百万石メモリーズ 第三景「殿様の眼病治した香林坊地蔵尊・縁切りと縁結び貴船明神」
百万石メモリーズについて
江戸から加賀藩に嫁いできたお姫様「珠姫(主人公:たまひめちゃん)」が前世の記憶を半分抱えて輪廻転生し、現代の加賀百万石を訪れる。 加賀百万石の各地にあるパワースポットや歴史的な場所を巡る物語。
この物語は、第一景から第十二景まであります。今回の話は第三景となります。
「百万石メモリーズ」全12章
■第一景 珠姫のお寺天徳院・白蛇龍神の金澤神社
■第二景 珠姫が通った子宝観音院・金沢城鬼門封じの五本松宝泉寺
■第三景 殿様の眼病治した香林坊地蔵尊・縁切りと縁結び貴船明神
■第四景 百万石まつりの尾山神社・十二支巡り願掛け香林寺
■第五景 希望が見える富樫城址・三天狗が守る前田家の裏鬼門
■第六景 利常の小松城址と浮宮天満宮・大聖寺の金龍山実性院
■第七景 奇岩胎内めぐり那谷寺・女人救済の遊郭串茶屋
■第八景 白山信仰の白山比咩神社・金運の金劔宮
■第九景 入らずの森気多大社・隠し砦の妙成寺五重塔
■第十景 海流が交わる聖域珠洲岬・日本海を守る須須神社
■第十一景 化け鼠と戦った猫墓法船寺・夢枕に立った白蛇養智院
■第十二景 船出の大野湊神社・浄化の霊山医王山寺
第一景は無料でご覧いただけます。
第二景から第十二景までは、各話後半部分が有料(1話100円)になっております。
今後グランゼーラ公式noteでは、毎月1日と15日に順次配信してまいります。
一挙に最終の第十二景までご覧いただきたい方は、下記の電子書籍ストアにて販売中です。
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百万石メモリーズ公式サイトはこちら→https://www.granzella.co.jp/contents/book/
登場人物紹介
・珠姫(たまひめちゃん)
江戸から加賀藩に嫁いできたお姫様で、この物語の主人公。
前世の記憶を半分抱えて輪廻転生し、現在の加賀百万石の様々な場所を巡る。
・タケチョ
徳川家康公の前世の記憶を半分抱え、輪廻転生した。
孫である珠姫が心配で、豆狸の姿に変身して旅に同行している。
著者:麻井 紅仁子
編集・イラスト:ほんだしょうこ
第三景
殿様の眼病治した香林坊地蔵尊~縁切りと縁結び貴船明神
「ほほう~。ここが金沢一の繁華街、香林坊交差点か!」
「市長の秘書さんと、この香林坊地蔵堂の前で待ち合わせてるのよ」
「小さいが、立派な地蔵堂じゃな。
…なになに…由緒書きでは寛永の大火の時にこの地蔵が火伏 ※1をしたと書かれておるぞ」
「それだけじゃないの。光林坊という比叡山のお坊さんがこのお地蔵様のお告げを受けて処方した目薬で利家様のひどい眼病が全快されたんですって!
で、その人は薬屋の養子になったんだけどね。
たまの息子で前田家四代藩主になったのが光高だから、同じ字はいかにも恐れ多いと名前を香林坊と変えたんですってよ」
「なるほどなぁ…フムフム」
デパート前の交差点にちょっと不釣り合いに建つ小さな地蔵堂を覗き込む二人。
むろん、少し離れたところには今日も律儀にリョウスケが立っておりますよ。
「珠姫様!お懐かしゅうございます。私は市長秘書のカオリと申します」
「えっ?ちょっと待ってね」
声をかけてきた素敵な女性秘書さんに慌ててスマホをかざした珠姫の目にとびこんできたのは…
「まあ。幸様!幸様だわ‼」
「はい。よくお忘れなく…」
「忘れるものですか。ねぇ、タケチョこの方は利家様の長女で前田対馬様の奥方よ、利常様をお育てくださったお方なの」
「おう…そなたが利常を養育したのか」
「えっ!そういうお前様は?」
「おかしな姿してるけど江戸の爺なのよ」
「えっ家康様?これはこれは…くすくす」
「すまぬ。このようななりで、許せ」
「いえいえそれにしましてもまぁ、くく…」
「たまが加賀にきてすぐの頃に幸様が安江八幡の姫だるまを抱いてお城に来てくださったのを覚えています」
「姫がさみしい顔をしているから慰めてほしいと利常様が手紙をくれたのです」
「まぁ…そうだったの…殿が…あの時、これは七転び八起の縁起物だから、もし辛いことがあっても必ず起き上がれますよと教えてくれましたよね。たまの宝物なの」
このままでは涙なみだの昔語りが…再会の感激にうるうるしてる二人を見かね、リョウスケが割り込んでまいりました。
