベースサウンドに埋もれ、ギターリフと川上の歌声にかき消されてしまっている。ロックバンドとして踊らせるというよりも、川上のソングライディングとメロディに聞き惚れるようなバンドに徐々に傾倒している。それは昨年のFUJI ROCK FESTIVAL.2015、VAMPSに声をかけられて参戦した2015年のVAMPARK FESTと同様の姿だ。

もしもアリーナ/スタジアムで自分らの音楽≒メロディを鳴らす術として、意図的にドラムの音を小さくしているとしているならば、それは消極的な姿勢であろう。OASISやWeezerのファンのように、大声で賛歌を唄うような姿ではなく、放たれた音の波に揺られて踊ることを志向するファンがいまの日本のロックファンには数多い、ロックフェスに足を運ぶ人ならば尚更そうだ。(もしもそういった観客へのアンチテーゼを含んでいるならば、もう何もいうことはない!)

あれだけ印象的なフレーズをいくつも散りばめた彼らの音楽が、こうしたアリーナ/スタジアムの中で希薄に感じられてしまうと・・・やはりドラムに対する意識やサウンドスケープに対する認識をより変化する必要があるように思えた。要は、メロディを裏側から押さえつけてくれるアタック感がないまま、ツゥーーーーと右から左に流れていってしまい、本当にバックグランドミュージックを奏でているだけになってしまっている、昨年のフジロック/VAMPARK FESTと今年のサマソニ、両アクトを見た僕の率直な感覚だ。

もしもアリーナやスタジアムではなく、数百人レベルのライブハウスではバッチバチにドラムスが叩きまくっているというなら、あとはでかい会場だけでの問題だ、あと一息で、本当にドデカイスケールをもつロックバンドになれる。僕の知っている[Alexandros]は、ここまで恥ずかしがり屋で、エゴをひた隠しにするようなロックバンドではなかったはずだ。

セットリスト

①Burger Queen②Run Away③Boo!④Girl A⑤Waitress,Waitress!⑥swan ⑦Kick&Spin⑧Dracula La⑨ワタリドリ

METAFIVE

[Alexandros]のアクトに若干消化不良を覚えつつ、Mayer Hawthoneが「Do it」→「Walk This Way」をカマしてこちらの気持ちもかなりアゲアゲな状態で、METAFIVEを見ることが出来た。後日知ったが、なんと入場規制がかかっていたらしい。始まる10分前に右手前方に陣取り、集まってくるのは20歳代から40歳代の方々。男性一人が6割、女性一人が3割、あとはカップルが1割、といった具合だったか。

高橋幸宏×小山田圭吾×砂原良徳×TOWA TEI ×ゴンドウトモヒコ×LEO今井、今更ながらこの並びを見ると、日本のポップミュージック史に名を連ねてきた人物らによるスーパーユニットといって差し支えがない、ここまで揃い踏みなグループも数えるほどしかないんじゃないだろうか?。PYG、忌野清志郎+坂本龍一、吉川晃司と布袋寅泰のCOMPLEX、デビュー時に組んでいたグループとは違う別のグループという意味では、もしかすればもっともネームバリューのあるグループといえるであろう。

主にテクノ/ハウス/エレクトロニカ・ミュージック周辺で活躍してきた6人が、80'sポストパンク~ニューウェーヴなテイストでしっかりと味付けされたファンキーなダンスバンドとして結束する。彼ら6人の出自を踏まえて考えれば非常に全うな感触を得つつ、一つのバンドミュージックとしてみたとき今年の初めに彼らの1stスタジオアルバム『META』を聴いた時には本当にたまげた。

確かにこの6人においての<バンド・ミュージック>の共通項はココであろう、そこにポイントを集めつつ、彼ら6人・・・主に高橋/テイトウワ/砂原がこれまで手がけてきた諸作品を感じさせうるグルーヴとビート感がギュっとつめ込まれ、小山田/ゴンドウトモヒコ/LEO今井がギターやトランペットやボーカルを印象的に嵌めこんでいくような形に仕上がっていた。

