社員をやめるまで その3 酒屋編-1

飲食未経験かつ多少のワインの知識しかなかった自分にとって、飲食スペースのある酒屋で働くことは超絶ハードモードだった。

その時その時に応じて、レジ打ち、品出し、商品のご案内、ドリンク・フードの作成、提供、バッシング。
最初の転職のときもそこそこキツかったが、30歳を過ぎて、マルチタスクの仕事を経験してこなかった自分には、地獄のような日々だった。

本当に使えなさすぎて、試用期間の3ヶ月でクビになるんじゃないかと怯えていたほどだ。

この仕事は「やりたいこと」だったけれど、自分に適性がないんだろうなとは、当時からうすうすは感じていた。

でも、これはやりたいことだから、という気持ちだけを胸に、自分のキャリアのために働いていた。

その後、2年くらいは基本的にアルバイトレベルの雑務。そして3年目くらいでちょっとずつ社員がやるような仕事を任されはじめた。

要は、会社に直接的に貢献するための、売り上げを上げるためのアイデア出しが必要になったのだ。

いずれ自分がその仕事を任されるようになるだろうとずっと思っていたし、会社もそれを期待していたはずだろう。
けれど自分には、3年間も働いていて、そういったアイデアがほとんど浮かんでこなかった。

もし、自分一人のお店だったなら、もしかしたら、アイデアを考えられたんじゃないかな、とは思う。

でも、それが売上にならず、予算を達成しなかった時のことを考えると怖かった。
自分の失敗が、自分一人で背負えるのならいくらでもやる。でも、それが他のスタッフに影響を及ぼすのが怖かった。

そしてちょうど同じくらいの時期に、接客が面倒だなと思うことが増えた。

もともと、人とは狭く深く付き合うタイプで、友達は少なく、社交的な性格ではなかった。

ただ、学生時代のアルバイトを通して、ライトな人間関係であれば、わりとうまくコミュニケーションが取れると感じていた。
そしてありがたいことに、わりとお客様に気に入っていだけることが多かった。

だから接客業は向いていると思っていた。

の、だけれど。

常連さんと雑談することが苦痛になってしまった。
お酒のこと全然わからないんですけど…という人にお酒の提案をすることに飽きてしまった。
自分の薦めたお酒が、本当に要望通りだったのだろうか、と毎回悩む割に、それを解決しようと努力する姿勢が伴わなくなってきた。

接客も面倒で、アイディアも出てこない。

ああ、あんなにやりたいと思っていたはずのことなのに。

これは、違ったんだ。

そう思った瞬間、働く意欲を失ってしまった。

役に立ったらサポートしていただけるととってもうれしいです。