「すみません、ここではあまりに人目に立ちますので席を変えていただけませんか」
リョウスケが案内したのは、せせらぎ通りに近い静かなカフェの個室でした。
ここなら思う存分ゆっくりと…。
「ねえ、幸様が利常様と初めて会ったのはいつなの?」
「生後半年くらいで、夫がお迎えにいき乳母にだっこされて、駕籠で私たちの越中守山城におつれしたのが最初です」
「可愛かった?」
「ええ、それはもう。長い道中泣きもせず肝が据わってると周りも驚いてましたよ」
「幸様の息子の与十郎はその時七歳だったと殿からお聞きしたわ」
「その四歳下に二男が。後に二人とも利常様の家来としてお仕えしました」
「乳母がいってたわ、殿にお乳をあげてるとその二男が寄ってきて欲しがったからこっそり二人にのませてたって…ふふふ」
「まぁ、それは私も知らなかったわ、うふふ」
「本当の乳兄弟?ね。でも、殿が言ってたの。与十郎たちは家族一緒の館なのに自分だけは別の館で乳母とふたり…」
「私は利家の娘だし、結構自由に暮らしてたからこのときも家族同然にと言ったのだけど、律儀だけが取り柄の主人は利家様のお子、主筋の若様をご養育するのだから家族同然などとんでもないと」
「対馬は本当に忠義一途な性格だから」
「ええ、利常様に淋しい思いをさせたのですね。……でも、だからこそ、遠い江戸からわずか三歳でこられた姫様のお心が一番おわかりになりお二人の絆が深まったのかもしれませんね」
「たしか、幸殿は利家の長女でしたな」
「はい。二女は七尾城に、三女の摩阿はご存じのとおり秀吉の側室の加賀殿です」
「まぁ、秀吉ったら……親友の娘を側室にしたのいやらしいわぁ」
「あの時代じゃ珍しくもありませんよ。次の妹、豪は生まれてすぐ秀吉の養女に…」
「えっ!姉妹でそんなに運命がちがうの?かわいそうじゃない?」
「さぁ…どちらが幸せでしたかねぇ。摩阿は早くに暇をもらえ新しい道にいけましたが秀吉夫妻に溺愛された豪は、同じく秀吉の養子宇喜多秀家に嫁いだものの…豊臣が滅んでしまえば大罪人。夫と二人の息子は八丈島へ流されてしまいましたから」
「島津の口利きが無ければ死罪じゃ。流罪で許しただけでもありがたいと思え。そのうえ豪は娘と加賀へ帰してやったぞ」
「そうですね。珠姫様のお輿入れ前でしたし前田を怒らせるのは得策じゃありませんでしたから。それに、秀吉の妻ねね様は豪を溺愛してましたからね。その上、ねね様と利家様の妻おまつ様は姉妹以上でしたし。
大阪の淀君親子との戦でねね様を味方にするには豪への仕置きを…」
「そこまで読まれていては何も言えんわい。しかし、八丈島の宇喜多への援助を明治になるまで続けていたとは、さすが前田だのう」
「末の妹、千世は細川に嫁ぎ…」
「細川?ガラシャ様の息子のところね」
「そう、そのガラシャ様は石田三成が徳川に味方しそうな武将の奥方を人質にしようとしたのを拒み屋敷もろともお亡くなりになりました。
が、その時、息子の嫁の千世には逃げよと。ちょうどその時お隣が豪の屋敷だったのも幸いしました」
「しばらくは一緒に高台院のもとにかくれておったのも知っとるわい」
「そして加賀に戻されましたが、二人ともキリシタンで利長様もご苦労されたと」
「お豪様の信仰は?島流しになった夫と息子や幼い姫のために信仰をお捨てになったの?」
「そうですね~でも、豪の性分を考えれば…」
「どういうこと?」
「加賀にはあの有名なキリシタン大名の高山右近様までいたのよ。豪に従ってきた沢山の宇喜多の家臣もおおかたがキリシタンだったらしいし。千世は家臣に嫁がせたけど、豪には千五百石の碌を持たせ、西町に広大な屋敷を建て幼い姫とともに暮らさせていましたもの」
「時期的にもむしろ、キリシタン禁制がどんどん厳しくなった利常のほうが苦労したかもしれぬな」
「ところが、その利常様もキリシタンだったというか…自身はともかく大坂の陣で手柄を挙げた三百人の家臣がキリシタンだったという視点の書籍がつい最近でたところなのです。
『古九谷の謎に迫る知られざる加賀キリシタン』という内容の」
「なんだと」
「私もまだ読んではいないのですが、利常様が『古九谷の大絵皿』を戦での褒章として家臣に与えていたそうです」
「なぜ?その大絵皿がキリシタンと関係あるの?」
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