80'sポストパンク~ニューウェーヴなテイストと先に書いたが、ところどころノーウェーヴの顔もチラリと見せてくれる、もしもここにトライバルなビート感が含まってくると、UKニューウェーヴ・バンドが捉えようとしていたコスモポリタンなイメージにグッと近づくのだが、彼らは代わりに90年代以降のクラブ・ミュージックのビートメイキングが差し込むことで『ポストパンク~ニューウェーヴを日本人流に現代化してみました』という手合になっている。

「Don't Move」の電子ファンクネスとサウンドスケープは、80年代に生きたニューウェーヴ・バンドが夢見ていたであろう無機的なビートを身体的かつ野生的に捉え直して躍らせるという大いなる夢を叶えているし、「LUV U TOKIO」のサウンドスケープは、もはや00年代以降のクラブ・ミュージックのグルーヴメイキングでYMOを宿らせたような名曲だ。こんなことツラツラ考えていたらただのディスクレビューになりかねないんだが、YMOの曲を今に再現する『テクノリサイタル』からスタートしている彼らがこれから成そうとしているのは、YMOを中心にした80'sミュージックへの敬愛とリスペクトを込めた現代的なアップデートと超越であり、それをいかにライブという現場で魂の宿った音楽に仕上げるか?であったと思う。

ではSummer Sonic2016の東京にて、彼らはどうだったのだろうか。

ボーカルとシンクロしてメンバーの後ろをイメージビデオやプロモーションビデオが映し出され、歌詞がバラバラと散らばって流れていくその液晶の前に立つ6人は上着を赤色に揃え、あの『solid state survivor』を思わせる。ヴィジュアルの面でも彼ら6人がYMOを超えようとしていくのをしっかりと感じた。

難しい英単語も無く、メロディアスに唄うでもない、一つ一つの言葉をキッチリと発音していくLEO今井と高橋のボーカルは、VJの力も借りてこちらへときれいに言葉を届いてくる。トータルとして届けたいメッセージより、散文的に届けられるリリックに胸が震えるし、ゆっくりと咀嚼できるような形となっているヴィジュアル・ビデオだ。

クールなファンクネスが会場を徐々に揺らしていく。こうして周りをみてると、どことなく初見が多そうだ。それが故なのだろうか、これほどに躍動的なファンクネスを魅せつけられても、「これは・・・踊ればいいのか??」という雰囲気が漂っていた。

結果的に言えば、奏でられている音楽と受け取る側のチグハグさはずっと残っていたわけだが、代わりにVJを含めて一つのエンターテイメント性の強いライブアクトとして印象的だったといえよう。

これまでの活動で多くの支持を受けてきた彼ら6人ならば、これまでの自分たちを知っているファンに囲まれた内密なライブツアーリングに終始していてもよかったはずだ。しかしながら、そこから一歩ぬけ出すようにしてこのサマーソニックに出てきたというのは、彼らにとって非常にチャレンジなアクトだったろう。

セットリスト

①Mezzanotte②Albore③Maisie's Avenue④Grave trippin'⑤Luv U Tokio⑥Don't Move⑦Turn Turn⑧Disaster Baby

サカナクション

METAFIVEをみたあと、バスを乗りついでTHE YELLOW MONKEYSをみるために観客席へ・・・ってほんとに全部埋まってるやんけ!!?。地面にも座るためのスペースがまったくない(故に歩きづらい!!)。仕方がないのでせっかく買った焼きそばを10秒で平らげ、いざアリーナへ・・・前方ブロックへ移動して「LOVE LOVE SHOW」と「JAM」を聴けた。いやぁ、JAMはやっぱりカッコイイ曲だぁ!

