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シアターコモンズ’21にみるVR/MRの可能性

シアターコモンズ’21のMR/VR 4作品を体験するために、久しぶりに東京に行きました。VR/ARを使った新しい演劇・映像表現に関心があるので、今回の作品はぜひその場で楽しみたいと思っていました。4作品それぞれ、観た順に感想を纏めておきたいと思います。

小泉明郎 「解放されたプロメテウス」

小泉明郎さんの作品は、MRとVRを融合した作品で、HMDを装着すると、その場所にMR映像で、寝ている人たちが浮かび上がってきます。その寝ている人に十分近づくとVRで夢の中が覗けるという造りになっています。また離れるとVR世界から抜け出して、元の場所でMR映像が見れるという感じになっています。同時に5人が会場にいるので、MR映像時はお互いの距離がわかりますが、VRを観ている時は全くわかりません。このMRからVRへの切り替え、そして夢の世界に入るというインターフェイスはなかなか面白いなと思いました。

VR映像の方は、それほど凝った造りではなく、音声で説明してイメージを喚起するための素材という感じです。前にゲーム開発者から聞いたことがありますが、VR空間で、造りこみすぎると脳が処理し切れなくて、VR酔いすることがあるらしく、実際に普通の空間では、如何にいろんなものを本当は観ていないということがわかるんですが、VR空間でその適度にうまく省いた映像を見せるというのはまた難しいなとも思いました。小泉さんの作品は、その意味では、少しVR映像が物足りなく感じることもあったのですが、情報が過剰であればいいというわけではなく、何をどう見せるかというところなので難しくはあるなという感じです。でも一部面白い映像もあったので、期待値が高すぎたのかもしれませんし、私の想像力の問題かもしれません。

スザンネ・ケネディ&マルクス・ゼルク「I AM (VR)」

スザンネ・ケネディの 『I AM』は、小泉作品とは対照的にVR映像は、これでもかという位造り込まれた空間で、VRゲームの中にいるような感じです。鑑賞者は目で前方にあるいくつかのドアのうち1つを選んで、そこに床が移動し、映像が自動的に展開されるという感じですが、割と選択できる自由度は少ないように思いました。これは、スザンネもトークの時に言っていたんですが、将来的にはAIでオプションが増えるようにしたいとのことでした。

いくつかの部屋を体験した後、最後にエレベータに乗って、所謂、仏教の瞑想で自分を見つけるみたいな感じの流れなんですが、良くも悪くも映像表現には好き嫌いがあるかもです。トークでスザンネ自身が語っていたように、情報を過剰に提供することで、HMDを外した時に感じる現実空間との違いを強調した作品ですが、没入感を体感できるという意味では、小泉作品よりいいですが、VRゲームとどう違いを出すのかという点では、作家の世界観次第のところはありそうです。後、あれだけ情報を流すとなるとマシンパワーも結構必要だなと思い、裏方の方も大変だなとも思いました。

個人的には、仏教の瞑想の世界のようなものをシュミレートするなら、もう少し時間をかけて何部作かで見せるようにした方が、より世界観を受け入れ易いんではと思いました。あの時間で一気に見せるのはちょっとプロセスを辿るのに無理がありそうな感じがしました。

ツァイ・ミンリャン「蘭若寺<らんにゃじ>の住人」

ツァイ・ミンリャンの作品は、VR映画というべき作品で、画面の空間に霊のように浮かんでいる視点から映像を観る感じでした。監督がトークでも話されていましたが、VR空間で映画を見せる場合、360度見せないといけないのと、鑑賞者の視点が固定しづらいという点を挙げていましたが、蘭若寺という割と区切られた空間と、少ない登場人物によって、あまり視線をあちこちに動かすことなく映像に入り込めました。監督の手腕ですね。特に土砂降りの雨のシーンでは、思わず足元を見てしまう位、臨場感があったし、身近に俳優たちを眺めている感じが、普通の2次元映像より迫ってくる感が半端なかったです。

逆に言えば、こういう特殊な空間と少ない登場人物という設定がないとVR映画は難しいのではという感じも同時にありました。やはり鑑賞者がいろんな登場人物を追うようになると準備する映像やストーリーをどう構成するかは、鑑賞者側にも委ねられることになるので、作家性の強い映像作家の場合、どう造り込んでいけばよいのかが想像できないですが、今後、どうゆうVR映画が出てくるかは楽しみではあります。

中村佑子「サスペンデッド」

中村佑子さんの作品は、AR作品で、実際に撮影された場所を霊のようなものに導かれながらいくつかの部屋を移動し、各部屋で映像を見せるという作品でした。個人的にはOculus  QuestでNetflixを観ているので、とてもすんなりと作品に入り込めました。場所性を極めて意識させる映像作品で、映像を観終えた後も、場所をじっくり見たりして二度楽しめました。場所自体はそれほど特殊ではないのですが、映像を観た後には、少し特別な場所のように感じたので、もっと歴史的な(いわくつきの)建物だったりするともっと楽しめるのではと思ったりもしました。

4作品の中では、この作品が一番、応用可能性という意味で、今後の展開可能性が大きいのではないかとも思いました。先日、メタ観光という話を聴いたのですが、要は観光地というか、あるサイトを何重にも楽しむというコンセプトですが、中村作品のように、ある場所、建物を舞台としてそこに纏わる物語を映像化することで、その場所や建物の魅力が何倍にもなるのではないかということです。これは無限に応用が可能であり、作家であればオリジナルストーリーをつくることで、新たな魅力を場所に付加できるという意味でも面白いなと感じました。

課題

やはり、課題としてはデバイスがこなれていないので、よっこらしょと装着する感じなのが体験をちょっと面倒くさいものにしていることがあります。これはデバイスの進化を待たないといけないのですが、もっと軽いサングラスの2-3倍の重さのデバイスが出てくれば、一気に拡がる可能性はあるように思いました。早くそうなって欲しいですね。

それでも、4作品、それぞれいろんな可能性を見せてくれたという事で、とても良い体験であったと思います。東京以外でも楽しめる機会があるといいなと思いました。

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