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陶芸のハードとソフトとは?

「私が歴史に興味があるのは、今の自分がいる社会の状況とかルールがどこから来てるのかに対する興味があるから」と語るのは、アーティストインタビュー第4回の美術家・陶芸家の西條茜さん。彼女の近年の作品は、ある歴史の物語に着想を得て、そこからフィクションを織り交ぜて、空想し、作品化するというように制作されている。

「陶芸にはハード的な部分とソフト的な部分があると思っていて、ハード面とは造形とかテクスチャとか色みとかビジュアル的な面であったり、プロセスとかであって、ソフト面とは陶芸の成り立ちとか、歴史とかだと思っている。」けれど、日本の陶芸はハードに偏りすぎていると彼女は感じている。そんな西條さんも大学学部生の頃は、これまでの陶芸の枠内で、つまりビジュアルイメージだけで作品を制作していたらしい。転機になったのはロンドンへの交換留学だそうだ。「ロンドンに行かなかったらずっとそんな作品を作り続けていただろうと思う。」

ロンドンで触れた現代美術の数々によって、「こういう世界ならもう少し勝負したいかも」と現代美術での陶芸に新たな可能性を見出した西條さんですが、実際に今の制作スタイルになったのは、さらにオランダでの制作を経た後だったようです。方向性を見出す事とそこから自分の制作スタイルとして固まるまでにはそれなりに時間が必要だったという事でしょう。

彼女に見えているフィクションの風景を作品だけからは十分に窺い知ることはできない。それを探るべく色々聞いていくうちに、彼女が陶芸に感じていること「陶芸って嘘っぽいんですよね。中が空洞で。見た目がすごく本物ぽくても、パリンと割れちゃうと何だこれってなるじゃないですか」、その作り物っぽいところに、リアルさとフィクションを混ぜ合わせる彼女の作品の制作スタイルがうまく絡み合っているんだなという事がわかった。

西條さんは、ソフトへの志向に目覚めたことで、今の制作スタイルになったのだが、決してハードを軽視しているわけではない。そのバランスがとても重要だと言っている。ここからは少し拡大解釈になるんだけれど、ハードとは、素材の持つ強度を手先の技術で引き出すことで、ソフトは自分の考えるフィクションを素材によって実現すること、言ってみればハードとは、自分の身体性に対して開かれることで、それは人間が持つ根源的なものであり、ソフトとは、人間が想像力によって生み出してきたもの、フィクションを作る力を発揮すること、それは人類が文化・文明を築き上げてきたことそのものに通じるものともいえる。つまり、そのバランスを絶妙に保つということは、人間が根源的に持つものと文化・文明を築き上げてきたものとを自分の中でうまく統合できているということで、そうであるならば、そこから生まれる作品は本能にも訴えながら、知的な部分にも訴える作品になるはずなので、そういう作品は本当に心揺さぶられる作品になるだろうと思うのだ。今後西條さんがどんな作品を作っていくのか、とても楽しみだ。

アフタートークの中で、西條さんが、「点が線になる瞬間がある作品がある」と言っていたのが、スティーブ・ジョブズの"connecting the dots”と同じだなと思って面白かった。陶芸界のスティーブ・ジョブズを目指して貰いたい。

それ以外にもロンドン時代に一度、陶芸から離れて、やっぱり現代美術としての陶芸に戻ろうと思ったこと、オランダやフランスでのレジデンスの話など色々面白い話題が盛り沢山の西條さんのインタビューは是非動画でどうぞ。今回の動画はvimeoでの有料公開のみになります。


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