THE YELLOW MONKEYSとサカナクションの転換時間、意外と多くのお客さんが退場し、それ以上にサカナクション目当てのお客さんとRADIOHEAD目当てのお客さんが入ってきた。6割位はそのままいたくらいで、始まってちょっとしたあたりでほぼほぼアリーナ前方は埋まっていたように感じられた。

そうこうしているうちに、サカナクションのライブが始まった。フェスで見るのは初めてだが、彼らのワンマンには2度足を運んでいる。とはいうもののそれももう3年ほど前の話、同時にあの傑作『sakanaction』から数えて3年の月日が経っていることに気づく。

切れ味あるロックリフ、声高に歌い上げるメロディにも点々ポツポツと呟くようなメロディにも振りきれるメロディラインに加え、テクノ/ハウスミュージックのグルーヴを援用して推進力をもったグルーヴでロックバンドから脱皮、むしろロックミュージックを更新しようとしているのがこのバンドだ。

その後、彼らのようにハウス/テクノのグルーヴを援用したバンドが非常に多く生まれ、または注目されてきた、D.A.N雨のパレードはその中でも随一の筆頭株として数えていいだろう。彼らの影響力は、2010年代にこの日本で生まれた幾多のロックバンドに計り知れないレベルで影響を及ぼしているといっていいだろう。

先に申し上げておきたいのは、この日のサマーソニックのベストアクトは間違いなくサカナクションであった、ということだ。ほぼシングル曲/ダンサンブルなナンバーを揃え、山口一郎は「みんなー!踊ろうぜー!」と全身を使って観客をアジテートしていく、この日の彼らには<聴き浸る>という余韻よりも、<踊り狂う>という渇望が先立っていた。無論彼らの詞に、ある種の寂寞感があるのは確かであり、そうして踊り続ける観客の心のなかに寂寞感を刺していこうという試みを続けてきたバンドなのは間違いないわけだが。

この日のライブ序盤で演奏した「蓮の花」「さよならはエモーション」はそういった曲だ。散り際や別れを唄ったこの2曲は、そのリズムセクション自体が4つ打ちではなく、ロバート・グラスパーと共にするドラマーのクリス・デイヴやマーク・コレンバーグのような、ないしは彼らの後にアクトするRadioheadのような細やかなビート感、複雑なリズムと引きづるようなグルーヴがキモになっている。この2曲をRadioheadの前にやろうということ、そこにサカナクションが日本のロックバンドという屋号を自ら背負っているという強い自負心を伺えた。

だからこそ、この後の流れ・・・「夜の踊り子」で熱狂した観衆を和太鼓を用いた人力レイヴショーで一気にダンス空間へと没入させ、彼らにとっての最高のナンバー「アイデンティティ」へと繋いでこの日一番のハイテンションな空気を生み出したのは、彼らが繰り出す最高のクリティカルヒットであり、彼らのいま出せる最高のパフォーマンスだったようにも思える

台風が太平洋を横断し大雨も予報されていたが、幸いにも雨は振らずに迎えたこの瞬間、サマーソニックらしい夕暮れの下、彼らのピークタイムが迎えられたのはなにかのご利益でもあったんじゃないか?と思えて仕方がない。

何よりも驚いたのは、この後の2曲「ルーキー」「新宝島」の2曲で、彼らがなにかしらの号令をするまでもなく観客全員が手拍子や手を横に振るようになったこと、これには山口も「おいおい!?まじかよーー!?」なんていう驚きの表情を浮かべていた、しっかりと会場内映像で撮られてましたよ!。

ということで、ここまで1時間程度のアクトだ。METAFIVEの高橋さんが「今回僕らは与えられた時間が少ない、もっと欲しいけども、それは今度やるワールドハピネスというフェスに来てください!」なんてMCをしていた、山口も同様に「時間があると、いろいろなことに挑戦できる」と口にしていた。多くの観客を一気に自分たちの音世界に持って行くには、やはり時間が必要なのだと再認識させられる、自分らの持ち味を最大限かつ意外性のある方法で見せつけることができれば、初見のお客さんの心を見事に貫通させることができる。

「サカナクション、すっげぇな・・・」という声を、Radioheadを待つ転換時間中に少なくとも3回は聞いた。日本最優のロックバンドの爪あとは、確実に残せたといえよう。

