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百万石メモリーズ 第九景「入らずの森気多大社・隠し砦の妙成寺五重」

百万石メモリーズについて

江戸から加賀藩に嫁いできたお姫様「珠姫(主人公:たまひめちゃん)」が前世の記憶を半分抱えて輪廻転生し、現代の加賀百万石を訪れる。 加賀百万石の各地にあるパワースポットや歴史的な場所を巡る物語。

この物語は、第一景から第十二景まであります。今回の話は第九景となります。
「百万石メモリーズ」全12章
■第一景 珠姫のお寺天徳院・白蛇龍神の金澤神社
■第二景 珠姫が通った子宝観音院・金沢城鬼門封じの五本松宝泉寺
■第三景 殿様の眼病治した香林坊地蔵尊・縁切りと縁結び貴船明神
■第四景 百万石まつりの尾山神社・十二支巡り願掛け香林寺
■第五景 希望が見える富樫城址・三天狗が守る前田家の裏鬼門
■第六景 利常の小松城址と浮宮天満宮・大聖寺の金龍山実性院
■第七景 奇岩胎内めぐり那谷寺・女人救済の遊郭串茶屋
■第八景 白山信仰の白山比咩神社・金運の金劔宮
第九景 入らずの森気多大社・隠し砦の妙成寺五重塔
■第十景 海流が交わる聖域珠洲岬・日本海を守る須須神社
■第十一景 化け鼠と戦った猫墓法船寺・夢枕に立った白蛇養智院
■第十二景 船出の大野湊神社・浄化の霊山医王山寺

第一景は無料でご覧いただけます。

第二景から第十二景までは、各話後半部分が有料(1話100円)になっております。
今後グランゼーラ公式noteでは、毎月1日と15日に順次配信してまいります。
一挙に最終の第十二景までご覧いただきたい方は、下記の電子書籍ストアにて販売中です。
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百万石メモリーズ公式サイトはこちら→https://www.granzella.co.jp/contents/book/


登場人物紹介

・珠姫(たまひめちゃん)
江戸から加賀藩に嫁いできたお姫様で、この物語の主人公。
前世の記憶を半分抱えて輪廻転生し、現在の加賀百万石の様々な場所を巡る。
・タケチョ
徳川家康公の前世の記憶を半分抱え、輪廻転生した。
孫である珠姫が心配で、豆狸の姿に変身して旅に同行している。

人物相関図

著者:麻井 紅仁子
編集・イラスト:ほんだしょうこ

第九景
入らずの森気多けた大社たいしゃ~隠し砦の妙成寺みょうじょうじ五重塔

「わぁ~~~!窓の外はすぐ海よ‼…ほんとに波打ち際を車で走ってるわ!」

「いゃあ、さすがにおれも驚いたぞ。リョウスケこんな浜辺を…お前、不思議な術でもつかうのか?」

「とんでもない。ここは全長約八キロの『千里浜ちりはまなぎさドライブウェイ』といって浜辺ギリギリを車で走行できる所です。夏場は海水浴場としても賑わっておりますよ」

「しかし、ここは砂浜だぞ⁉」

「ここの砂は格別きめ細かく、海水を含んで引き締まり硬くなるようですよ」

「ほほう…なんとも不思議じゃのう~」

「世界中で三か所しかないそうです」

「この日本海に沈む夕日を、波打ち際をドライブしながら見たら綺麗でしょうね」

「はい。それはもう圧巻の美しさですよ」

 愛しい息子、光高に別れを告げ、幼いころの懐かしい新之助との再会も果たした珠姫。今日はリョウスケの運転する車で能登に向かっております。

 彼らは今日、能登半島…つまり私、女龍の上をぐるりと一回りする予定らしいですね。

気多大社入らずの森入り口

  『能登は優しや土までも』住む人々の優しさや信仰深さを伝えるにこれほどふさわしい言葉はない能登です。
今日はどんな出会いが待っているのでしょうか。

「到着しました。ここが能登國一宮いちのみや気多けた大社たいしゃです。ご祭神は『大国主命おおくにぬしのみこと様』特に縁結びの神ということで近年は若い人が多く参拝されています」

「だったらリョウスケもお参りしないと!」

「また、そんなことを…僕はまだまだ。
いろいろ催しもあり若者にも人気ですよ」

「ん?この社、途方もない『気』を感じるぞ」

「たまもなの。なんだか不思議な感覚ね」

「いらずの森のエネルギーかもしれません。この気多大社には一万坪にもおよぶ、いらずの森という神域の森があり、奥宮にはご夫婦の神様が安置されております」

「なるほど、この気の力は凄いぞ。さすがの俺も押し返されそうじゃ!この夫婦神の力ではさぞや強力な良縁が結ばれるであろうなぁ」

「森の入り口にある鳥居から先は聖域で、宮司しか入ることはできませんが、鳥居の前にいるだけでも心が洗われます」

「たしか毎年の吉凶を占う珍しいまつりもあったのではないか?」

「はい。そうそう、新年号の令和は万葉集からのものだそうですが、万葉歌人大伴家持おおとものやかもちがここを参拝した折に詠んだ歌碑が、さっき通った千里浜近くにありますから。これからは万葉ゆかりの社としても賑わうかもですね」

「やはり能登は奥が深いのう」

「農作業を終えたあと、自宅に夫婦の田の神様をおまねきする『あえのこと』や『あまめはぎ』など無形文化遺産に認定された民俗行事も数多くありますしね」

「ほほう、田の神を家に招くのか?」

「はい、刈り入れがすんだ田に神様をお迎えに行き、あたかも生身の方に対するようにお風呂やお食事をさしあげ、そのまま春までご滞在いただきます。
春にまた田にお送りする、とても神聖で厳か。なのに、どこかあたたかい行事です。
お目が不自由な夫婦神様に丁寧にお声がけをしながらご接待する珍しい行事です」

「フムフム…能登はこれから観光地としても伸びしろがでかいぞ」

 のどかな田園道をゆく一行の目に妙成寺みょうじょうじの『五重の塔』が飛び込んでまいりました。この妙成寺は、七百年ほど前に日蓮上人の孫弟子が創建した北陸初の法華寺ほっけじ※1でございます。利常の母寿福院じゅふくいんが深く信仰したという菩提寺でもございます。

 利家の正室、お松の方の侍女がひょんなことから利常を生み、その子が三代藩主として前田家を継いだために藩主の母になったのが寿福院です。

 伝説によれば、戦で親族が皆殺しになる中、母と二人かろうじて生き残り、零落し田の草取り娘になっていたこの娘を、秀吉から能登を拝領した利家が巡回の途中で見出し城中に連れ帰ったのでございます。たいそう美声の持ち主だったとも。
菅原道真公を祖とあがめておりました利家ですから、この娘がれっきとした菅原公の流れを組む御家人のお血筋ということもきっとお心が惹かれましたのでしょう。

 利家の死後、髪を下ろし尼となった寿福院は深く日蓮宗を信心し、この妙成寺の復興と発展にお力を注がれたのでございます。

 利家との間は、ほんに夢まぼろしのように儚く薄いものだった寿福院ですが藩主の母として彼女の生涯は歴史に残り、『妙成寺中興の祖』としても語り継がれることになりました。この見事な五重塔もむろん寿福院の寄進により建立されたものでございます。

「姫様、ようおこしくださいました」

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