セットリスト

①ミュージック②アルクアラウンド③Aoi④蓮の花⑤さよならはエモーション⑥ネイティブダンサー⑦ホーリーダンス⑧夜の踊り子⑨SAKANATRIBE~和太鼓からの人力レイヴショー⑩アイデンティティ⑪ルーキー⑫新宝島

Radiohead

開始時間19時を回っても始まらない。ステージ上の照明器具の調整に時間がかかっているようで、定刻より20分遅れてようやくRadioheadのライブアクトは始まった

ドラムスとベースはエレクトロニカの複雑さにも8ビートの大雑把さにも対応しつつ、ベースフレーズはノッペリと同一フレーズを弾き続けることで、70'sのクラウトロックの影響を見てとれる中に浮遊感が生まれる。そこにジョニー・グリーンウッドのギターらしからぬギターワークと音色、トム・ヨークのファルセットボイスが加わると、あまりにも妖しい空間が創られる。

1曲1曲、丁寧に、一つ一つの音を丹精かつ端正なアンサンブルに仕上げようと試みる、5人の高い集中力・・・気迫をそこにみた。踊るとか聴き浸るというよりも、ロックバンドとしてではなく、1つのアートを生み出すグループのような空気がこのアクトにはあった。水で満杯になったコップの縁から水がスーッと落ちていくのが気になるように、音色が粗だつと一瞬で違いが分かるくらいに際立つ、だがそれすらも彼らの場合「それもまた一つのアートなんだよ」なんて空気感で掬っていくのだからニクい。

ステージ両脇にある液晶画面とステージ後方で準備されていた特注の液晶画面、3つの画面を使ってRadioheadの演奏姿をスナップしつづける。まるで監視カメラのように克明に追いかけ続け、<いま僕たちはここで音楽をやっている>ということを示しているかのようだ。

ちょっと横道に逸れた話をしよう。

『OK Computer』以前『KID A』以後というタームが彼らの中にはある、後者が彼らだけではなく同時代の音楽から今に至るまで大きな影響を及ぼしているのは、言うまでもない。いってしまえば彼らが行なってきた『KID A』以後というタームは、古びれてしまったロックンロール・ミュージックのエンジン部分にエレクトロニカ/クラウトロックを導入し、もう一度再稼働させるための大実験だったといえよう。

強烈に印象的な音像はカルトなフォロワーを増やし、どんどんと強い影響を及ぼした。先に述べたように、サカナクションも彼らの影響下にあるといえよう。リズムとグルーヴを再編するという意識において、サカナクションはこの日本において最もポップな形をしたRadioheadだと言っていいかもしれない。

そういうことを考えながら見ていくと、サカナクションやMETAFIVEや[Alexandros]が出演するこの日に、いまこうしてRadioheadのライブで見られているのはちょっとした軌跡をみているを感じてしまう。

ギターロックバンドとしての彼らと、エレクトロニカを導入した彼ら、2つのペルソナがこの日のライブではシームレスにつながっていく中で、日本のロック史が描いてきた軌跡を自分の中で反芻しつつ、彼らのメランコリックな空間を楽しんでいた。

しかしながら、曲と曲との間で楽器交換をするのがあまりにも多かった、これがこの日のアクトで最大の問題だったようにも感じる。1曲やれば照明を明るくし、シールドの差し替えやエフェクターの調節をする2分程度の時間は、アーティスティックな空間を創出して生まれる金縛りのマジックを容易く解いてしまう。演奏中はウットリと聞き惚れるが、こうして10何回も楽器交換やセッティング時間を設けられるとさすがに見ているこっちもダレてしまう。彼らのアクトにそれだけの力があったということをいみじくも反証しているわけだが。

そういった時間が無意味であったわけでもない。観客の呼び声に対して「※△○■◎△$♪×¥●&%#?!」というおよそ人語とはいえない奇声でおちょくり、応答するトム・ヨークの姿があった。観客を軽くバカにしつつ、そうしたコミュニケーション自体を嬉しくも楽しくもありと感じているように写った。何度目かの日本での公演にはなるが、ヨーロッパから遠く離れたこの地で未だにこれほどの人気をもっていることに感慨深い気持ちがよぎったのだろうか。

アンコール中、「Creep!」と叫ぶ幾人かの観客、アンコール3曲目が終わった直後、女性の方が「Creep!」と叫んだ時、「ィェス・・・」と小声で応対した、僕は「来るぞ・・・」と生唾を飲んだのを思い出せる。こんな感じで、セットリストも分からないライブ中にもかかわらず<次にあの曲だ!>と勘付けるのも久しぶりな気がした。加えて最新作『A Moon Shaped Pool』を中心にしつつ、「2+2=5」「No suprises」「Airbag」「Let down」「Everything in its Right Place」そして「Creep」と、彼らの代表曲を惜しみなく披露してくれたのは単純に嬉しい。

『A Moon Shaped Pool』では、過去を逡巡しつつ自らに降り注いでいた愛を再確認する・・・というメッセージが込められていた。トム・ヨークは離婚し、第6のメンバーとも評されるプロデューサーのナイジェル・ゴッドリッヂは父を失った、このアルバム最後の曲は「True Love Waits」≒「真の愛を待っている」で締められていることに気付けば、非常に感情的にならざるをえないし、彼らのロマンチストな表情にも気付けるはずだ。

僕はとある所で今作について書いている。

http://ongakudaisukiclub.hateblo.jp/entry/2016/06/24/212529

<今作においては、ただただ「過去の君」に向けて言葉を集めて歌い上げているようにみえる。どうしてもポリティカルなメッセージ性が隠れているようには読み解けない。しかもそれらが「(相手への無理解に基づく)自己完結型の葛藤と諦念」となっているのだから、彼ららしいといえば彼ららしい。>

ポリティカルな姿勢を打ち出す傾向のある彼らにしては久しぶりに、他人やこの世界のことではなく自分自身らの悲しみを多くの歌として仕上げたといえる。同時に彼らは、直喩も暗喩もすべてつぎ込んで世界を抉ってきた自身の手腕を自身らの中につきたて、悲しみを抉り出そうと試みる、それがいまの彼らのライブではなかろうか?。何度もいうが、あの曲間の楽器交換タイムもピンとした静けさ/気迫がステージ上には張っていたし、とてもじゃないが声をかけていいような雰囲気には到底思えなかった(声をかけた観客もすごいし、もしかすれば集中していたからこそトムはあんな応答をしたのかもしれない)。

自身の体に刃を突き立てる直前、それくらいのシリアスさ、だからこそ5人はあれだけ、丹念に、静謐に、ピンと張り詰めた気迫のなかで音を奏でようとしていたのだ。

今回のセットリストを見れば、新作に収録された10曲を全て披露することなく、しかもこれまでのライブでもあまり披露されなかった楽曲も披露されているわけだが、過去に彼らが唄ってきた<創作的な悲しみ>に、いまの自分たちの<現実上の悲しみ>を継ぎ足すことで、この日見に来た観客に「いま君の感じている感情や日々の出来事を大事にしなくちゃ」というメッセージを投げかけていたのだ。

彼らのこの日最後の曲は「Street Spirit」、それはこの日集まった僕らへの、彼らRadioheadからのメッセージのように響いた。

This machine will, will not communicate
These thoughts and the strain I am under
Be a world child, form a circle
Before we all go under
And fade out again and fade out again
この機械は意思疎通なんかしない
ああいうことが心に浮かんで重荷になってても、そんなことにはお構いなしだ
だから世界に出て行って、他の仲間と繋がろう
破滅してしまう前に、消えて行ってしまうんだから
<中略>
Immerse your soul in love
魂を愛で溢れさすんだ

①Burn The Witch②Daydreaming③Decks Dark④Desert Island Disk⑤Ful Sto⑥2+2=5⑦Airbag⑧Reckoner⑨No Surprises⑩Bloom⑪Identikit⑫The Numbers⑬The Gloaming⑭The National Anthem⑮Lotus Flower⑯Everything in its Right Place⑰Idioteque

(アンコール)⑱Let Down⑲Present Tense⑳Nude㉑Creep㉒Bodysnatchers㉓Street Spirit

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